イベントに新作文房具のプロモーションにと、ますます引っ張りだこの文具ソムリエール・菅未里さん。仕事柄、文房具を試す機会は多く手元には山のような文房具が……。そんななか、自腹を切ってまで手に入れた、本当にいま気に入っている文房具とは何なのか?
前回は、「計算は間違いないが愚痴が止まらない電卓」
https://getnavi.jp/stationery/385095/
今回の“自腹文房具”は、夏にふさわしい「ガラスペン」です。
ガラスペンは夏にぴったり
数年ほど前からですが、ガラスペンがブームになっていることをご存知でしょうか。ガラスペンとは、読んで字のごとくガラスでできたペンです。溝があり、そこにインクが溜まる仕組みになっています。
ガラスペンの何がいいって、この唯一無二の美しさです。“重厚な透け感”という矛盾する美しさを体現できるのは、ガラスペンだけです。とくに蒸し暑い日本の夏には、ガラスペン以上に合うペンはないのではないでしょうか。
というと、見て楽しむ趣味の道具で実用性はないように思われるかもしれませんが、今のガラスペンはちゃんと、書くことも楽しめるようになっているのです。
吹きガラスで作ったペン
というわけで、今年もガラスペンの季節がやってまいりました。私は当初イタリアのガラスペンに惹かれていたのですが、灯台下暗し、日本国内に優れた工房がたくさんあることを知ってからは、国産品ばかり買っています。特に岡山県の「Glass Studio TooS」(グラススタジオトゥース)の作品は、もう3本目です。
こちらのガラスペンは何を買っても間違いがないのですが、今回ご紹介する「KABUKI」シリーズの「松王丸」は、非凡です。というのも、見ての通り透明ではないのです。ガラスペンは透明感を楽しむものだと思っていたのですが、自らその特権をかなぐり捨てつつも内部が澄んでいることを予感させるこの造形には、息をのむ美しさがあります。
グラススタジオトゥースのガラスペンは吹きガラスで作ってあるのが特色であり、また、漆のような独特の艶は、砕いた色ガラスを窯の炎で溶かす特殊な作り方によるものです。ちなみに、万が一割れてしまっても3000円で修理してくれるのもありがたいですね。
松王丸というネーミングでピンときた方も多いと思いますが、黒い松王丸の他にも「和藤内(わとうない)」(赤)、「景清」(ブルー)の3種類があります。そう、どれも歌舞伎の演目に登場するキャラクターに由来するんですね。
ガラスペンならラメ入りインクも楽しめる
もうひとつ、ぜひガラスペンに合わせて頂きたいインクもご紹介しましょう。エルバンによるラグジュアリーライン「ジャック・エルバン」から、エルバンの創業340周年を記念して発売された「アニバーサリーインク1670」のヘマタイトレッド(3400円・税抜き)です。
1670年にフランス・パリで創業したエルバンは、もともとは手紙に蝋で印をする封蝋のメーカーでした。誰でも知っている、とあるブランドの香水瓶の封蝋を手掛けていたりもします。
そのエルバンのアニバーサリーインクであるわけですが、ラメが入っているのが特徴です。万年筆だと詰まる恐れがあるラメ入りインクですが、溝にインクをつたわせるガラスペンなら、心配せずに使えるんですね。ガラスペンの特権のひとつです。
インクは瓶のデザインも楽しめるものですが、これはアニバーサリーインクだけあって、エルバンの原点である封蝋のようなキャップを採用しています。このビジュアルが気にいって衝動買いしたのですが、ありがたいことにガラスペンとの相性は最高。この夏も楽しませてくれそうです。
菅未里の自腹買い文房具バックナンバー
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