高校3年生の私の娘は『シンデレラ』のストーリーが好きだ。継母らにいじめられたシンデレラは、魔女の助けで舞踏会に行き、王子様と運命的出会いをして結ばれる。結果、継母らよりもお金持ちになった。この「自分を虐げた人よりも上のランクに行った」状態に快感を覚えるのだという。
お金持ちこそがゴールの象徴!?
同様の理由で娘は、昭和の少女漫画が好きだ。原ちえこさんの『フォスティーヌ』ではロマの娘が実はウィーン大公の娘だったというお金持ちフラグが立っていたし、いがらしゆみこさんが描いた『キャンディ・キャンディ』では孤児の女の子が大金持ちの養女となる。ヒロインのフォスティーヌもキャンディも、今まで意地悪をしてきた人よりも上位クラスの身分となる。娘から言わせると「大勝利」なのだそうだ。
娘に言わせると、王子様はいらないという。ただ、お金や身分は必要なのだそうだ。普通の女の子なら「いつか王子様が私を迎えに来てくれる」と夢見るものではないのだろうか。少なくとも私が娘の歳の頃はそんな妄想に浸っていたものだ。しかし現代っ子の娘は「いつか王子様は浮気するかもしれないけれど、身分やお金は裏切らない」と断言するのだった。
世界名作劇場に見るお金持ちゴール
そんな娘は懐かしの『アニメ世界名作劇場』も好みだ。『「フランダースの犬」「小公女セーラ」ほか アニメ「世界名作劇場」から語り継ぎたい名作 全7話』(アニメ別冊編集部・編/学研プラス・刊)をめくると、確かに娘が特に好きな『小公女』と『ペリーヌ物語』には、「いつかはお金持ち」設定がある。
個人的には世界名作劇場は、いろいろつらいことがあっても真っ直ぐに生きる子ども、という設定で統一されていると思う。『フランダースの犬』のネロは気の毒な最期を迎えたけれど、正しく生きることの大切さを視聴者に教えてくれた。『アルプスの少女ハイジ』も大好きな場所(アルプス)で大好きな人(おじいさん)と暮らすことがどれほど幸せなことかということを示してくれた。しかし娘は、あくまでもお金持ちになるラストにこだわるのだ。
セーラとペリーヌのお金持ち度
『小公女』のセーラは、もともと大金持ちのお嬢さんだったけれど、父親が破産した末に死亡してしまい、小間使いの身分に落ちぶれてしまう。しかし、遺産のダイヤモンドが見つかり、セーラは大金持ちに返り咲き、かつてこき使った人々のことを冷たくあしらうのだった。
『ペリーヌ物語』のペリーヌは、両親を失った女の子が大金持ちのおじいさんのところに向かうという物語だ。けれど、おじいさんは息子と駆け落ちした女(ペリーヌの母親)をいまだに激しく憎んでいるため、ペリーヌは自分が孫娘だと言えない。とはいえ最終的には身分がバレ、めでたくおじいさんに孫娘だと認めてもらえた、娘に言わせれば「おじいさんが死んだ時の遺産相続人」となったのだった。
なぜ王子様よりもお金持ちなのか
これらのお金持ちシンデレラストーリーには、共通点がある。彼女らの住まいがかなりみすぼらしいのだ。シンデレラは屋根裏で寝泊まりしていたし、キャンディとセーラは馬小屋で寝泊まりしなくてはならなかったし、ペリーヌは誰も使っていない小屋に住み着いた。フォスティーヌは放浪暮らしなので、定住場所すらない。眠ることが大好きな娘は、彼女らがお金持ちになり、ふかふかのベッドで休むようになった時に、強い満足感を得たようだ。
結局、お金持ちになると、衣食住という人間の生活の基本は保証される。保証されるどころか、素敵なドレスを着て、ご馳走を食べ、ふかふかのベッドで寝るという最上級の暮らしにグレードアップする。おそらく娘の関心は生活の安定にあるのだろう。まずは暮らし、男はその次の関心事なのだ。そういえば、現代の未婚女性の恋人がいない率が半数近くにも上がっているというけれど、もしかしたら彼女達も不安定な社会での生活における心配が先に立ち、恋愛が二の次になっているのかもしれない。
【書籍紹介】
「フランダースの犬」「小公女セーラ」ほか アニメ「世界名作劇場」から語り継ぎたい名作 全7話
著者:アニメ別冊編集部(編)
発行:学研プラス
フジテレビの「世界名作劇場」シリーズから語り継ぎたい名作を厳選した読み聞かせ絵本。『フランダースの犬』『少公女セーラ』『ペリーヌ物語』『ピーターパンの冒険』『ポルフィの長い旅』ほか計7作品を1冊に収録した低年齢児童向けの読み物。