クラウドファンディングサイト「Makuake」の運営元、(株)マクアケの広報さんからメールが届きました。どうやら日本酒に関するクラウドファンディングのPRのようです。
「日本酒の!注目プロジェクトがありご連絡させて頂きました」
なんで日本酒の! が太字なんだろう……。勢いだけは伝わってきます。いったい、どんなプロジェクトなんでしょう?
高付加価値ブランド「SAKE100」の1本を数量限定で先行発売
「国内最大の日本酒専門メディア『SAKE TIMES』を運営するClear Inc.が手掛ける”100年先にも色褪せることのない日本酒の魅力”を提供する新しい日本酒ブランド『SAKE100』。今回のプロジェクトは、そんな『SAKE100』の第1弾商品となる『百光 -byakko-』を数量限定で先行発売するというプロジェクトです」
へえ。壮大なビジョンですね。あ、「SAKE100」の読み方は「サケひゃく」でも「サケワンハンドレッド」じゃなくて、「サケハンドレッド」なんですね。
「『百光』が目指したのは、誰もが納得できる上質な味わいの到達点。国内随一の酒造技術をもつ山形県・楯の川酒造とともに、【720ml/1万7800円(※送料込み)】という価格に足る、世界水準の価値をもつ日本酒を完全数量限定で製造します」
1万7800円! 高っ! ……しかし、楯の川酒造というのは、渋いセレクトです。こちらは、「楯野川(たてのかわ)」という銘柄を出していて、地酒ファンにとっては名の知られた存在。筆者は以前、「清流」という純米大吟醸を頂きました。アルコール度は14%台で、通常より1~2%抑えたものだったのですが、どこまでも軽快でキレイな酒質。にもかかわらず、味の物足りなさはまったくなく、大変キメ細かな味わいでした。……ああ、また飲みたいです。
18%という驚きの精米歩合で酒造好適米を使用
続いて広報さんは、「百光」の精米歩合に言及しました。
「味わいを実現するためのキーファクトが「18%」という精米歩合。(小林さんならわかってくださると思います、この価値を!)」
確かに、精米歩合18%とはすごい……。ちなみに、精米歩合(せいまいぶあい)とは、米を削った割合のこと。精米歩合が高い(数値が低い)ほど香り高く、すっきりした味わいになります。通常は、精米歩合60%(=米の40%を削ったもの)でも高級酒に入るのですが、それが18%(=82%削る)とは……。いまは「獺祭」の「純米大吟醸 磨き二割三分」(精米歩合23%)が高級酒として有名ですが、さらにその上を行く精米歩合ですね。
「また、『百光』に使用する原料米は、すべて契約栽培でつくられた山形県産の酒米・出羽燦々。農薬をつかわず、手間暇をかけて育てあげた安心の有機栽培米…」
出羽燦々(でわさんさん)は、山形県を代表する酒造好適米。しかも栽培が難しい酒米を有機栽培とは……。さらに、広報さんのメールはプロジェクト誕生の核心へ。
高付加価値市場を拡大し、日本酒全体の商品価値を高める
「また、何故こんな高価な日本酒をつくるのか? というSAKE100の裏に隠された想いも必見です。日本酒の商品群を見渡すと、高価格市場が未成熟であることは、日本酒市場が抱えている課題です。嗜好品としての需要が国内外問わず高まっていく状況で、いかに高いレベルのスタンダードをつくっていけるか。それが日本酒市場を”次の時代”へと運ぶキーポイントであり『SAKE100』のミッションです。(新聞でも「日本酒は安すぎる?」という記事がありました)」
なるほど、プロジェクトの理念として、日本酒の高付加価値市場を拡大することで、日本酒全体の商品価値を高めたいということですね。…確かに、「日本酒が安すぎる」といわれるのは納得です。あれだけ手間ひまをかけて造っているのに、蔵元の利益が少なすぎるのでは……。そういえば、筆者が和食居酒屋で働いていたころ、先輩が「ワインならボトル1本3000円くらいは普通。だが、日本酒だといくら旨くてもその値段では売れない」と話していたのを聞いたことがあります。「日本人が、日本酒の価値を一番わかっていないのや」とも。たしかに、先述の「楯野川 清流」も、あのクオリティで、しかも純米大吟醸で、1.8ℓ3000円を切っていたしなぁ……。
と、ここにきて、いくつかの疑問が湧いてきました。もはや酒造産業が「趣味」や「ボランティア」と呼ばれるほど、多くの蔵元が利益率の低さにあえいでいます。そこに目をつぶって、我々は、おいしい日本酒を「いいとこどり」するだけで良いのでしょうか? 本当に努力をしている人、良いモノが正しく報われない現状……真の日本酒ファンであるならば、身銭を切ってでも抗うべきでは……? この「SAKE100」プロジェクトは、そんな日本酒ファンの問題意識を形にしたプロジェクトなのでしょう。720mℓ1万7800円~という驚きの価格をつけることで、「このままでいいのか?」と訴えているようにも思えます。
果たして、価格に見合うだけの価値があるのか? といった点は大いに気になりますが、〝日本酒の価値を高めて正しく報われる時代を作りたい”という願いには強く賛同したいところ。筆者も、本プロジェクトの存在を伝えることで、少しでも多くの方に日本酒の課題を知っていただければ…そして、少しでもユーザーの意識が変わる助けになれば…と願っている次第です。