Amazonなどで、おもにモバイルバッテリーなどのスマートフォン周辺機器やモバイル関連商品を購入しようとする際、必ずといっていいほど視野に入ってくるのがAnker(アンカー)製品。高い性能、コストパフォーマンス、優れたデザイン性によって、ユーザーからの評価が高い同社は「元Google出身者が作ったメーカー」として知られ、近年グングン支持を得ています。今回は、Ankerのフィロソフィーに惚れ込み、日本市場の開拓を手掛けるアンカー・ジャパンの井戸義経社長に、同メーカーが急速に成長している理由を聞きました。
Googleの元プログラマーが立ち上げた画期的な「ビジネス家電構想」とは?
――もともとAnkerとはどういった企業だったのでしょうか?
井戸義経(以下:井戸) AnkerはGoogleのスタッフだったスティーブン・ヤンによって設立された中国のハードウェアベンチャーです。
スティーブン・ヤンは北京大学を卒業し、アメリカの大学院に進学し、インターンシップをGoogle本社で行ったことをきっかけにGoogleに入りました。Googleではエンジニアとして働いており、社長賞を受賞するほど優秀なプログラマーでしたが、とあるきっかけでハードウェアをインターネットを通じて販売することに関わることになり、Googleの仕事と並行しながら実験していきます。
そして、その成果が十分に得られたため、確信をもって中国に帰り、現在のAnkerを作りました。これが2011年の話ですね。
――そのAnkerを井戸さんが知り、実際にアンカー・ジャパンを設立された経緯をお聞かせください。
井戸 私はもともと大学時代に製造管理を学び、製造業へのシンパシーを持っていました。いつか製造業に貢献したいと考えていましたが、大学卒業後の10年間は証券会社、投資会社などに勤務しており、その夢はなかなか実現には至りませんでした。
30代前半に差しかかり、金融業界での経験もある程度積み重なった頃、「製造業に挑戦するなら今しかない」と思いました。世界中にある様々な新興メーカーの商品を取り寄せ、リサーチしたのですが、なかで最も惹かれたのがAnkerだったんですね。最初は「Google出身者が興した家電ブランド」ということでの興味が先行していましたが、実際に商品に触れてみると、実に高品質で高機能なものばかりであることがわかったのです。
さらに、創業者のスティーブン・ヤンと、彼の右腕である人物と一週間ほど話をする機会に恵まれ、彼らのビジョンにも感銘を受け、「Ankerという素晴らしいブランドを担いで、日本市場にも届けたい」と思い、2013年に日本での法人設立に至りました。
ネットのプラットフォームの利点を活かし、ユーザーの声を直接フィードバック
――Ankerがもともと目指していたというビジョンとは、どういったものだったのでしょうか?
井戸 これまでの製造業は、大きな組織と設備を抱え、長いサプライチェーンを経て、やっとお客様のもとに届くことが一般的でしたし、現在でもこういったモデルは多いです。しかし、Ankerは情報産業での経験から別の考えを持っていました。
アプリケーションやソフトウェアは、まず最善の状態で市場に出しながらも、お客さまからの声を真摯に受け止め、継続的に改善していくことが多いのですが、製造業もこういったやり方が合理的だというのがAnkerの考え方です。
たとえば日本市場でしたら、Amazonなどのプラットフォームを活用し、最終ユーザーであるお客さまに販売し、その評価や意見を受け、継続的に製品を改善していくというやり方ですね。実際、現在の弊社ではカスタマーサポートも必ず弊社の正社員が行い、直接お客さまの声をお聞きし、以降の製品にフィードバックできるような体制を整えています。
コンセプトは「よりスマートな生活や人生に力を与えていこう」
――メーカーからお客さまへ、という一方通行的な販売ではなく、お客さまからのフィードバックを大切にし、大手メーカー的なではやり方ではなく、言わば個人商店的な販売・やり取りをお客様ユーザーの方と行い、改善すべき点は即座に改善していくという合理的なやり方ですね。でも、これは特に日本市場では容易くないようにも思います。
