大きな壁から花々とともに鮮やかに流れ落ちる滝、洞窟のような暗い空間を猛スピードで縦横無尽に飛び交うカラス。それらは手を触れると、動く方向を変えたり色を変えたり、さまざまに変化し、まるで見ている者を作品の世界へと招き入れるように動く……。
そんな非日常空間を体験できるアート作品を、デジタルテクノロジーによって生み出しているのがアート集団の「チームラボ」。2001年から活動を開始し、アーティスト、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者など、あらゆる分野のスペシャリストから構成されるアートコレクティブです。
今回は、チームラボが話題のスポット「メッツァビレッジ」で手がけた『チームラボ 森と湖の光の祭』のレポートから、代表である猪子寿之さんのインタビュー、現在全国で体験できるさまざまな作品の紹介など。その全貌を垣間見てみましょう。
静かな湖と湖畔の森に出現した共鳴し合う光のアート空間
「メッツァビレッジ」は2018年11月、埼玉県飯能市にオープンした、北欧のライフスタイルが体験できる施設。2019年3月には宮沢湖を中心とする同エリア内に、フィンランドで誕生したムーミンの物語をテーマとする「ムーミンバレーパーク」が開業予定とあって話題を集めています。
この「メッツァビレッジ」の宮沢湖と湖畔の森を、人々の“存在”によって変化するインタラクティブな光のアート空間に変える展覧会が『チームラボ 森と湖の光の祭』。宮沢湖を縁取るように展示された光る物体は、人が触れると光の色を変化させ、色ごとに異なる音色を響かせます。そして、その光は近隣の物体と森の木々に伝播し、広がっていくのです。その長さは3km近くに及び、湖面に光を投影しながら、次々に連続して色を変化させていく湖畔の壮大な風景は、圧巻のひと言です。
「今回、湖と森という素晴らしい場所で開催するということで、自然をそのまま活かしたアート空間を目指しました。デジタルと自然は、もしかしたら対極にあるように思われるかもしれません。でも、私たちが作品に使っているデジタルテクノロジーは主に光と音です。物質的ではないものだから自然を傷つけることなく、そのままの姿かたちを活かすことができるので、実は、デジタルと自然は相性がいいんじゃないかと。この作品のように、森そのものがアート空間になり得るのは、デジタルアートだからこそ。そう思っています」と、チームラボ代表の猪子寿之さん。
湖のあるロケーションが舞台ということで、今回は水面に立つ物体もお目見え。水面に立つ物体に触れることはできないが、風や、会場内のどこかにある物体に誰かが触れたことで生まれた色が伝播して、水面の物体の色も変化し、森全体に広がっていく。向こうのほうから光が押し寄せてくれば、向こうに人がいることを意味します。そのため、このアート空間を訪れた人は普段よりも自分以外の人々の存在を意識することになるという面白さもあります。
暗がりのなか、行ったり来たりを繰り返し、広がっていく美しい光の波。つまり、このイベントが楽しめるのは太陽が沈んでから。夜に湖と森を散策するという貴重な体験を通して、アート空間と化した自然のなかで新たな発見に出会えるはずです。
【Information】
チームラボ 森と湖の光の祭
所在地:メッツァビレッジ(埼玉県飯能市宮沢327-6 メッツァ)
電話番号:0570-001-630
期間:〜2019年3月3日
開場時間:2月11日まで17:30〜21:00(最終入場20:00)、2月12日から18:00〜21:00(最終入場20:00)
https://www.teamlab.art/jp/e/metsavillage/
自分と自然、世界との新しい関係がアートによって生まれる
いよいよチームラボのことを、もっと詳しく知りたくなった人も多いはず! 今回折良く、我々アットリビング編集部はチームラボの代表である猪子寿之さんに話を伺う機会を得ました。
自然のなかに一見相反するようなデジタルを持ち込むことで、あらたな空間を生み出すチームラボ。人間と自然、あるいは自分と世界の間に境界はないと考え、“ボーダレス”を重要なキーワードとしているといいます。まずこの『チームラボ 森と湖の光の祭』における“ボーダレス”なポイントとは?
