アメリカンステーキ店の日本上陸や肉バルなどのブームによって、一定の知名度を得ている熟成肉。その一方で熟成鮨というジャンルがあることをご存知でしょうか。肉と同じく、素材が持つうまみを豊かにするために熟成させるのですが、鮨の専門店は熟成肉ほど増えていません。そんな昨今、新進気鋭の熟成鮨店がオープンすることを耳にし、取材に成功。熟成肉と熟成鮨との違いや、大ブームにならない理由、どのように魚を熟成させているのかなどを聞いてきました!
魚の処理を徹底し独自に編み出した4つの熟成法を駆使
訪れたお店は、9月17日にオープンした「熟成鮨 万」(よろず)。立ち上げたのは、白山洸(しらやまあきら)さん。今年の2月に銀座で開業し、瞬く間に予約が取りづらくなった話題の人気鮨店で二番手を務めていた方です。
熟成肉と熟成鮨の違いは、考えてみるとたくさんあります。そもそも哺乳類と魚類で異なり、身体の構造や大きさからして千差万別。共通しているのは、しめた後の対処のスピードが重要であることくらいでしょう。つまり、臓器や血液をいかに手早く処理するかということです。そこでいうと、熟成肉の代表格である牛は陸地で育てるため比較的扱いやすいですが、海から捕獲したとたんに環境が一変する天然魚の場合はそうもいきません。
また、足が速い(傷みやすい)魚の場合は特にスピードが必要。そこで、神経締め(抜き)という技法で脳死のような状態にすることにより痛むのを防ぎ、ストレスをかけずに処理するのです。
熟成の方法も様々。牛には日本伝統の枯らし、アメリカ式のドライエイジング、真空パックを用いるウェットエイジングなどがあります。一方で鮨の場合、牛肉の枯らしやドライエイジングのように低温で乾燥させる手法は用いつつも、塩を使ったり酵素や発酵の働きを活用したりとネタによって使い分けるのだとか。
これまでの仕事で、1000尾以上を熟成させてきた白山大将。長年の経験から、独自で編み出したのが「酵素熟成」「乾燥熟成」「塩基熟成」「発酵熟成」。これら4つの技法を駆使し、種類、サイズ、産地などで変わるネタの各ピークを見極め、それぞれの合格ラインを超えたもののみを選んで握るのです。
話を聞くなかで、肉のように熟成鮨ブームが広まらない理由がわかりました。仕込みが難しいうえに手間がかかり、食べられない部分をトリミングしなければならないので高価になりがちという側面も。焼いて提供する熟成肉に比べ、鮨は扱いが繊細であることも挙げられるでしょう。