井戸 確かに私も「そう容易くはないはずだろう」と思っていました。日本の家電メーカーのブランド力、信頼は厚く、お客さまもそういったブランドに強い愛着を持っている方が多いからです。そのなかで、我々のような新興メーカーが、たとえ素晴らしい製品を提供することができたとしても、成長、浸透に至るにはかなりの時間を要するだろうなと考えていました。
しかし、インターネットでご購入される方の多くは、Anker製品を評価・支持してくださり、思ったよりも早くお客さまからの信頼が構築できたというのが私の感想です。
――製品ラインナップは、携帯家電が多いですよね。
井戸 はい。我々はコーポレート・ミッションとして「Empowering Smarter Lives」という言葉を掲げていますが、これは「よりスマートな生活や人生に力を与えていこう」という意味で、どんな環境であっても、お客さまが今よりも豊かでスマートな生活を送れるように、ハードウェアの力でお手伝いをしたい……という思いによるものです。そうなると、どうしてもモバイル関連製品というものが大きな比率を占めていっているのが現状です。
Ankerが高品質、優れたデザイン、そして安価を実現できる理由
――Ankerの製品は高品質なのに、コストパフォーマンスにも優れています。また、デザインも優れていますが、特に「なぜ他メーカーよりも安くできるのか」をお聞かせください。
井戸 やはりインターネットでの販売を基本に据えているからです。先ほども言った通り、一般的には大きな組織と設備、長いサプライチェーン、流通経路を経て市場に並びます。
しかし、我々はできるだけこれらをなくし、AnkerからAmazonなどのプラットフォームを通り、最短経路でお客さまにお届けしていますので、重層的なマージンを発生させないことで安価を実現させているんですね。
また、グローバル規格によって開発する製品が多く、欧米、中東アジア、東南アジアなどを合算した規模で製造するため、スケールメリットを活かして安く作ることができるのです。
――とは言っても、先ほどお聞きした「お客さまからの声を、できる限り迅速にフィードバック」となると、グローバル規格の場合はかなりリスキーなのではないかとも思います。
井戸 我々は一種のヒット・アンド・アウェイ方式をとっています。たとえば最初にある製品を作った場合、まず最低のロットで各国に割り振って販売します。その各国でのデータを基に、「大量生産するかどうか」を決めるので、リスクはさほど大きいわけではありません。
また、大手家電メーカーのように自社工場を保有せず、開発や品質管理に特化しながら運営しているので、たとえば「設備に大金を投じないといけない」といったリスクもありません。これらの理由から、合理的に高品質の製品を、安価にご提供できるわけです。
ユーザーが求める製品を、予測することはできない!?
――ちょうど今年で日本法人を設立されてから5年という節目ですが、最も大変だったことはなんですか?
井戸 大変というと語弊がありますが、我々が最もエネルギーを使っているのはやはりお客さまの反応でした。お客さまからご支持を得た製品のどんなところが良かったのか、また、ご指示を得られなかった製品は何がダメだったのか……これらを正しく読み解き、次世代の製品開発に活かしていくということが、今までで最も神経を使ったところですし、これからもそれは変わらないと思います。
今から5年後になったとしても、「お客さまが何を求めているか」を完全にあらかじめ予測できるメーカーはないと思います。もちろん我々もそうです。しかし、「市場が変化していっている」「お客さまの求める商品が変わり始めている」といった兆候を読み取り、製品に反映し、提案することにおいては我々は優れていると自負しています。
これから先の未来も、時代に合わせたレベルの高いハードウェア、スマートフォン周辺機器をどんどん開発し、提案し続けていきたいと考えています。
Ankeの製品が、高性能、コストパフォーマンス、デザイン性の良さと全方位で高評価を得ているように、井戸社長もまた、どんな質問に対しても合理的でわかりやすい回答をしてくださいました。これらアンカー・ジャパンの試みは、日本の家電市場をさらに良く、面白くしていってくれるはずでしょう。今後の動向、製品開発にもおおいに期待したいです!