「制作に入る前に宮沢湖の周りを歩いて、地面と水面の高低差がない場所を探したんです。そうしたら、ちょうど入り江のような場所があって。そこで、水面に立つ物体をつくり、地上にも自立する物体を置いて、境界なく地面と水面がつながった場所にしました」(猪子さん)
そもそもなぜ“ボーダレス”なアートを生み出そうと思ったのでしょう?
「映画や演劇、テレビなど、20世紀のコンテンツは、どれも人々に“意思”を捨てさせ、“身体”を捨てさせるものばかり。コンテンツ内に登場する主人公に感情移入だけしていれば、勝手に物語が進んでいくんです。アートも、意思を捨てないまでも身体は捨てさせられていました。絵画の前では、静かに止まって見るものだとされていますからね」(猪子さん)
でも「人間は本来、身体で世界を認識するもの」だと猪子さんは考えているそう。記憶を司る海馬は、運動によって鍛えられると言われていることからも、「自分の価値観が変わるような大切な体験は身体で認識するものではないか」と。
「感情移入する対象となるだけのものではなく、意思のある身体で、自ら世界に入って行って、その世界を認識できるような体験ができるものをつくりたかったんです。映画やテレビのような、簡単に感情移入できるものが悪いとは思わない。でも、そういうものだけが世の中に溢れているのがイヤなんです」(猪子さん)
そうして、お台場の「チームラボボーダレス」や、豊洲の「チームラボプラネッツ」のように、作品と作品、作品と人間との境界を取り払い、鑑賞者が自らの意思で身体を動かしてアートを知覚できるような作品を生み出していったわけです。
そして次に“ボーダレス”にしたいと思っているのは、時間だとか。
「時間は連続しているにも関わらず、人間は自分が生きた時間しか認識できない。たった80年くらい前に起きた太平洋戦争も、当時生きていなかった人はフィクションの世界のように感じてしまう。だから、同じ過ちを繰り返そうとしてしまうんです。つまり、自分が生きた時間と生きていない時間には境界がある。でも、何万年という年月を経て形づくられた巨石や洞窟、何千年という時間を生きてきた森などに、アート作品をつくって体験してもらうことで、多くの人が認識の境界を超えて、長い時間の連続性を感じられるんじゃないかと思っているんです」(猪子さん)
チームラボが創り出す、連綿と続く“空間”や“関係”、“時間”を、ぜひ体感しに行ってみて。
“チームラボ”へ遊びにいこう!
作品同士が関わりをもって連動したり、鑑賞者が作品に触れることで新たな表現が生まれたり、森や湖とデジタルが融合したり。作品、人間、自然、時間……あらゆるものの境界を超えて体験できる、かつてないアート作品。そんなチームラボの作品現在体験できる場所を紹介します。
・「森ビルデジタルアートミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」
2018年6月21日にオープンした“境界のない”アートのミュージアム。チームラボの作品のみで構成され、約1万㎡の展示スペースに約60点もの作品を展示している。その名のとおり、作品と作品の境界を設けず、互いに関わりをもつという点も見どころ。
【Information】
所在地:東京都江東区青海1-3-8 お台場パレットタウン
電話番号:03-6368-4292(10:00〜18:00)
開場時間:平日10:00〜19:00、土日祝10:00〜21:00
定休日:第2・4火曜 ※開場時間・定休日は時期により異なる
https://borderless.teamlab.art/jp/
・「チームラボプラネッツ TOKYO」
身体ごと作品に没入し、自分の身体と作品との境界を曖昧にしていく「Body Immersive」をコンセプトとした超巨大没入空間。人が触れることになって変化していく超巨大な作品群から構成されている。自分や他者の存在で世界が変化していくことから、自分と他者、自分と世界との関係を考え直すきっかけになるかも。
【Information】
