ホンモノ素材辞典vol.3
今回の「素材辞典」は、古くから存在する素材ながら、人気が衰えるどころか、近年はその存在価値がどんどん増し、同時に価格も高騰している、コードバンについて解説します。
今や入手が超困難なコードバン原皮
コードバンは、牛ではなく、馬の殿部、つまりお尻の革である、というところまではよく知られているのですが、実はコードバンは、表面の皮の部分ではありません。表皮を削って剥いた、その下にある「コードバン層」と呼ばれる、繊維部分をなめして作られたのが、コードバンなのです。
この「コードバン層」が含まれるのは殿部のみ。そのため、1頭からは、お尻の右側と左側から1枚ずつ、とても小さな面積しか採れません。その形が中央でくっついたものを業界では「メガネ」と呼びます。
コードバンの滑らかさの秘密は、その繊維の並び方。コラーゲンの繊維が絡み合っている一般的な皮革素材と違って、コードバン層は繊維が整然と並んでいるのが大きな違い。表皮を剥いてその断面を露出させることで、この独特の肌触りは生まれています。
ちなみに競走馬であるサラブレッドにはこの「コードバン層」がほとんど存在しません。ヨーロッパで農耕や食肉のために飼育されている、特定の馬種だけから採取できます。足が短く筋肉でお尻が盛り上がった農耕馬だけが持つ特別な部位なのです。そのうえ、コードバン層が採れる農耕馬は、もともと生産数が少なかったうえ、農業の機械化が進んだ現在、その数ははっきりと減少傾向にあります。
限られた作り手が生み出す革のダイアモンド
コードバンの主要なタンナーは世界で2社。アメリカのホーウィン社と、日本の新喜皮革です。ほかにもアルゼンチンやイギリスなどにもタンナーは存在しますが、生産量の面で言えば、上記の2社の寡占状態と言って良いでしょう。
さらに日本にはタンナーからなめした革を仕入れてアニリン染めなどの2次加工を行う職人工房、レーデルオガワなども存在します。世界屈指の加工技術とも言われ、特にアニリン染料を使った加工は、透明感のある世にも美しい発色です。
エイジングにより、さらに魅力を増すコードバン
エイジングと呼ばれる経年変化で、革を自分色に育てる楽しみもまた、コードバンの特筆すべき魅力です。さまざまなフィニッシュ加工があるので、それぞれの変化がありますが、多くは使ううちに使用者の皮脂でさらに艶が深くなり、また色も濃くなっていきます。
またエイジングによって艶が出るのと同時に起こるのが、変形です。前述のようにコードバン層は繊維が整然と並んでいるため、引っ張り強度が比較的弱く、使用しているうちに内容物などのシルエットがくっきり浮き出して「アタリと呼ばれるクセ」がつき、使い手の手に馴染んだものになっていきます。靴のアッパーなどに使われる理由は、まさにその性質を生かしたもの。逆に、極端な変形を嫌うのであれば、財布などの場合はヒップポケットに入れないといった配慮も必要になるでしょう。
また、コードバンは単層構造であるため、一般的な皮革素材のように「浮き」と呼ばれる上下層の剥離が起こらないことも特徴です。
一方で、エイジングが進むと傷や油分、水分に対する弱さも増していくので、皮革素材用トリートメントなどを使ったお手入れも欠かさないようにし、気長につき合っていきたいものです。
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