Oculus Questは、PCとの接続がいらず、個人にとって手を出しやすいVR機器といえる。Oculus自身、個人市場でゲーム機のようにヒットすることを期待しているのだろう。
だが一方、VR市場はなかなか大きく立ち上がらない。従来のビデオゲームなどと比較しても、「体験しないとスゴさがわかりづらい」「体験したあと、毎日その体験を繰り返したいと思えるアプリが生まれていない」というハードルがあるからだ。近いうちにそうした問題を解決するような用途が生まれる可能性は高いが、少なくとも現在、それがあるか、というと、そうではない。
だがそれゆえに、ヒットの可能性がある市場もある。それは「ロケーションビジネス」だ。簡単にいえば、ゲームセンターやアミューズメント施設、美術館や展示会などでの利用のことだ。
現在のVR市場においても、もっとも安定的なビジネスができているのはこのロケーションビジネスだ。VR体験としてはすばらしいが、買って家で楽しむほどではない……というシーンは意外と多い。アミューズメント施設や美術館のアトラクション、展示会での体験や企業の研修など、「個人が買うのでなく、企業が買った機器で体験を提供する」形には十分な価値がある。企業側がアプリを作り込めば、すぐにビジネス化できる。
ただし、こうしたロケーションビジネスにも課題は多い。VRは機材が多く、それを管理するのが大変だ。体験は5分で終わっても、その準備に15分かかったりする。ロケーションビジネスでは、「1日に客を何回転させられるか」が重要。行列を減らすにも、収益を上げるにも、手軽に扱えて高回転であることが求められる。それには、PCベースの機器はちょっと面倒。ケーブルの存在も邪魔だ。
しかしQuestは、ケーブルがないし管理もシンプルだ。価格も安いので、PC+VRヘッドセットにかかるコストの4分の1で済む。ということは、ビジネスのリスクがそれだけ減る、ということだ。
特別なセンサーを部屋に設置しなくても「自由に動ける」ことも大きい。従来の機器ではセンサーを配置しておく必要があり、そのために体験スペースの整備にも手間がかかった。複数人数で同時に楽しめるゲームを作るのも大変だ。だが、Questなら、そうした問題が起きにくい。
Questは性能がPCベースの機器よりも低く、そこに難点はあるが、要は「Questにターゲットを合わせて作ればいい」だけの話で、ビジネス上の障害は小さい。
また、こうした姿は「ゲーム機」としてのQuestにも良い影響を与える可能性はある。過去、家庭用ゲーム機などは、ゲームセンターでヒットしたゲームを遊ぶものとして注目を集めた。「あのゲームを自宅でも」という考え方は、とても説得力があってわかりやすい。VRにおいても、ロケーションビジネスでヒットした作品が家庭での普及に影響を与える……と予測する開発者は少なくない。
こうしたことを考えると、意外や意外、Questはまず「家の外」でヒットし、その後、家の中にはいっていく……というビジネスモデルになるのではないか。
筆者はそんな風に考えている。
●次回Vol.80-1は「ゲットナビ」8月号(6月24日発売)に掲載されます。
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