立ち食いそば店の食べ歩きが趣味で、立ち食いそばムックも執筆したことがあるライター、平島憲一郎さんが気になるお店をレポートするコーナー。今回は、東京のそばではなく、佐賀県・鳥栖で有名な駅ナカの立ち食いうどんを紹介します。
博多では知られていないが福岡南部では超有名!
今回は都内の立ち食いそば店をちょっと離れて、九州・福岡地方の立ち食いうどん店をご紹介したいと思います。というのも私、出身が福岡県南部なもので、帰省ついでに、地元の有名な立ち食い店を訪ねようと思った次第。
福岡というのは、実は“うどん文化圏”です。そば屋とうどん屋の数を比べると、うどん屋のほうが圧倒的に多いし、そばとうどんを両方出す店でも、多くの人はうどんを注文します。ちなみに私、19歳で東京に出てくるまで、お店でそばを食べたことがありませんでした。というか上京後も積極的にそば屋に行くということはほぼなく……。本当に数年前まで、そばのよさ、おいしさがよく分からないという、ゴリゴリのうどん派でした。そんな私が、いまではそば大好きになっているのだから、人生はわかりません。
話が大幅にそれましたが、そんなわけで福岡県、特に博多には、超老舗「かろのうろん」や人気店「うどん平」など有名なうどん屋さんがたくさんあります。ですが、それらの店は今回はスルー。福岡でも博多や北九州方面の人はほとんど知らない、でも南部では有名な店を紹介します。
通勤客や鉄道ファンにとって大切な店
その店は、JR鹿児島本線・鳥栖駅のホームにある「中央軒」です。ちなみに鳥栖は佐賀県。九州地図を見ると分かりますが、佐賀県は鳥栖市の辺りが福岡県にググッと出張っていて、博多駅から鹿児島本線を下ると福岡県から一時佐賀県に入って、また福岡県に再突入することになります。
同店の名物は「かしわうどん」。地元の学生や通勤客、鉄道ファンの間ではかなり有名で、なかにはわざわざ入場券を買って食べにくる人も多いそうです。今回私は、帰省中の下り電車を途中下車して、店を訪問しました。ちなみに、鳥栖駅構内には中央軒が4店舗あり、私が下りた鹿児島本線下りホームの店舗は、なかでも一番おいしいと評判です。
鶏そぼろの旨みが加わったつゆは意外に濃厚!
カウンターに立って、「かしわうどん」(350円)を注文すると、茹で置きのうどんをささっと温めて、かしわ肉と青ねぎをのせたうどんが、20~30秒ほどで出てきました。
「かしわ」とは鶏肉のことで、粗ミンチ状の鶏肉のそぼろが、うどんの上にのっています。鶏肉そぼろは、甘さを抑えた味付け。ちなみに、メニューには「ごぼう天うどん」「丸天うどん」などもありますが、それらすべてにこのそぼろは入っています。
だしは、煮干しのクセのある旨みにこんぶのまろやかな旨みを加えたもの。こちらに鶏肉そぼろの旨みも加わって、つゆは透明ながら濃厚な味わいです。
うどんは茹で置きでかなり柔らか。福岡・佐賀のうどんは全体に柔らかなのが特徴で、讃岐うどんのようなコシ重視派の人にはすこぶる評判が悪いです。でも、私はこのフニャフニャ系も嫌いではないんですよねえ。
パパッと食べたい駅そば(うどん)だけに、つゆの温度も熱すぎず、かといってぬるくはない絶妙な頃合い。夢中で食べていると、ものの3分で完食となりました。
60年の歴史を感じさせる滋味あふれる味
地元で働く人々は、乗り替えのわずかな時間を利用してここで小腹を満たして、また仕事に向かうのでしょう。また、駅のすぐそばにはサッカーJリーグのサガン鳥栖のホームスタジアムがあります。試合前のサポーターや対戦チームのサポーターもここで足を止めて、うどんを食べているのでしょうか。
中央軒が駅のホームで立ち食いうどんの営業を始めたのは1956年だとか。見た目はシンプルで素っ気ない立ち食いうどんですが、60年近く鳥栖駅で乗り降りする人を見守り続けてきた、その歴史が感じられる滋味あふれる味わいでした。
【URL】
中央軒 http://www.tosucci.or.jp/kigyou/chuohken/