新宿駅を起点とする小田急電鉄と京王電鉄が、それぞれ新車両・新列車を、この春に登場させて注目を浴びている。小田急は3月17日に新ロマンスカー「GSE(70000形)」を登場させる。京王は2月22日に座席指定制の有料特急「京王ライナー」の運行を始めた。
小田急は観光用の特急ロマンスカー、一方、京王は通勤型電車で、シートの向きが転換できる座席指定制特急というスタイルの車両だ。2つの車両の単純な比較はできないものの、未来の鉄道車両と、未来へ向けた運行スタイルの姿が見えてくる。注目される新車両・新列車の乗車ルポをお届けしよう。
座れば心がウキウキ! 迫力の前面展望が魅力の新ロマンスカーGSE
小田急ロマンスカーといえば、小田急電鉄の特急の代名詞であり、同社のシンボル的な車両となっている。1957(昭和32)年にSE(3000形)を登場させて以来、時代を象徴する車両を世に送りだしてきた。
ところが、2000年代にVSE(50000形)、MSE(60000形)が新造されて以来、2017年にリニューアル車のEXEα(30000形)の投入があったものの、GSE(70000形)という車両の登場まで10年の歳月を待たなければならなかった。
この春、待望の新型GSE(70000形)が登場する。GSEとはGraceful Super Expressの略で、“優雅なスーパー特急”という意味になるだろうか。
車体は薔薇の色をイメージした「ローズバーミリオン」。一見して華やかなカラーで、これまでのロマンスカー車両に比べてかなり目を引く。そしてこの車両の特徴であり、最大の魅力となりそうなのが、先頭に設けられた展望席。前後車両に展望席を設けたスタイルは、LSE(7000形)、VSE(50000形)といった車両に受け継がれてきた。
特急電車の一番前に陣取って展望を楽しむ。鉄道ファンでなくとも、誰もが一度は経験したいと思うはず。座れば心が浮き浮きする、そんな楽しめるスペースが新ロマンスカーにも採用された。
GSE(70000形)では、展望席を持つ同スタイルのVSE(50000形)に比べて前面のガラスの高さを30cmほど拡大、先頭の座席を35cmほど前に配置した。
実際に、短時間ながら筆者も先頭の展望席に座ってみた。試乗会での体験だけに、ゆっくりと楽しめなかったが、 “迫力に圧倒される!”と感じた。正式に走り出したら、展望席の指定券をぜひゲットして乗りたいと思う。
この展望席の指定券は運転開始後、高嶺の花になること間違いない。当初は、なかなか指定券が取れそうにない。ただ、心配はご無用。ほかの席でも十分に新ロマンスカーの魅力が満喫できる。
通常席にいながらにして前面や後部の展望が楽しめる
中間車の車両であっても、側面の窓はVSE(50000形)やMSE(60000形)よりも広い天地幅は100cm。さらにつなぎ目のない連続窓で、車窓が十分に楽しめる。
さらに面白いのがスマホで同列車の前面展望が楽しめること。車内で無料Wi-Fiシステムが使えるとともに、Romancecar Linkというサイトにつなげば、この前面展望が楽しめる。前面展望だけでなく、後部の展望映像も楽しめるというのが面白い。
筆者はスマホしか持参しなかったが、画面が大きめのタブレット端末を使えば、より迫力のシーンが楽しめそうだ。ちなみにこのシステム、座席の背に解説がある。観光情報なども見ることができて、役立ちそうだ。
乗り心地や細やかな配慮にも注目!
