デジタル
2018/9/14 8:00

【西田宗千佳連載】アメリカ教育市場を席巻する「Chromebook」がアップルとマイクロソフトの戦略を変えた

海外、特にアメリカ市場において、PCを凌駕する勢いで伸びている製品ジャンルがある。それが「Chromebook」だ。Googleの「Chrome OS」を使った低価格ラップトップであり、主に教育市場で売れている。

↑Acer製Chromebook

 

ハード自体の性能はたいしたことがない。過去にはタブレットと同じようなハードウエアを使っていたが、現在の主流は「低価格PC」そのものになっている。メモリは2GBから4GB、ストレージも32GBから64GBと小さいので、価格も200ドルから400ドルが中心だ。これは、タブレットキラー的に販売される低価格PCと同じようなハードウエアであり、Windowsをガンガン使うには向かないレベルだ。

 

しかし、Chromebookはそこそこ快適に扱える。軽量なOSであること、そもそも「ウェブアプリ」を中心に使うことを前提に開発されていることが理由だ。軸になるのは、GmailやGoogleドキュメントといった、Google開発によるウェブアプリ群。機能はもはや、マイクロソフト・オフィスに勝るとも劣らない。他人との文書共有が容易なので、PCでもGoogleドキュメントを多用している……という人は増えているくらいだ。また現在のバージョンでは、一部のAndroidアプリも使えるようになっており、「アプリ不足」はずいぶん解消されている。

 

とはいえ、ChromebookはPCほど自由度が高くない。それでも売れているのは、まさに「自由度が高くない」からなのだ。学校などで一括管理するためのシステムがあるため、利用状況の管理や設定の変更などの手間が大きく削減できる。

 

日本とは違い、アメリカなどでは、小学校高学年あたりから、すでに「キーボードを使ってPC的なものを使って学ぶ」のは当たり前。しかも1人1台が基本だ。すべての学校で実現できているわけではないが、教育の過程で「ネットが使えるPC的なもの」を使うのは当然とみなされている。そうした市場には、トラブルが少なくてコストも安いChromebookは適切だ。アメリカの調査会社・Futuresource Consultingの調べによると、アメリカの教育市場(K-12と呼ばれる、幼稚園から高校3年生までの市場)では、2017年第3四半期、出荷台数ベースでのシェアにおいて、Chrome OSは59.8%という圧倒的な勢いを記録している。

 

こうした結果を受けて、現在、アップルやマイクロソフトも戦略の立て直しを図っているわけだ。アップルは「管理はiPadも楽」「アプリの数と品質ではiPadが有利」という面をアピールするし、マイクロソフトは「仕事や研究に使うPCと同じで安心して使える」ということをウリにしている。つまり、Surface GoはiPadキラーではあるのだが、一方でChromebookキラーでもあるのだ。

 

ただ、こうした傾向はあくまでアメリカ市場だけのもので、他国では相変わらず、教育市場においてもPCが売れている。iPadのシェアは限定的だが、教育熱心な私立校での採用例が多く、影響力は軽視できない。

 

こうしたことからSurface Goは、「まずiPad」が仮想敵であり、そして、アメリカ市場においては「Chromebookが最大の敵」となっているのである。

 

●次回Vol.71-1は「ゲットナビ」11月号(9月22日発売)に掲載されます。

 

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