本・書籍
2018/5/10 16:30

『僕たちの本棚 ブック・ナビ 2001-2016』――世界を広げるナビゲーションの力

ナビゲーションの時代である。私もその便利さにしびれ、ナビに導かれて生活するようになっている。車の運転には必須のものとなりつつあるし、電車を利用するときも頼り、電話からは「ナビダイヤルでおつなぎします」の声が聞こえてくる。さらには、医療現場にもナビゲーションが導入されている。

 

 

ナビか? 背表紙か?

私は物持ちがよく、1度ものを買うと、ずーーーと使い続けるので、失敗したくないのだ。ハンカチも虫眼鏡も、小学校のときから同じものを使っている。物を買うと、いつも一生モノとなるので必死である。

 

ただし、本を買うにあたっては、書評や新刊紹介といった、いわゆるブックナビゲーションも参考にするが、これまでは背表紙を見て選ぶことが多かった。本を選ぶのは本を読むのと同じくらい面白い娯楽なので、他人まかせにしてはもったいないと思っていたのだ。

 

 

イチオシの新刊は?

とくに、ある女性誌で書評を担当していたときは、「出版されたばかりのもの」という約束事があったので、本をナビゲーションしてもらうわけにはいかなかった。時にはまだ出版される前の状態、つまりゲラと呼ばれる状態で本を読むのだから、自分がナビゲーションとならなければいけない。それはそれで興味深い作業だったけれど、やはり本屋に並んでいるのを選ぶほうがいいなと思っていた。

 

連載中、たまに「三浦暁子の書評は、この本は面白いというものばかりだが、毎月、毎月、そんなに面白い本にあたるものか」という質問がきたが、それはちょっと違うと私は言いたかった。面白くて、是非、読んで欲しいと思うものにあたるまで読んでから書評していたのだ。だからこそ、毎月、必ずイチオシの新刊本をお知らせできる。

 

ブック・ナビの力

その頃は、毎週のように本屋さんの新刊本コーナーに行き、本を熱い視線で見つめ、触り、パラパラとめくって、これだと思う本を手当たり次第、買っていた。最初に面白い本に当たるように祈りながら…。

 

一冊目で「当たり!となる場合もあれば、読んでも読んでも「うーん、いまいち」となって、15冊近く読むときもあった。原稿料に迫る勢いで本を買った月もある。本選びに関しては他人の意見を参考にしない私が、今回、『僕たちの本棚 ブック・ナビ 2001-2016』(ブック・ナビ・刊)を読んだのは、内池正名、野口健二、山崎幸雄の3人が、2001年から2016年の間、読みまくり、書きまくったWEBの書評、360本以上の中から100本ほどのものを収録してあると知ったからだ。お三方とも尊敬すべき本のムシであり、選び抜いた本が並んでいるに違いないと思った。

 

 

多様なジャンルに触れられます

私がなかなか手に取らない分野の本が並んでいるのにもひかれた。それも以下のように章ごとにわけてある。

 

第1章 :ジャズを聞いたり映画を見たり
第2章 :古代に旅し、昭和の戦争を考える
第3章 :言葉が豊かにしてくれる、この世界
第4章 :右手に世界地図、左手にグラス
第5章 :小説の快楽におぼれて
第6章: 僕たちの社会、昨日と今日

 

著者たち3人はそれぞれ自由に本を選び、自分の経験や趣味、そして嗜好を加味して書評している。それだけに、大きな本屋に一日中居ても見つからない本が並んでいる。

 

 

膨大な書評から、さらに選び出すとしたら…

私なりに本書の中からナンバー・ワンを選ぼうとして、これがなかなかに難しいと気づいた。既に読んだことがある本もあれば、未読の本もある。読み手によってこんなに印象が違うのかと思ったり、同感とうなづいたりと忙しく、なかなか選ぶところまでいかない。

 

それでも、私がまだ読んでいない本の中で「この本読まずになるものか」と思ったものを2つ挙げると以下のようになる。

 

まず、沢木耕太郎の『流星ひとつ』(新潮社・刊)。2013年に、歌手の藤圭子が投身自殺した後、すぐに出版されたものだという。しかし、決して事件をスキャンダラスに取り上げたものではない。1979年秋に、藤圭子が引退を表明してから、12月26日に引退コンサートをするまでのほんの短い間に、行われたインタビューを記録したものだ。

 

著者の沢木耕太郎は、藤圭子の将来を思って、単行本として出版する予定をとりやめた。彼女があまりにもはっきりと周囲の好き嫌いをコメントしているからだという。けれども、34年後、藤圭子の自殺をきっかけに、出版を決意したという。できることなら娘の宇多田ヒカルに呼んで欲しいという編集者の思いに押されて…。

 

本田靖春の『我、拗ね者として生涯を閉ず』(講談社・刊)も是非、読みたい。生涯、持ち家を持たず自らを「由緒正しい貧乏人」と称したノンフィクション作家である。綿密な取材で定評があった作家だが、その晩年は右足を切断するなど、苦しみに満ちたものだったという。そんな彼の書いた日本人論は、平成が終わろうとする今、私たちの心に響くだろう。

 

他にもこの『僕たちの本棚』がきっかけで、読みたい、どうしても読みたいと、胸のなかに入り込んできた存在がたくさんある。その意味で、背表紙を見るのと同じような役目をブックナビは果たしているのだと思い知った。

 

【書籍紹介】

 

僕たちの本棚

著者:内池正名、野口健二、山崎幸雄
発行:ブック・ナビ

書評サイト「ブック・ナビ」で取り上げた360本以上の書評のなかから約100本を厳選して書籍化した1冊。