時間に余裕がある人が増えてきたからか、最近はボードゲームやリアル謎解きゲームなど、頭を使って何時間か楽しむという遊びが流行っている。そして、私の周りでは「次に流行るのは演劇作りではないか」という声がちらほらある。なぜ演劇なのかを考えてみた。
劇は時間がかかる集団遊び
ボードゲームやリアル謎解きゲームを楽しむ層が、ここ数年でかなり増えたと感じている。お店でゲームを楽しめるボードゲームカフェも一気に増え、都内に87店舗ある(情報サイト「ボドゲーマ」登録軒数)。2人からでも遊べ、数時間滞在する人も少なくない。
かつて、社会がもっとせわしなかった頃は、若者たちはこんなにのんびりとテーブルを囲んではいなかった。昭和の頃には麻雀というコミュニケーション手段があったけれど、ゲーム機が流行するようになってからは、友達の家に集まったらテレビゲーム、という流れが多くなったと思う。
ボードゲームはアナログ感があり、遊んでいる最中はスマートフォンは使わない。このスマホをオフにして遊ぶ時間に脳がリフレッシュされた感じがする。このリフレッシュ感こそが、常時ネット接続している現代人が求めているものなのではないだろうか。
さらに長時間遊べる演劇
しかしボードゲームは長くても2〜3時間ほどで終わるものがほとんどだ。今後、AIが人間の仕事を代行し、余裕時間はさらに増えると推測されているので、さらなる時間をかけて誰かと一緒に何かを作りあげる活動が必要になると考えられる。皆で農産物を育てるという動きもある。それも収穫の楽しみもあるし、今後も広がりそうな気がしている。
個人的には、これからは演劇作りが流行するのではないかと考えている。皆でストーリーを考えたり、役作りや演出について意見を言いだしたり、舞台美術を考えたりと、演劇はエンタメを手作りする感覚があり、楽しいのだ。
演劇が友情を生む
『劇団6年2組』(吉野万理子・著/学研プラス・刊)は、小学6年生のクラス全員で、約2か月ほどかけて卒業記念のイベントとして演劇を作り上げていく物語である。クラスのなかには前向きに頑張る子もいれば、サボって逃げ出す子もいるのも、現代社会の縮図を見ているようでとても興味深い。
彼らは『シンデレラ』のストーリーを自分たちなりにアレンジし、作りこんでいく。その作業にはクラスの全員は加わらない。衣装に気を取られている女子もいれば、大道具作りに汗を流している男子もいる。主役じゃなくちゃ嫌だという妬みもなく、それぞれがそれぞれの持ち場に誇りを持ち、生き生きとしているのが印象的だった。
集団での新しい居場所感
少し前だったら、少しでも目立つ役を、と前に出たがる子が大勢いたけれど、今どきの子どもたちには目立ちたいという欲はそれほどないのかもしれない。自分の仕事を全うするほうにエネルギーを燃やしているようだ。そのほうが争いもないし、作業もはかどる。演技をしたい人は演技にのめり込み、大道具を作りたい人は、大工仕事に精を出し、それぞれの力を合わせて本番を迎えることができるのだ。
演劇の醍醐味はその本番にある。演出・脚本・役者・衣装・音響・照明・大小道具のパワーを集め、物語の世界観がステージに現れた瞬間、あたりに感動や興奮が満ちるのだ。どの役割も必要で、力を合わせたからこそ素晴らしいものができる。この楽しみを体感できるのが演劇だ。お互いの能力を持ち寄り交流するというところが、新しい時代の集団活動のありかたと、とても近い気がしている。
演劇を作るには時間がかかる。準備期間に何か月、場合によっては1年以上もかける。けれど、人間の時間に余裕ができてきたら、こうした長期戦の楽しみを人々は求めるようになるだろう。お互いの頑張りを褒め合い、素敵な作品が完成したことを喜び合える体験は貴重だ。そう遠くない未来に、新たな演劇サークルがたくさん立ち上がるのではないか、と私は思っている。
【書籍紹介】
劇団6年2組
著者:吉野万理子
発行:学研プラス
卒業前の発表会で、芝居をすることになった6年2組。四苦八苦する立樹たちに意地悪をいう慶司。実は、慶司は小さいころ子役でいやな思いをしたのだった。「シンデレラ」の台本に決まるが、演じていくうちにセリフを変え、自分たちの芝居を目指すことになる。