「日本探偵小説三大奇書」というものをご存じだろうか。小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』、中井英夫の『虚無への供物』、そして夢野久作の『ドグラ・マグラ』だ。
この3タイトルに共通しているのは、「難解さ」だ。いわゆるミステリーや推理小説の範疇に入るのだろうが、内容は複雑怪奇で、一読してもまったくもってすっきりしない。しかし、なんとなく引きこまれてしまう魅力がある。
僕は、このうち『ドグラ・マグラ』は読破した。次に『黒死館殺人事件』にチャレンジしたが、途中で挫折した。『虚無への供物』に関しては、まだ手に入れていない。
読破までは辛く長い道のり
『ドグラ・マグラ』は、とにかく構成が複雑だ。その上、長い。読み終わるまでに結構な時間がかかる。読書に対する精神力を問われる作品とも言える。
実は、二度目を読もうと思っていたのだが、最近仕事が忙しい上に、読む気力がなかなか湧いてこない。読み始めるまでの決意が固まらないのだ。
そこで、この奇書をマンガにした『ドグラ・マグラ ─まんがで読破─』(夢野久作・著/バラエティ・アートワークス・著/イースト・プレス・刊)を読むことにした。
マンガ版『ドグラ・マグラ』はすぐ読める
マンガ版『ドグラ・マグラ』は、すぐ読み終わった。ストーリーもわかりやすくなっており、初めての『ドグラ・マグラ』がこのマンガという人は、少々拍子抜けするかもしれない。
『ドグラ・マグラ』がどんなものなのか知りたい、知識として一度は読んでおきたいという場合は、マンガで十分だろう。しかし、このマンガではストーリーはわかっても、ほんとうのカオスさはわからない。
「ドグラ・マグラといえば?」と質問をしたら、10人中8人くらいは「チャカポコチャカポコ」と答えると思われる、あの有名なシーンが出てこないだけでも魅力半減と言えるだろう。
『ドグラ・マグラ』を堪能するなら、やはり小説版を読むのが一番だ。
マンガからの青空文庫で『ドグラ・マグラ』を安全に堪能する
実は『ドグラ・マグラ』は、すでに著作権保護期間が終了しており青空文庫で公開されている。もちろん無料で読むことが可能だ。こんなわけのわからない、すごい小説が無料で読めるのだから、青空文庫さまさまだ。
そもそも、『ドグラ・マグラ』をマンガ化するということ自体がちょっと無理なことなのだ。一説によると、「本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」とも言われてるらしい。
原作を忠実にマンガ化しようものなら、ものすごいページ数になるだろうし、マンガ家の精神が壊れてしまう可能性だってある。それほど、『ドグラ・マグラ』は劇薬なのだ。
もし、これから『ドグラ・マグラ』を読もうと思っているのなら、まずマンガから読んでみてはどうだろうか。少し耐性をつけてから小説にチャレンジすると、スムーズに世界観に入り込めるかもしれない。
かなりの劇薬である『ドグラ・マグラ』を安全に楽しむには、マンガと小説の2本立てがオススメだ。
(文:三浦一紀)
【文献紹介】
ドグラ・マグラ ─まんがで読破─
著者:夢野久作、バラエティ・アートワークス
出版社:イースト・プレス
僕はいったい何者なんですか!? 大正末期の九州大学精神科病棟。記憶喪失の青年と彼を見守る法医学教授。青年の脳裏に眠る迷宮入りの怪事件を巡り、精神科教授が謎の死を遂げ、怪奇なる因縁に彩られた殺人事件が次々と巻き起こる。怪奇と幻想の色濃い作風で名高い夢野久作の代表作。「これを読むものは一度は精神に異常をきたす」といわれる伝説の奇書を漫画化!