所在地:東京都江東区豊洲6-1-16 teamLab Planets TOKYO
電話番号:非公開
期間:〜2020年秋
開場時間:平日10:00〜22:00(最終入場21:00)、土日祝9:00〜22:00(最終入場21:00)
定休日:2019年2月7日、2019年3月7日 ※開場時間・定休日は時期により異なる
https://planets.teamlab.art/tokyo/jp
・「チームラボ 広島城 光の祭」
非物質的であるデジタルテクノロジーによって、街を物質的に変えることなく“街が街のままアートになる”というプロジェクト「Digitized City」。その一貫として、歴史的建造物である広島城を、人々の存在によって変化するインタラクティブな光のアート空間へと変えていく。
【Information】チームラボ 広島城 光の祭
所在地:広島県広島市中区基町21-1
電話番号:082-222-1133(平日9:30〜17:30)
期間:2019年2月8日〜4月7日
開場時間:18:30〜21:30(最終入場21:00)
無休
https://www.teamlab.art/jp/e/hiroshima
サイエンスもアートも、時を経て人が積み上げてきたもの
最後に、パーソナルなことを聞いてみました。アート集団の代表である猪子さんが、個人的に影響を受けたアーティストとは?
「今まで見てきたアーティスト、すべてです。アートは積み上がっていくものだから。アートだけでなくサイエンスも、なんでもそうです。サイエンスでは、ニュートンの力学の上に積み重なっていって、物理が発展していく。アートも、いろいろな世界の見え方をたくさんの人が提示して、それが積み上げられてきたものだと思います」
その世界の見え方のなかでも特に興味をもったのが、猪子さんが「超主観空間」と呼ぶ、日本画など近代以前の東アジアの絵画にみる世界の見え方だそう。
「人間の目はフォーカス範囲が狭くて浅い。でも、もっと広い範囲が見えていると思っている。それは、時間を遡って、見えたものを脳内で空間に変換しているからです」
たしかにカメラのレンズは、人間の目に比べるとフォーカス範囲は少し広いのですが、それでもシャッターを切った瞬間にレンズが捉えた範囲しか写すことはできません。
「特に現代人は、レンズを通して撮影された写真や映画によって空間を認識することに慣れているから、例えば日本画を空間ではなく平面だという。でも、本当は論理構造が異なるだけで、写真も日本画も空間を論理的に平面へと変換しているんです。写真には、カメラを構えている人は写らない。でも、日本画のように、自分と時間や世界の境界が曖昧な論理構造であれば、目の前に今あるものだけでなく、時間を遡って情報を紡いで描くことができるので、描き手である自分が絵画のなかに存在し得るんです」
屏風の右隻に京都の東側、左隻に西側を描く『洛中洛外図』のように、日本画など近代以前の東アジアの絵画では、人の目やレンズが同時に映し出すことができない空間を描き出すことができる。そこが面白いのだと猪子さんは言います。
「とはいえ、村上隆さんをはじめ、ダミアン・ハースト、ジェームズ・タレル、草間彌生……現代のアーティストにも好きな方はたくさんいます。でも、今一番好きなのはフランス人の庭師。ジル・クレモンという作庭家です。彼がつくった庭は、まったく人の手を感じさせない、自然そのものの美しさがあって、本当に素晴らしいんですよ」
多くの偉大なアーティストたちによって積み上げられてきたアートの土壌で、制作を続けるチームラボ。自らがつくりあげた作品の上に、また新たな作品を積み上げていくことで、「つくりたい作品の完成度が上がっていく」と猪子さんは語ります。
チームラボが“つくりたい作品”。私たちはその進化の過程を目撃し、身体で体験することができます。その体験は、きっと、「自分の価値観が変わるような大切な体験」となるのではないでしょうか。
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