本・書籍
2019/1/15 21:45

あの世界的名画が主婦の叫びになってしまう!?――『#名画で学ぶ主婦業』

秋から上野の森美術館で開催中の「フェルメール展」の来場者が50万人を突破したそうだ。このあとに続く大阪展でも多くの人々を魅了するだろう。

 

私も先日、フェルメールの名画を観てきた。とはいえ芸術を語るほどの知識などなく、「ああ、この色キレイ」とか「この人物の表情がいい」とか「描かれた部屋の雰囲気が好き」とか、一つ一つの絵画に対してはまったくの素人の感想しか言えない。が、それでも今回”フェルメール・ブルー”と呼ばれる青の美しさをこの目で観られ、とても感動しているところだ。

 

美術館に行くのは好きだ。時空を超えて過去に戻る感覚がよく、名画が語りかけてくるメッセージをあれこれ想像するのも楽しいものだ。

 

 

名画をわが身に引き寄せた本が話題に

さて、名画には描かれたそれぞれの時代背景があり、その作品に込めた画家のメッセージというものがある。それらを教えてくれるのが、多くの美術書であり、美術館では音声ガイドがそれらを解説してくれる。

 

が、一枚の絵を観て、それをわが身にぐっと引き寄せて、想像力を働かせてみるのもおもしろそうだ。『#名画で学ぶ主婦業』(田中久美子・監修/宝島社・刊)は、twitterで話題になった名画に託した主婦の叫びをまとめた一冊。名画とそれに添えられたつぶやきとのギャップには、思わずふきだしてしまうが、ああ、こんな風に絵を鑑賞したっていいんだよね、と私などは妙に安心してしまう。

 

毎日続く家事と育児に疲れ果てた主婦たちの心の叫びには「あるある」と共感続出だそうだ。では、さっそくいくつかの名画に添えられたツイートを紹介してみよう。

 

■フェルメール『牛乳を注ぐ女』

16時半の家庭訪問「先生これ今日何杯目のお茶なんだろう」

(『#名画で学ぶ主婦業』から引用)

フェルメールの絵の中で最もよく知られている最高傑作で、メイドが土鍋に牛乳を注ぐ姿を描いたもの。高価なラピスラズリを原料としたフェルメール・ブルーがメイドの前掛けとテーブルにさりげなく置かれたクロスに使われている。現在、開催中の「フェルメール展」で観られる、オランダ国立美術館所蔵の至宝だ。

 

無表情で手元だけを見つめながら作業をする女性を、子どもの家庭訪問にきた先生にお茶を入れる自分に重ね合わせる、その想像力に驚いてしまう。本書では次のように解説している。

 

彼は当時のオランダの画家たちと同じように作品に暗喩を織り込みながらも、自らの仕事に専心するオランダ女性の使用人の真摯な姿を描き出そうとした。だからこそ鑑賞者は無心な表情のこの女性に自然に寄り添い、想像をめぐらせてしまうのかもしれない。

(『#名画で学ぶ主婦業』から引用)

 

はじまりは『マラーの死』を観た主婦のツイートから

出典:プレスリリースより

 

”#名画で学ぶ主婦業”のハッシュタグをつけて最初に投稿したのは、主婦である「吾輩はたぶん猫」さん。ジャック=ルイ・ダヴィッドの『マラーの死』を観た瞬間に閃いてしまったつぶやきだった。

 

「来週月曜日は給食はありませんのでお弁当を持たせてください」という学校からの手紙を当日朝息子のランドセルから発見。

(『#名画で学ぶ主婦業』から引用)

 

フランス革命指導者、ジャン=ポール・マラーが暗殺された場面を描いた作品だが、悲劇の殉職者の神々しい表情から、朝に青くなる主婦を想像してしまうそのギャップがすごい!

 

「吾輩はたぶん猫」さんは、若いころから美術鑑賞が好きだったが主婦業が忙しく、なかなか観に行かれないのが現状だそう。だからこそ、日ごろの苦労を笑いにかえて楽しんだり、いろんな人と交流できるツイッターの存在が、とてもありがたいのだそうだ。

 

 

ドラクロワ『民衆を導く《自由の女神》』を観ていざ!

では、その他の名画に添えられたツイートもいくつか紹介してみよう。

 

息子が寝てTwitterに繰り出す時の私

(『#名画で学ぶ主婦業』から引用)

 

ルーヴル美術館所蔵の19世紀ロマン主義の傑作、ウジェーヌ・ドラクロワの『民衆を導く《自由の女神》』に対するつぶやきは、多くの主婦たちの気持ちを代弁しているのかもしれない。バスティーユ(息子)陥落! 自由は我が手中にあり! というわけだ。

 

 

ダ・ヴィンチの『サルバトール・ムンディ』の微笑から

……お母さんがどうして怒ってるかわかる?

(『#名画で学ぶ主婦業』)から引用)

 

レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作で、サルバトール・ムンディとは世界の救い主という意味で、イエス・キリストを指す。

 

描かれた表情から想像したツイートに対し、本書ではこう解説している。

 

本作のキリストの顔立ちは《モナ・リザ》のような優美な女性のようでもあり、また《最後の晩餐》のキリストをも想起させる。中世的な顔もレオナルド作品の特徴であり、諭すような母の姿を本作に見出すこともあながち間違いではない。

(『#名画で学ぶ主婦業』から引用)

 

この他にも本書には有名な宗教画、神話画、歴史画、肖像画、風俗画、寓意画とそこに添えられた主婦たちの叫びが収録されている。また、それぞれの絵画に対しては、作者の紹介とともに正しい解説も記されている。

 

西洋絵画を気軽に楽しみたい方におすすめの一冊だ。

 

【書籍紹介】

#名画で学ぶ主婦業

著者:田中久美子
発行:宝島社

あのハッシュタグが書籍化! 眠らない我が子・毎日続く家事・自由奔放な夫・義母とのすれ違い…止まらない心の叫びを主婦たちが「名画」にのせてツイートする!名画についての解説も!気づけば「美術」の魅力も見えてくる!?

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