吉森信哉のレンズ語り~~語り継ぎたい名作レンズたち~~ 第1回「オリンパス M.ZUIKO PROレンズ」
一眼レフやミラーレス一眼の醍醐味は、“交換レンズを駆使できる”ことである。カメラボディは同じでも、違うレンズを装着することで、まったく異なる視覚効果(画面の広さ、遠近感、ボケの度合い)が得られるのである。だから、そのカメラでどんなレンズが使用できるかは、極めて重要なポイントだ。
そして、名作といわれる製品は、ただハイスペックなだけでなく、語りたくなるポイントがある。本連載ではそんな“語りどころ”にフォーカスし、おすすめの交換レンズを紹介していく。
第1回で取り上げるのは、オリンパスのM.ZUIKOレンズ群のなかでも、高い光学性能と防塵防滴や堅牢性を兼ね備え、過酷な状況下でも高画質が得られる「M.ZUIKO PROレンズ」(現在9本)。本稿では、同シリーズでも特に魅力的な描写やパフォーマンスが得られる3本をピックアップして紹介したい。
オリンパス「M.ZUIKO PROレンズ」レビュー①
驚きの明るさと近接能力を誇るハイスペック魚眼レンズ
オリンパス
M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
実売価格10万7710円
交換レンズとしては世界初「F1.8」の明るさを実現した、画期的な魚眼レンズ。対角線画角が180°と極端に広いが、高い光学性能により画面中心から周辺まで優れた描写を得ることができる。
●焦点距離:8mm(35mm判換算:16mm相当) ●レンズ構成:15群17枚(非球面レンズ1枚、スーパーEDレンズ3枚、EDレンズ2枚、スーパーHRレンズ1枚、HRレンズ2枚) ●最短撮影距離:0.12m ●最大撮影倍率:0.2倍(35mm判換算:0.4倍相当) ●絞り羽根:7枚(円形絞り) ●最小絞り:F22 ●フィルター径:- ●最大径×全長:62mm×80mm ●質量:315g ●その他:防塵・防滴・耐低温性能
コツさえつかめばダイナミックな空間表現が思いのまま!
画角が極端に広くて、画面周辺部に向かうほど像が大きく湾曲する。その魚眼(フィッシュアイ)レンズの独特な描写は、肉眼とは異なるダイナミックな空間表現を可能にする。だが、その独特な描写ゆえに“特殊なレンズ”という印象を持つ人は多いだろう。
事実、魚眼レンズを思い通りに使いこなすには、ある程度は経験を積んでコツをつかむ必要がある。例えば、画面内に“目を引くポイント”を取り入れたり、画面の四隅に目障りなモノを入れない、といったことである。そういった点に注意しながら、F1.8の明るさを生かした夜間の手持ち撮影を楽しんだり、レンズ先端から2.5cmまでピントが合う近接能力を生かしたダイナミックなマクロ撮影などを堪能したい。
次の作例では、逆光の光と影が印象的な竹林を、すぐ近くから見上げるように撮影。対角線画角180°の広大な画面と、竹や周囲の木が大きく歪む描写が、実際よりも開放的な雰囲気に演出してくれる。
このレンズの最短撮影距離は12cm。だが、それはセンサー面からの距離で、レンズ先端からの距離は前述の通り「2.5cm」である。次の作例をご覧いただいてわかるように、その抜群の近接能力によって、極端に画角が広い魚眼レンズでも一輪の桜をここまで大きく写せるのだ。
また、レンズの被写界深度(ピント位置の前後のシャープに見える範囲)は、焦点距離が短いほど深くなる。だから、焦点距離わずか8mmの本レンズは、必然的に被写界深度は深くなる。一方、F値が明るいほど被写界深度は浅くなる。だから、F1.8の開放で撮影すれば、割と近い被写体なら、狙った被写体の前後をぼかすことも可能になる。
ボケ表現だけでなく、開放F値が明るいということは、それだけ“ISO感度を上げなくても速いシャッターが使える”ということである。次の作例は夜間、外灯に照らされる植え込みの木を、手持ちで撮影したもの。こうした場面でも、極端な高感度が避けられ(ボディ内手ブレ補正の効果も手伝って)、画質劣化を最小限に抑えることができた。