この数年で一挙に日本にも浸透してきた感のあるSVOD(定額制動画配信サービス)。この動きの背景にあったものと、今後の映像配信サービス市場がどのように変化していくかを、専門家の西田宗千佳さんに聞きました。
【識者】
ジャーナリスト/西田宗千佳さん
PC、家電などに精通し、雑誌や新聞に寄稿。著書に「ネットフリックスの時代」(講談社刊)などがあります。
豊富な資金の大量投資が急成長のカギだった
現在、定額制映像配信(SVOD)最大手のNetflixは、全世界で有料会員数約1億2500万人超を抱えています。このうち半分弱は米国内ですが、ユーザーの伸びはそれ以外の国が上。大手はみな、Netflixを追いかけている状況です。米国では日本でもお馴染みの「Amazon Prime Video」が好調で、米国内向けにディズニーも独自の映像配信ビジネスを準備中です。また、スポーツについては、各チームやNBA・NFLといった競技団体が、ネット配信を行うのが当たり前となっています。
こうした流れは、日本を含めた世界に広がっています。ここで、ポイントとなるのは「資金流入」です。Netflixは2018年に80億ドル(約8500億円)をオリジナルコンテンツの制作に使います。アマゾンも2017年には45億ドル(約4792億円)をオリジナルコンテンツに投資しており、今年はさらに増額する予定。日本でも、DAZNがJリーグとの間で「10年間で総額2100億円」という巨額の独占配信契約を交わしました。このように、大量の視聴者が集まる前提で巨額投資を行い、その魅力で顧客を引きつけるビジネスモデルのサービスが伸びているんです。
アメリカでは、「放送主体」の時代からこうした流れはありました。無料の地上波が強い日本とは異なり、アメリカでは有料チャンネルに契約するのが基本。スポーツにしろドラマにしろ、有料チャンネルからの収入によって番組の品質が担保されてきたのです。
そこに登場したネット配信は、低価格かつ複数端末で同時利用が可能といった具合に、衛星放送・ケーブルテレビより有利な点が多かった。この市場が一気に広がったのは、こうした背景があります。
単価が安いSVODは複数サービスの利用も一般的
日本の場合、アメリカでNetflixが成長するのを横目に見つつ、2014年ごろから配信ビジネスが本格化してきました。特に、NTTドコモとエイベックス・デジタルが合弁事業として展開した「dTV」、日本テレビがアメリカから買収し、自社サービスとして展開している「Hulu Japan」、USEN系列の「U-NEXT」は、積極的な顧客獲得を繰り広げたこともあり、現在も調査手法によっては、日本での利用者シェアでNetflixなどより上である……という結果が出ることも多いです。
しかし、「実際の利用実態」に合わせた調査になると、様相は一変します。トップシェアはAmazon Prime Videoであり、続いてHulu、Netflix、dTV……といった順になるのです。これは、私が映画会社などのコンテンツ提供元から耳にする情報とも一致します。アマゾンの場合、通販時の「お急ぎ便」が無料になったり、音楽の聴き放題サービスもセットだったり、と他社よりもかなりおトク度が高いことが、国内シェアの大きさにつながっているのでしょう。
ともあれ、Netflixのリード・ヘイスティングス社長は「アマゾンは敵ではない。なぜなら、アマゾンと契約したからといって、Netflixを止めるわけではないからだ」と語っています。こうしたサービスは単価が安く、休止や再加入が容易なので、「1社しか使わない」という人が少ないという特徴があります。この傾向は世界的にも同様です。
ドラマやアニメ、スポーツと「気になるコンテンツがあるサービスを2、3併用する」といったスタイルが定着することで、日本でも「地上波一辺倒」の時代が終わるのか? 今後は、そこが最大の焦点となりそうです。
<check!>
世界の映像配信売上高推移、および予測
日本のSVODサービス事業社別シェア推移
国内SVODサービスは、グラフにある5社が牽引しています。なかでもアマゾンとNetflixは、伸び率が大きいうえ、アクティブなユーザーを多数抱えており、好調さがわかります。