私の父親は製薬会社の営業マンで、転勤の多い人生を送っていました。
ざっと数えてみると、私は子どもの頃から結婚するまで10か所の土地を住み歩いたことになります。転校する度に友だちと涙の別れを繰り返さなければならず、それが嫌で嫌でたまりませんでした。もっとも、我が家の転勤は日本国内に限られていて環境の激変に苦しんだわけではありません。
それでも、長くても5年、短いときは1年ほどで引っ越しをする生活にはうんざりしていました。
引っ越しのない暮らし
結婚すると、私は引っ越しのない暮らしを手に入れることができました。名古屋に5年ほど住んだあと神戸に引っ越しましたが、その後はずっと同じマンションに住んでいます。
息子も転校させることなく育てることができました。夢にまでみた引っ越しのない生活。大満足のはずでした。ところが…。引っ越しのない暮らしは、やってみると案外退屈でした。新陳代謝がないとでも言ったらいいでしょうか。
引っ越しこそ、最高の大掃除
これまでは気づきませんでしたが、引っ越しのない毎日を送っていると、家の中が掃除しても掃除しても汚れていきます。じわじわとものが増え続け、最初はけっこうスッキリしていたはずの部屋は、どこもかしこも本やDVDで埋まっています。
これではいけない、何とかしなくてはと思うものの、どうすることもできません。そして、私は気づきました。引っ越しこそ、何ものにも代えがたい大掃除だったことに……。
シンプルな部屋を目指すものの
『マンガでわかる!片付け+収納術』は、祖母の代から同じ家に住み続けた家族の物語です。主人公は、イラストレーターであり、漫画家でもある“宙花こより”。資料や、材料や、紙など、細々としたものが必要とされる仕事です。
彼女が理想とする暮らしは、シンプルで機能的に片付いた部屋で過ごすことなのですが、現実はシンプルにはほど遠く、カオスというべき状態です。古くからの日本家屋に暮らす彼女の仕事場は、物が堆積し、窓さえ開かない状態になっています。汚部屋と呼んでもいいでしょう。
おまけに、同居している母も片付け下手、父にいたっては片付けというものをしたことがないというのですから徹底しています。
救世主、登場!
そこへ訪ねてきたのが、女性編集者のT澤さん。こよりの原稿の進み具合が遅いのを心配して東京から上田市へ来てくれたのです。「旅行のついでに立ち寄った」と説明してはいますが、うすうす感じていたのでしょう。宙花こよりの仕事場の惨憺たる状況を。
T澤さんは「他の仕事がつまっていて大変なら、締め切りを延ばします」と提案してくれました。しかし、実はこよりのイラストが遅れているのはタブレットのペンがどこかへいってしまったからだったのです。そう、要するに部屋がごちゃごちゃで探し物をしているうちに時間ばかりが過ぎていたのです。
私もしょっちゅう「えーーと、あれ、あの本、どこ行ったかな」と言いながらあちこち掘り返しているのでよくわかります。イライラして原稿を放り出したくなります。
T澤さんの作戦
「こよりさんの部屋は、迷いこんだら戻れない樹海みたいなものです」
T澤さんは、立つことすらままならない部屋の真ん中に、かろうじて場所を確保して仁王立ちとなり叫びました。そして、さっさと回収業者に連絡するや「8時間以内に、捨てて捨てて捨てまくるのです」と決めてしまったのでした。片付け&インテリア誌の副編集長でもある彼女にとって、汚部屋からの脱却こそが我が使命だと考えたのでしょう。
名案の数々
T澤さんは数々の名案を示します。だからこそ、たった8時間でこよりの家全体を見違えるように綺麗にすることができたのです。そのいくつかを紹介しましょう。
「捨てて捨てて捨てて極限までそぎ落として、モノでメタボ化したこの部屋を人の住む場に変えましょう!!」
「今使っているか、今つかってないか これのみで判断することが処分の基本であり、大切なポイントなんです!」「片づけにおいて自己嫌悪はNGです」
「片付け…それは「分け」て「捨て」れば9割は終わったも同然!!」
(『マンガでわかる!片付け+収納術 電子版』より抜粋)
数々の名言の中で、一番、私の胸に迫ったのは、
「いわば片付けは引っ越さないお引っ越し!!」でした。
私はずっとこう考えていたのです。引っ越しすれば片付くのに…。新しく自分専用の仕事場を持てば、資料がどこかにいったりしないのに…。けれども、それは言い訳だったようです。
ちゃんと片付ければ、引っ越ししなくても引っ越したかのように新しい毎日を手に入れることができるのです。うかつでした…。
そんな大事なことも気づかないままに、「私が悪いんじゃないわ、夫がDVDを捨てないからだわ。本をつみあげておくからだわ」とか「引っ越しさえすれば」、「仕事場さえあれば」と、呪文のように唱えていたのです。
T澤さんの言葉に従ったこより一家は、2トントラックにも入りきらないほどのゴミを処分し、すっきりした家を手に入れることができました。
そして、最後に明かされるT澤さんの過去…。
『マンガでわかる!片付け+収納術』は、単なるお片付けの本ではありません。暮らしを大切にするヒントが満載された、生きるための指南書です。
【書籍紹介】
マンガでわかる!片づけ+収納術
著者:宙花こより
発行:学研プラス
片付けられない女必読!一家そろって片付けられない著者。どこから手をつけたらいいのか、ものがありすぎる部屋をすっきり部屋にするためのノウハウとコミカルなエッセイ。タイプ別のチェックや片付けの手順シートもあって、読めばやる気がでる!
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