2019年1月22日、福岡・埼玉両県警の合同捜査本部が関東在住のナイジェリア人の男数人を詐欺の疑いで逮捕した。彼らが行っていたのは、SNSを舞台にして展開する「国際ロマンス詐欺」と呼ばれる手口だ。
金塊を売った現金を送りたい
2年くらい前、フェイスブックにやたら外国人の友だち申請が増えた。何も考えずにどんどん承認していたのだが、ある時期からシリアとかイラクで展開する国連軍で活動しているというアメリカ陸軍兵士がやたら多くなった。承認するとすぐにメッセンジャーにレスが来る。自己紹介的なやりとりがちょっとあって、話はすぐに核心に向かう。こんな感じだ。
「先日パトロールに出ていて、とある町の外れでいくつか木箱を見つけた。中には金塊がぎっしり入っていたので、発見現場近くに埋めてきた。こうしたものがあることを知っているのは、私を含めて3人しかいない。現金化する段取りもついているが、送金する外国の口座が必要だ。ぜひとも協力してほしい。報酬は送金総額の10パーセントを考えている」
このパターンは、日本国内の住所と銀行口座をゲットするのが最終目的のようだ。うっかり住所を教えてしまうと、違法薬物などが送り付けられてくるらしい。
ザッカーバーグが自ら選んだラッキーなユーザー
全世界のFBユーザーからザッカーバーグ氏自身が選んだ「ラッキーなユーザーになった」という知らせを送り付けてくるパターンもあった。“グローバル戦略室”というFBには存在しない部署に勤務している人物から「多額の現金を送るので、ぜひ口座番号を教えてほしい」というようなメッセージが送られてくる。
どちらのパターンもやり方がきわめて雑。だって、こんな理由で口座番号をほいほい教えてしまう日本人なんているわけない。ところが、である。詐欺ビジネスは劇的な進化を遂げた。仕掛けが大きくなり、時間をたっぷりかけて“刺さる”ストーリーを餌にして騙そうとする。そして、被害額も大きくなっている。
国際ロマンス詐欺
『国際ロマンス詐欺の卑劣な手口』(新川てるえ・著/インプレス・刊)の表紙や帯には、「被害額4500万円!」「SNSで広がるゲス野郎の甘い罠」といった文言が踊る。著者の新川さんは、このタイプの詐欺を次のような言葉で定義する。
「国際ロマンス詐欺」はインターネットの出会い系サイトやソーシャルネットワーキングサービスなどを通じて知り合った外国人から、恋愛をほのめかされ、結婚を申し込まれ、その後さまざまな金銭的要求が出てくる詐欺のことです。
『国際ロマンス詐欺の卑劣な手口』より引用
詐欺の主な媒体となるのは、相手から送られてくるメッセージだけだ。字面だけで騙されてしまう人などいるんだろうか? 実は、結構いるのだ。だが、騙される人はまったく悪くない。
リアルなケーススタディー
この本の一番の魅力は、なんといっても第2章の「私をだました詐欺師の嘘と罠」で丁寧に触れられるケーススタディーの数々だ。あまりにもリアルで、あまりにも切ない。最も詳しく紹介したいところなのだが、それは本書のネタバレになってしまうので、ごく一部だけに留めておく。
役立つのは、詐欺師のプロフィールのほぼすべてのパターンが紹介されている点だ。国連軍兵士、軍属の外科医、北海油田のエンジニア、銀行家…。それぞれのキャラがもっともらしいストーリーを携えて近づいてくる。絶対的に注意すべきキーワードを挙げておこう。
・プロフィール欄の現住所がイラクやシリア
・配偶者と死別
・一人息子、一人娘がイギリスの寄宿舎学校に通っている
この3点が揃ったら、相手は詐欺師と考えて間違いない。
英会話学習もきっかけに
本書によれば、英会話を勉強したいと思っている人が被害者になるパターンも少なくないようだ。これから先は、むしろこちらのほうが主流になるような気がする。自分の存在が本当であると思わせるため、ビデオチャットを盛り込むやり方も増えているという。
また、偽のビデオチャットが出回っているものもあります。リアルタイムでビデオチャットをしたから大丈夫だと信じないでください。偽ビデオを見破るためには、その場で何かしてほしい(例えば私の名前を紙に書いて見せてなど)と要望を出してみてください。そのとたんに急にネットワークが悪くなったといって切れてしまったりします。詐欺だからです。
『国際ロマンス詐欺の卑劣な手口』より引用
筆者の場合、最近は女性兵士――ほぼ全員がウェストポイント陸軍士官学校の卒業者という触れ込み――からリクエストが来ることが多くなった。先週はPrecious Happyが本名だと主張し続ける人間から2回続けて、異なるプロフ写真でリクエストが入った。プレシャス・ハッピーって…。明らかに嘘である名前をいじりまくる文章を延々と送ったら、ブロックされてしまった。でも、スレッドはFBの運営サイドにしっかり報告しておいた。
お金の話が出たところでブロック&報告
ロマンス詐欺の一番の予防策は、リクエストを承認しないことに違いない。詐欺師の側に立てば、無視されるのが一番痛いはずだ。ただ、乗っかってしばらく話を続け、お金の話が出たところでスレッドを報告すると、被害者を減らすことにつながるかもしれない。
発端になる文章が同じ内容であることがあまりに多いので、AIが投入されているのではないかと疑っていたのだが、ナイジェリア人グループが埼玉にあるアジトでオペレーションを行っていたとは…。本質が意外にアナログで、そしてドメスティックだったことに驚いている。
【書籍紹介】
国際ロマンス詐欺の卑劣な手口
著者: 新川てるえ
発行: インプレス
「国際ロマンス詐欺」はインターネットの出会い系サイトやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)などを通じて知り合った外国人から、恋愛をほのめかされ、結婚を申し込まれ、その後さまざまな金銭的要求が出てくる詐欺のことです。プロの詐欺集団が行っている犯罪なので、必ずしも世間知らずだから騙されるというわけではありません。誰もがターゲットにされる可能性があり、誰にでも起きうる問題です。しかし、日本ではこの問題に対する認知度は非常に低く、泣き寝入りする人も少なくありません。本書では、被害の拡大を防ぐためにに、実例と被害の特徴、被害に遭わないための注意点、被害に遭った場合の対処法などを紹介。
特に女性の皆さんはぜひ参考にし、被害を未然に防ぎましょう。