立ち食いそばが大好きで、いろんな“ついで”に食べ歩きをしている僕ですが、目当ての店を訪ねてみたら閉店していた……ということがたまにあります。
実は立ち食いそば店って、高齢化問題が深刻なんですよね。店主さんご自身が働けなくなったり、老老介護で経営できなくなったり。繁盛している店が「惜しまれつつ閉店……」というケースもけっこうあります(もちろん二代目、三代目が引き継いでくれる店もありますが)。
だから気になる店には早め早めに行っておくべきなのです。「いつでも食べにいけるから」なんて思っていたら、いつの間にか店がなくなっていて、激しく後悔することになりますから。
6月末で閉店予定……江戸川の隠れた名店
ということで、今回紹介するのは東京の東のはずれ、江戸川区の「山田製麺所」です。都営新宿線・瑞江駅から新中川方向へしばらく戻った、鎌田川親水緑道の近くにある店で、店の前には夏も冬もよしずが立てかけられているのが特徴。そして店のひさしの横面には「ゆで麺」の看板が。この2アイテムが、何ともいえない雰囲気を醸し出しています。
実はこの店、僕の自宅から歩いて5分くらいの場所にある超地元店なんですよ。あんまり地元なので、ブログですぐに紹介するのも気が引けて、タイミングを見計らっていたんですが、そうしたらなんと、6月いっぱいで閉店するとの情報が! そこで、慌てて紹介することにした次第です。
店には正面と側面にカウンターがあって、よしずの裏の正面カウンターの前には6人くらいが座れるテーブルが2つ(いわゆるオープンテラス状態)。また、サイドのカウンターには、4人ほどが入る立ち食いスペースがあります。厨房はおばちゃん(というかおばあちゃん)が3人で切り盛りしている、昔ながらのお店です。
僕は昼前に行ったり昼過ぎに行ったりするんですが、店はだいたいいつも賑わっていますね(これだけ繁盛してるんだから、やはり閉店の理由は高齢化問題か……)。来店すると、カウンターの前に4~5人の客が並んでいます。その列に並んでいると、厨房の奥から「次の方、注文は~?」と訊かれて、まずは「そば」か「細うどん」か「きしめん」かを選択。列の前に進むうちに麺がゆで上がり、そうしたらトッピングを注文して現金払い、というシステムです。
とにかくつゆが旨い! フワフワ食感の麺もクセになる!
僕がこの店で一番気に入っているのは、つゆ。甘みがあるけど甘ったるくはない、だしのうまみがしっかり効いていて、しょうゆの尖った辛さは感じさせないけど、いい意味で塩分が効いている、そんな味です。このつゆのうまさは、どんな名店にも引けを取らないと断言できます。
看板にもある通り、そばはゆでめん。この店、店の奥に工場もあるれっきとした製麺所なんですが、そばもうどんもフワフワです。正直、最初に店を訪れた頃はこの食感がイマイチだったんですが、いまではそのフワフワがたまらない! ツルツルでもモゴモゴでもない、いつの間にか口の中でほどけていく感じ。「冷麦風」という人がいるけど、まさに太めの冷麦感覚です。ちなみに細うどんはもっとフワフワで、これまたクセになります。
天ぷらは揚げ置きで、カウンターのショーケースに様々な種類が並んでいます。玉ねぎ中心のかき揚げ、さつまいもなどが入った五目かき揚げのほか、春菊天やいか天、ちくわ天、ソーセージ天などバラエティ豊富。なかにはいわし天のようなレアアイテムもあります。多くの天ぷらはコロモ多めで、それがつゆにグズグズに崩れてきたところをつゆやめんと一緒に食べると、何ともいえない愉楽の境地。これがいわゆる“口福”です。
なかでも僕が好きなのはごぼう天。ここのごぼう天はとにかくごぼうが太い! まるで木の枝を食べているのかと思うほどで、こんなに太いごぼう天は他ではなかなかお目にかかれません。「ガリッ!ゴリッ!」と噛みしめると、ごぼうの土臭い風味が広がって、これが甘辛のつゆと驚くほどよく合います。ちなみにこぼう天そばの価格は、かけそば320円+ごぼう天100円の計420円です。
僕は瑞江に引越してきた当初、たまたま近所を自転車でウロウロしていて、「ゆで麺」の看板のあるこの店に遭遇しました。「はっぴいえんど」という70年代のバンドのアルバムで、ジャケットに「ゆでめん」の看板が描かれた作品があって、この店とちょっとイメージが重なるんです。山田製麺所は地元で働く人たちを長く支えてきた繁盛店ですが、その一方で年中よしずが立っているこの店は僕にとって、ある意味ノスタルジーを感じさせる空間です。
なんだかいつになく感傷的、かつ饒舌になってしまいましたね。でも、瑞江の山田製麺所は2015年6月末(28日)まで営業しています。午後2時には閉店し、月~水曜が定休のほか不定休もありますが、土日は営業しているので、その意味では遠くからくる人も訪れやすいかも。このブログを見て気になった人、瑞江の山田製麺所の噂を聞いていて、一度そのそばを食べてみたい、と思っていた人は、ぜひ閉店前に絶品つゆとフワフワめんを味わってみてください。