つい展望席に注目が集まるが、乗り心地にも触れておきたい。このGSE(70000形)には左右方向の車両振動を低減する「電動油圧式フルアクティブサスペンション」が装着されている。新幹線では東北新幹線E5系などの一部車両に電動式のフルアクティブサスペンションを使用しているが、在来線の量産車では初という電動油圧式のフルアクティブサスペンションの導入となった。今後は、東海道新幹線の新型N700Sにもこのシステムが使われる予定という優れた装置だ。
今回の試乗は短時間だったこともあり、電動油圧式フルアクティブサスペンションの性能こそ味わえなかったが、どのぐらいの成果が得られているのか、気になるところだ。
小田急電鉄では、3月17日(土曜日)にダイヤ改正の予定。下北沢駅付近の改良工事が完成し、代々木上原〜登戸間の複々線工事が完了する。それとともに特急ロマンスカーも、よりスムーズに運行されることになる。
GSE(70000形)は主に「はこね」「スーパーはこね」として運行される予定だ。新ロマンスカーに乗車できる日が待ち遠しい。
*注:小田急線〜箱根登山鉄道線の区間を直通する特急の料金割引が終了します。そのため、3月17日から新宿駅〜箱根湯本駅の特急料金が1090円と200円、高くなります
京王で初めて!座席指定制「京王ライナー」の運行開始
京王電鉄は新宿駅が起点の京王線系統、渋谷駅が起点の井の頭線の2路線を運行する。井の頭線の路線が12.7kmと短いのに比べて、京王線系統は西に路線が延び、新宿駅〜京王八王子間の京王線、調布駅〜橋本駅間の相模原線、北野駅〜高尾山口駅間の高尾線などの路線が広がっている。
京王線系統の総延長は71kmと路線の距離はかなりのもの。加えて都営新宿線との相互乗り入れも行われている。
京王電鉄としては初めて座席指定制の有料特急として2月22日から運行開始されたのが「京王ライナー」。車両は2017年10月から走り始めた新型5000系が使われている。5000系は通常の通勤電車として走るときは、窓を背にして座席が並ぶロングシートに、また座席指定制の有料特急として走る時はクロスシートに座席の向きが変更される。
2月22日のダイヤ改正に合わせて設定された「京王ライナー」の運行ダイヤは次の通りだ。
運転は夜間の下りのみで、平日は20時以降、30分間隔で新宿駅発→京王八王子駅行き、新宿駅発→橋本駅行きが交互に計10本が運転される。夜は0時20分発の橋本駅行きが最終となる。
土休日は、運転時間がやや早めの17時から。17時発の時刻ちょうどが京王八王子駅行きで、各時間20分発が橋本駅行きとなる。運転本数は計10本。土休日の最後は21時20分発の橋本駅行きが最終となる。
1席400円。PCやスマホでも購入ができる
座席指定券の料金は400円。運転当日の指定券が、新宿駅にある京王ライナー専用券売機と、Web( PCかスマホ)で購入できる。筆者は、スマホでの予約・購入にチャレンジ、土曜日の17時発の京王ライナーに乗る手配をしてみた。
まずは会員登録を行う。仮登録などの多少のやりとりはあるがスムーズ。ログインすると、その日の京王ライナーの発車時間が表示される。乗りたい京王ライナーの「指定券を購入する」で、希望の号車や、座席タイプが指定できる。さらに座席表から、座りたい席が選べる。
筆者は運行開始後、最初となる土曜日の17時発を選択した。さらに先頭車に乗りたいので、念のため朝に予約を入れたが、すでに先頭車の半分以上の席が埋まっていた。座席を決めたら、同意のチェックと、会員登録した際のパスワードが必要となる。パスワードを最後に打つというひと手間があるものの、新宿駅の券売機で買うよりも、早めの座席指定ができて安心だ。
確実に座れて快適ながら通勤用車両ならではの気になるポイントも
発車時に独特のミュージックフォーンを奏で、新宿駅2番線ホーム(京王ライナーはすべて同ホームを発車)を17時に出発。週末だったせいか、鉄道好きらしき乗客が多い。隣に座った人に声をかけてみると、やはり鉄道ファンだった。各鉄道会社の座席指定制の特急を比較のため乗車しているという。
車内アナウンスの前には、癒し系の音楽がワンフレーズ流される。このあたりも京王ライナーならでは。ちなみに、5000系が通勤時に使われるときはこの音は流れず、シンプルなアナウンスとなる。座席も、ロングシート、クロスシート転換式ならではといった印象だが、座り心地は悪くない。各座席の足元には電源用のコンセントも設けられる。
ただ、少し足元が狭く感じた。転換式のため狭くならざるを得ないのかもしれない。
発車して22分で最初の停車駅、府中駅に停車する。途中、明大前駅(一時停止の運転停車を行う)と調布駅は停車しない。この府中駅より先は座席指定券が不要となり、誰でも乗車できるようになる。ちなみに橋本駅行きの場合は、京王永山駅から先の座席指定券がいらなくなる。
府中駅から乗る人が数人いた。わざわざ乗りに来たと思われる親子づれも。知らない人は、席の向きに戸惑っている様子だ。そして17時39分に終着の京王八王子駅へ到着する。所要時間39分の短い旅は終わった。
京王ライナー利用の場合、新宿駅〜京王八王子間は最短35分、新宿駅〜橋本駅間は最短32分と早い。
運転開始から1週間、実際の利用率は?
運転開始から1週間あまり。指定席の埋まり具合を確認してみた。
最初の数日は、記念に乗ろうと、早めの時間帯の指定券はほぼ満席となった。週が開けて2月26日からは、20時30分、21時30分発の橋本行きは満席となった。傾向として京王八王子行きよりも、橋本駅行きのほうがより利用率が高い。早めに売れ切れる京王ライナーは少なく、発車30分前に座席指定券を求めても十分に購入できるようだ。
京王電鉄にとって最初の有料特急の運転ということで、手探り状態ということもあるのだろう。もしもの話だが、平日朝の上り京王ライナー、また平日の18時台、19時台の下り京王ライナーが運転されればと思う。また都営新宿線からの直通京王ライナーがあれば使い勝手が良さそうだ。ピーク時、同線の飽和状態を見るとなかなか難しいプランかもしれないが。
今後、どのように修正が加えられていくのか、京王線沿線に住み、日々、京王線を利用する筆者にとしても期待しつつ見守りたい。