小さい時からとても穏やかで優しい男の子がいました。
大きくなると漫画家のお母さんが忙しい時には、消しゴムかけを手伝ったり、お母さんの代わりに食材を買い出しに行き、夕食を作ったり。しかし彼は、大学を卒業するはずの年に、教授とのコミュニケーションに困り、留年してしまいました。
その時初めて彼は診断されたのです。「発達障害」だと……。
20歳過ぎての診断
『大人になってわかった!うちの息子は発達障害 23年間の母と子の奮闘記』(学研プラス・刊)は、漫画家の高橋瞳子さんの息子・モグくんを描いたコミックエッセイです。大人になってから発達障害だと診断される人もいるそうで、モグくんの場合は、大学を留年してしまったことをきっかけに、医療機関への受診を決めました。なぜなら、教授と上手にコミュニケーションをとって卒業していく多くの学生と違い、彼は、教授の指示を理解することが難しかったからです。
大人の発達障害を診断してくれる機関は少なく、4月に予約を取って5月に初診があり、様々な検査を経て、やっと10月に発達障害だと診断が下りました。以降は投薬治療が行われ、翌年3月には無事大学も卒業。しかし、就職がなかなか決まりません。ついに障害者手帳を得て、障害者枠での就職活動を行うようになっても、まだ決まらないのです。
みんな同じがみんないい!?
実は私の息子も、小学校の時も中学校の時も発達障害を疑われ、検査も受けました。だから人ごとではありません。けれど息子の診断はいつも「治療の必要なし」。なんの治療も必要ないけれど、個性が強い(数学のことばかり考えている)ので、先生からは疎まれがちでした。なぜなら集団行動が苦手で、屋内で一人でいることを好み、みんなでワイワイ遊ぶことを嫌がり、つまりはみんなと同じでいたがらなかったので、扱いづらかったのだと思います。
しかし私の目から見ると、みんなと同じ行動が取れない子=支援が必要な子、というわけではない気がします。私自身、インドアが好きで、本ばかり読んでいるような子どもでした。幼少期のスタイルは今も変わっていません。今だって家の中で本を読んだり書いたりしていることが多いのです。
正直に言えば、あの頃みんなとお遊戯せずにたくさんの本を読んでいたことに、後悔は全くありません。もし必要な支援があるとするならば、幼稚園にあった絵本を全部読み終えてしまったので、新しい本を棚に入れてもらうことだっただろうと思います。
才能を活かせる仕事
息子もそうです。20歳を過ぎましたが相変わらず数学のことばかり考えています。息子が今後どういった仕事に就くかはわかりませんが、おそらく数学関係の仕事になるのでしょう。好きなことを貫き、経験を積み重ねていくことは、とても大きなパワーを生むものです(ただし英語が苦手でなかなか単位が取れず、卒業できるか心配でなりませんが)。
人には必ず何かの才能があると私は思っています。そしてその才能を見つけることが、親や大人の役目だとも。今回のモグくんの場合、幼稚園の頃から先生に「とても穏やかで優しい」と褒められています。お母さん自身もモグくんを温和で優しい子だと感じています。ということは彼は優しいことが長所であり、才能でもあるのでしょう。だとしたらその彼の良さを活かせるお仕事にぜひ就いていただきたいなと思うのです。
例えば介護や看護や保育など、優しい人を求めている業界はたくさんあることでしょう。そうした業界の中で、モグくんの素敵な個性が発揮でき、彼らしく働ける仕事が見つかればいいなあ、と読んでいてしみじみ考えてしまいました。学校には優しさという偏差値はありませんが、優しさは、とても素晴らしい才能だと思うからです。
(文・内藤みか)
【文献紹介】
大人になってわかった!うちの息子は発達障害 23年間の母と子の奮闘記
著者:高橋瞳子
出版社:学研プラス
大学生になってから発達障害と診断された息子をもつ漫画家母によるコミックエッセイ。そうとは知らず、本人の努力不足?育て方のせい?と悩みながらも奮闘してきた子育て体験を綴る。今だからわかる発達障害が原因の特徴や二次障害。そしてこれからを考える。