「週刊GetNavi」Vol.65-4
日本の電子書籍ストアは、その性質上、旧作のまとめ買いが大きな収益源になっている。まとめ買いは客単価の上昇につながるし、まとめ買いした顧客はそのストアを利用し続ける「固定客」になる可能性が高い。だから、電子書籍ストアは「まとめ買い」を推進することについては積極的である。
一方、旧作重視の方針は、出版界全体の成長を考えるとプラスとは言い難い。過去の作品は重要だが、出版の世界は、常に新しいものが生まれることで成長してきた部分がある。新しいものが売れづらいということは新人を発掘しづらいということであり、将来の可能性を狭める結果になりかねない。
紙の書籍の世界でも、「新人発掘の困難さ」は大きな課題だ。過去には雑誌がその役割を担っていたのだが、雑誌の市場が急速にシュリンクしたため、雑誌だけでは新人を発掘して育てる役割を担えなくなりつつある。
代わりにその役割を果たしているのがウェブだ。ウェブの無料コミック誌や小説投稿サイトは、新人の登竜門となってきている。しかし、これも十分な役割を担えていない。無料メディアであるがゆえに、新人に十分な報酬を与えることができないからだ。現状、ウェブメディアからのマネタイズは「単行本化」で行われるのが一般的である。しかし、電子書籍の市場は旧作が中心であり、新人の単行本を発掘して売る機能が弱い。紙の市場でのビジネスのほうがまだ大きいのだが、書店の力も弱っており、結果、新人の著作の販売量は落ちてきている。
紙と電子書籍を比較し、電子書籍のコミックの市場が伸びてきたのは良いことだ。だが、両者の市場特性が異なり、電子書籍が「新人発掘の場」になっていないことは、出版業界全体にとってはプラスとは言い難い。雑誌のもっていた「新人発掘」の機能をどう電子書籍やウェブで実現するかが、喫緊の課題である。
旧作の電子書籍(特にコミックス)の販売手法では、日本が他国に先駆けて、販売数量を増やす売り方を見つけ、市場を活性化した。そのバイタリティを、新作の販売増加と新人発掘の機能に活かして欲しいと思う。当然、各電子書籍ストアの人々は、その方法論を考え続けているはずだ。
まったく同じ問題は、一足先に物理メディアからネット配信へと移行が進んでいた音楽でも起きていた。そんな音楽市場も、この新人発掘問題については完全な解決策を見いだせていない状況だ。
ただ、YouTubeのような広告による無料メディアからの収入確保の方法が見えてきたことや、SNSを介したマーケティング手法によってネット配信の視聴につなげる方法論が見えてきたこともあって、「新人がネットからヒットを生み出す」例が、アメリカなどでも見られるようになってはきた。アメリカの音楽市場は、一時停滞したものの、今はネット配信が牽引する形で大きな成長期を迎えている。そのなかで、新人をいかにネットから生み出すか、というテーマに取り組んで、成果がすこしずつだが出始めたところだ。
日本の電子書籍市場も、「コミックで紙を抜いた」ことを良しとせず、「新人発掘を含めた健全な成長」を目指さなくてはいけない。それが出来たとき、初めて出版は「紙かデジタルか」で迷う必要のない市場になるだろう。
●次回Vol.66-1は「ゲットナビ」6月号(4月24日発売)に掲載予定です。
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