チャーハン。日本における中華の定番であり、ラーメンや餃子並にメジャーな料理のひとつだろう。もちろん多くの名店が存在する。そこで今回は街中華のなかでもきわめてチャーハンが有名な、板橋・大山の「丸鶴」を紹介したい。
おもてなしの心がしっとり食感と絶品チャーシューを生んだ
その味はもちろん絶品。だがひとつ言っておきたいのは、あくまでもチャーハンの知名度が高いに過ぎず、ほかのメニューも激ウマだということ。これはどの街中華にもあてはまることだが、チャーハンのようにシンプルな料理がおいしい店は、大抵何を食べても間違いない。
ではなぜ「丸鶴」はチャーハンが有名なのか。それは、個性的だからであろう。とはいえ奇をてらっているわけではない。店主・岡山 実さんが持つおいしさへの熱い探求心と人情味が、結果的に最高峰のチャーハンを生み出したのだ。
一般的に、チャーハンの米の食感はパラパラがよいとされる。多くのレシピガイドやメディアでも、パラっと仕上げる技が紹介されることは多い。だが「丸鶴」は違い、みずみずしいのだ。そして板橋区にはこの「しっとり系チャーハン」の店が多いということでTVが取り上げ話題になったことがある。
個人的に、食感は好みの問題でありおいしければどちらも正解だと思うが、とにかく「丸鶴」のチャーハンはしっとりしていて抜群にうまい。聞けば、チャーハンの“パラパラ信仰”は、炊飯ジャーがなかった時代の名残ではないかとのこと。余った白飯を翌日に活用するためチャーハンに用いられ、それが定着したようだ。しかし岡山さんは、炊きたてご飯によるチャーハンを提供したかった。だから手間がかかってもこまめに炊く。いわば、おもてなしの心がしっとりチャーハンを生み出したのだ。
ちなみに、チャーハン用のご飯は定食用とは別に硬めで炊いている。そのため、米同士の離れがよく具材との一体感も秀逸。そして調味料にもすべてこだわっている。油は固形のフレッシュラード、味付けは蔡李記の「特選 蠔油」というオイスターソースと、毎朝仕込む自家製の「ジャンユー」が決め手だ。
極めつけはチャーシュー。豚の肩ロースをブロックで仕入れ、柔らかく仕上げるために、あえて紐で縛ることはしない。さらには煮込まずじっくりと3時間「ジャンユー」に漬け込むことで、独自のチャーシューを完成させる。若かりしとき、肉について学ぶために肉卸工場で働いた経験がある岡山さんならではの逸品なのだ。そんなほろほろの肉塊をたっぷり使ったのが、絶大な人気を誇る「チャーシューチャーハン」。
全体的なおいしさには高度なテクニックも関係している。固形のフレッシュラードと炊きたてのご飯を用い、店の最大火力で炒めながら1分半で手早く調理。吟味した素材と惜しげもない労力、そしてスピーディな技が三位一体となっているから「丸鶴」のチャーハンはくどくなく、究極にうまいのだ。
毎朝6時からの仕込みを50年以上続けている
「チャーシューチャーハン」と人気を二分するのが「レタスチャーハン」。これも驚くほどに、レタスのエッジがしっかり立っていて素晴らしい。圧倒的にシャキシャキとした食感は、やはり手間暇をかける仕込みから生み出される。
同店の蛇口は、天然性のミネラルウォーターを引ける仕様になっている。この特別な水に大きくカットしたレタスを1時間以上漬け込み、乾かしつつ浸透させてから冷蔵庫で冷却。「ジャンユー」もチャーシューもそうだが、とにかく仕込みを丁寧に行うため「丸鶴」の朝は毎日6時と早い。これを奥様とふたりで50年以上続ける岡山さんには敬服する。
もちろん昼から飲めるので、つまみをアテに酒を楽しむのも一興。単品の「焼豚」1000円、「ロースとんかつ」1000円、「鳥の唐揚」900円、「レバー炒め」600円、など多彩で絶品だ。「ラーメン」500円をはじめ麺類も高コスパで充実しており、豚のゲンコツと鶏ガラ中心に炊いたスープと「ジャンユー」を軸に、地元の「つるや製麺」特注の手もみ麺を合わせた至福の一杯を味わえる。大山は駅前にある「ハッピーロード大山商店街」のにぎわいで知られているが、街中華でもまたハッピーになれること必至なのだ。
撮影/我妻慶一
【SHOP DATA】
丸鶴
住所:東京都板橋区大山西町2-2
アクセス:東武東上線「大山駅」徒歩7分
営業時間:月、火曜11:00~15:00、水~土曜11:00~15:00/17:00~22:00
定休日:日曜