「大迫半端ないって!」――2018年6月19日。ロシアW杯グループリーグの初戦で、日本代表がコロンビア代表に競り勝った。このフレーズをあしらったバナーは、実況中継でも何回か画面に登場した。
そして、歴史的勝利と形容される一戦が終わった直後から「大迫半端ないって!」が世界中を駆け巡っている。もう聞き飽きたという方もいらっしゃるかもしれませんが、あえてお付き合いください。
新・世界語:Hampanai
イギリスの『The Guardian』紙電子版のワールドカップ特集ページに、全プレイヤーのプロフィールが掲載されている。大迫選手の項目は次のような文章だ。
His performances are often described as hampanai – a Japanese expression meaning “awesome” or “incredible”」
(彼のパフォーマンスはしばしば、「ハンパナイ」と形容される。“すごい”とか“信じられない”という意味の日本語の表現である)
これを書いた記者がどういう経緯で「ハンパナイ」について知ったかはわからない。正確なニュアンスはとらえられなくても、言葉の響きが刺さったのだろう。サッカーの母国の歴史ある新聞でも紹介されたからには、少なくともサッカーにおいては、最も新しい世界語となるポテンシャルさえ感じられる。
ペップトーク、パワーフレーズ、ツキを呼ぶ決めのひとこと
試合前のロッカールームとか、キックオフ直前に組む円陣で「行こうぜ!!」みたいな声をかけ合う場面をよく見る。いわゆる“ペップトーク”というやつだ。コロンビア戦に関してもボルテージの高いペップトークが飛び交ったことは容易に想像できる。
そしてこの試合ではさらに、選手たちにプラスアルファの力をもたらす言葉が目に見える形で示されていたと思う。力を生み出すという意味合いで“パワーフレーズ”と表現してもいいかもしれない。
ペップトーク。パワーフレーズ。あるいは、ツキを呼ぶ決めのひとこと。呼び方はいろいろあるだろう。こうした言葉の力を味方にすれば、強豪国相手のサッカーの試合でも、仕事でも、そして人生でも、自分が持っている以上のパフォーマンスが期待できるんじゃないだろうか。このコラムで紹介したい本は、そういうもののエッセンスがつまった一冊だ。
ツキのスパイラルって?
『清水克衛の「ツキ」を呼ぶ言葉』(中嶋睦夫・著/学研プラス・刊)は、言葉の力で「ツキ」や「勝ちぐせ」と表現できるものを能動的に引き寄せるメソッドについて書かれた本だ。
書名に出てくる清水克衛(かつよし)さんは、「読書のすすめ」という本屋さんを経営している人物だ。マスコミでもかなり取り上げられているので、ご存知の方も多いだろう。著者の中嶋睦夫さんは、編集者として清水さんと知り合った後に会社を辞めた。その後フリー編集者・ライターとなって、清水さんの言葉をまとめたのが本書である。中嶋さんは、清水さんを“不思議な人”と形容する。その不思議な人から、中嶋さんにむけて放たれたひとことがある。
「中嶋さんさぁ。ツキのスパイラルって絶対あるんですよ。プラスの方向にしか向いていないスパイラル。一回それに乗るとね、あとは上昇気流にずっとツイてくるんです。それにいっしょに乗っていきましょうよ」
この瞬間から、もうこの本が書かれることは決まっていたのかもしれません。
『清水克衛の「ツキ」を呼ぶ言葉』より引用
タイミングといい間といい、中嶋さんにとってどんぴしゃなペップトーク、あるいはパワーフレーズとして響いたにちがいない。
インフルエンサーの“刺さる”ひとこと
ちょっと言葉足らずだったかもしれない。清水さんと中嶋さんの関係について、まえがきから紹介しておく。
清水さんはNPO法人「読書普及協会」を7年前に立ち上げて、理事長を務めているのですが、現在は全国に2000人を超える会員たち=読士(どくし)がいて、今日も増え続けています。そんな公使にわたる“ご縁”の中で、私は、この6年以上にわたって編集者として本づくりの手伝いをしたり、同じ舞台で講演したり、いっしょに旅をしたりという時間を過ごしてきました。
『清水克衛の「ツキ」を呼ぶ言葉』より引用
中嶋さんは、「清水さんと出会った人はみんな会社を辞めてしまう」と書いていらっしゃる。そういう中嶋さんご自身も、清水さんと出会って会社を辞めた人の一人。清水さんという人は、顔を合わせるすべての人に、無意識のまま刺さるひとことを向けるインフルエンサーなのだろう。
プラスアルファの力をもたらす言葉
章タイトルにも、インフルエンサーから発せられた言葉がそのまま並ぶ。
はじめに:「“ツキ”のスパイラルって、あるんですよ」
一章:「人間には、すごい力があるんだ」~人生につきを呼び込む「ステキな勘違い」
二章:「人生はうまくいくようになっている」~落ち込んでいるときに効く、言葉の薬
三章:「まず、人を喜ばせてみよう!」~商人感覚のすすめ
四章:「あなたは、歴史に参加していますか?」~傍観者にならない生き方
五章:「神様はアクセルとブレーキを逆さにつけたんだよ」~明日も笑顔でいられるように、背中を押してくれる言葉
筆者に一番刺さったのは、第一章の「不確定こそが人を成長させる」という項目だ。迷ったときは、ワクワクするほうへ向かっていくのが正しい。フリーになって23年。人から見ればいまだに“不確定”な生き方をしていると映るだろう筆者にとって、日々キーボードを叩く指先にプラスアルファの力が加わる気がする。ジャンル分けするなら自己啓発本ということになるのだろう。ただ、「読書普及協会」という目に見える形の成功に裏付けられた言葉のひとつひとつに、実践的かつ実際的な響きが感じられる。
このコラムを読んでいただいているみなさんも、ツキのスパイラルに乗っていきませんか?
【書籍紹介】
清水克衛の「ツキ」を呼ぶ言葉
著者:中嶋睦夫
発行:学研プラス
元気がもらえる書店と噂が広まり、テレビやラジオ、雑誌、新聞…あらゆる媒体で取り上げられる清水克衛店長。氏の言葉を聞いて生きる勇気を、商売のヒントをもらった人は数知れない。「頼まれごとは断らない」…そんな珠玉のツキを呼ぶ言葉が満載!