みなさんはデジタルゲームをプレイするだろうか。好きなゲームはなんだろう? ポケモン? 乙女ゲー? RPG? ツムツム?
ちなみに筆者は、ファミコン世代だったため、「スターフォース」「ツインビー」「グラディウス」「スーパーマリオ」あたりから「ポートピア殺人事件」「ドラクエシリーズ」……って書いてて懐かしくなる。そして「Dance Dance Revolution」で激しく踊り狂い、数年前は乙女ゲーにハマり、さまざまなイケメン男性キャラにいい顔をしてモテを楽しんだ。まあ、そこそこゲーマーと言っていい。
世の中にはさまざまなタイプのゲームがあるが、どれにも共通しているのは、スクリーンがあり、映像などに合わせてコントローラーを動かすことだろうか。
しかし、世の中には、映像が全くないゲームがあるという。
それは、なんと音とコントローラーだけで遊ぶ「オーディオゲーム」というジャンルだ。もともと、視覚障害者を中心に制作・プレイされていたという。これぞホントの音ゲーか……?
いったいどんなゲームなのか、まったく素人には想像がつかない。
というわけで、まずは思案するより体験するが早し。先日、表参道のスパイラルビルで体験できると聞き、早速行ってみた。
「オーディオゲーム」で実際に遊んでみた
今回体験したのは、東京ゲームショウ2018にも出展したという「SCREAMING STRIKE」(スクリーミングストライク)というゲームだ。ヘッドフォンを装着して、コントローラーを握ったら準備完了。
ゲームがスタートすると、右、左、前方と、3方向から敵がやってくる。音がした方向へコントローラーのレバーを倒し、ボタンを押して攻撃する。
タッタッタッタッタ……と、足音がどんどん近づいてくる。
右から来たな、と思ったらレバーを右へ倒し、ボタンを押す。
すると、ドカっ!という音とともに、ショヴァアアァァ……などといって敵が倒れる。仕組みはいたってシンプルなゲームだ。
しかしあまりに敵が遠くにいるうちからボタンを押しても空振りしてしまうし、反応が遅ければ自分が攻撃されてダメージを食らってしまう。3回ダメージを食らったら終了だ。
何人も倒してレベルが上がると、多方向からいっぺんに敵がやってくる。右からタタタタっ、前からタッタッタ……。
敵が近づいてくる速さも異なり、攻撃圏内に入るのが右が先なのか左が先なのか、もう高橋名人の如く連打でごまかす始末。
ゲームが終了し、自分のスコアは21点だった。21人倒したということだろうか。その日の最高得点は141点だという。えっ……? 何それ桁が違う……!! 俄然自分のゲーマー魂に火がついてしまった。その場にいたスタッフの方には「21点なら優秀ですよ、だいたいみなさん初めてなら12点くらいです」と慰めてもらった。しかし悔しい。
制作者にインタビュー
このゲームを作ったのは、慶應大学現役生の野澤幸男さん。全盲ながらプログラミングを独学で習得。しかも、彼がこのゲームを作ったのは6年も前だという。
ネットにはAudioGames.netというサイトがあり、そこには世界中のオーディオゲームがアーカイブされている。そこには野澤さんの作ったほかのゲームも紹介されている。「SCREAMING STRIKE」はそのなかでもかなり初心者向けだという。
制作者の野澤さんに話を聞いてみた。
「一般のゲームももちろん遊びます。リズムゲームは好きですし、ポケモンもやります。ポケモンはかなり記憶力と試行錯誤が必要ですが、それが視覚障害者同士のコミュニケーションに繋がったりもしています。我々は独自の基準で判断している部分が多いんです。例えば、キャタピーとトサキントの鳴き声が似ているんです。どう判別したらいいか人に聞くと『トサキントは水の上しか出てこないじゃん』って言われたり」(野澤さん)
ポケモンをプレイするとは想像もしていなかった。彼らにとってポケモンたちがどういうイメージなのかすごく気になる。こうした通常のゲームが、オーディオゲームを作る際の参考になったりするのだろうか。
「参考にしている部分はあると思いますが、できるゲームがすごく少ないので、限定的です。例えば『人生ゲーム』のようなものを作りたいと思ったら、その実況プレイ動画をひたすら見ます。そうするとだいたいインターフェイスがわかってきます。『桃鉄』の実況は200年分くらい見ましたよ」(野澤さん)
なんと、実況動画にこのような使い道があるとは、作ったほうは予想していなかったに違いない。
オーディオゲームは幅広い人々が楽しめるゲーム
「SCREAMING STRIKE」は東京ゲームショウ2018、スパイラルビルでの展示と立て続けに公開された。運営のひとりである田中みゆきさんは、「こうして一般の人に紹介することで、そのうちに視覚障害者の方だけではなく、一般のクリエイターたちもオーディオゲームを作るようになってくれればと思います。そうなったときに、お互いに刺激し合って、よりディスカッションやアイデアが活発になっていくでしょう」と語る。
これまでもオーディオゲームは世の中に存在していたにもかかわらず、私たちはそれを知りもしなかった。しかしこれまで分断されていた障害者と健常者の世界が、これからはもっと融合されていくだろう。
ユニバーサルデザインが障害者だけではなく、誰にでも便利なデザインだとはよく言われることだ。オーディオゲームも、視覚障害者だけではなく幅広い人々が楽しめるゲームだと言える。映像を作らないぶん、コストもかなり安く上げられそうだ。もしかしたらゲームクリエイターにとって最高の登竜門になるのかもしれない。
また一般のゲームも、障害者視点を取り入れ、ほんの少しのケアで遊べる人がグンと増えるだろう。こうしたユニバーサルな視点もどんどん取り入れていってほしい。
視覚障害者というと、「点字を読む人」というイメージを持つ人はまだまだ多い。オーディオゲームや野澤さんのような人たちが、そうした固定観念を吹き飛ばし、新しいユニバーサルな社会を作っていくのだろう。
■オーディオゲームセンター
https://www.audiogame.center/
■取材テープ起こし:ブラインドライターズ
https://peraichi.com/landing_pages/view/writers
(野澤さんもライターとして参加)