衆議院選挙がひと段落した。議員に重度障がい者が当選したり、選択的夫婦別姓の導入が選挙の争点となったり、いよいよ日本でも多様性の受け入れが始まった印象だ。
2020年には、東京オリンピック・パラリンピックがやってくる。開催時には海外から多くのパラリンピアンやその家族、障がいを持つ観客が来日するだろう。ますます東京を中心として、バリアフリー対応が求められるに違いない。それに先駆け、発売されたのが、「散歩の達人 首都圏バリアフリーなグルメガイド (旅の手帖MOOK)」だ。
グルメガイドブックは数あれど、バリアフリーに着目したのは意外にもこれは日本初だとか。企画・編集を担当した和久井香菜子さんに話を聞いた。
ーーバリアフリーのグルメガイドというのは、どのような内容でしょうか。
和久井「車いすのかたが入れる店を前提にして、アレルギー対応、嚥下調整食、補助犬(盲導犬、聴導犬、介助犬のこと)ウェルカムな店などをピックアップしています。店舗紹介には、入口やフロアの状況、トイレなどの設備についての項目を作りました。もちろん味はお墨付きです」
ーーそうした情報は、既存のガイドブックやネットにはないのでしょうか?
和久井「試しに『車いすで個室に入れて、アレルギー対応をしている店』をネットで探してみてください。まずたどり着かないと思います」
ーー確かに、車いすOKの店は分かっても、個室に入れるかという情報はないですね。
和久井「私は、ブラインドライターズという、視覚に障がいのある方たちに文字起こしをしてもらう事業をしています。メンバーで飲み会をするのに、車いすユーザー、アレルギーのある人、視覚障がいのかたのために静かな場所(個室)のある店を探すのですが、いつも非常に苦労をするんです。ネットで探せないので、めぼしい店があったら、片っ端から電話をかけるローリング作戦です。こうした多様性に理解のある店ばかりではないので、幹事の子は最後にはいつも精神的に疲れ果ててしまう。どんな人でも、自由に食事を楽しむための情報は絶対に必要だと思い、同じ気持ちを持つ編集・ライターの赤谷まりえさんと企画しました」
ーー実際に取材をして、どうでしたか?
和久井「新しい発見がたくさんありました。まず、設備が充実している必要はあまりないんです。多少段差があっても『できることはやればいいから問題じゃない』という店のかたが何人もいました。それから、美味しい食事は、ミキサーにかけて嚥下対応食にしても美味しい。老舗店は長く経営する中で障がい者のお客様を受け入れる機会が多いため多様性への理解が深かった、だからこそ長く続いているのだと実感したこと。そして、車いすやアレルギーといった個人の特性に寛容だということは、障がいのない人たちにももちろん優しい店だということです。バリアフリー対応の店は、マイノリティのために人材や経費をかけている店ではなく、誰が行っても心地よい店なんです」
ーー掲載店は実際に行ってみたのですか?
和久井「既存のバリアフリー情報がほぼほぼ当てにならなかったこと、『美味しく』かつ『バリアフリー』という2つの条件を満たす店の情報がなかったことなどから、すべての店に行って、チェックをしています。取材中は毎日ずっとお腹いっぱいでした(笑)」
ーー出版されて、反響はありましたか?
和久井「SNSで発売を告知したら、たくさんのシェアやコメントをもらいました。『これは本当に嬉しい! バリアフリーなレストランのために激混みなJRを3駅移動してました』『これは画期的な取り組み!』『いつもお店探すときにバリアフリー基準で電話をかけまくったり事前にお店へ足を運んでます』『グルメガイドにトイレの写真掲載って普通ならあり得ない!』といった声が多く寄せられました。また『地方版をつくって欲しい』という声も多かったです」
ーー隠れたニーズを掘り起こした一冊なのですね。
和久井「内容に関しては、反省点もたくさんあるのですが、まずは第一歩ということで大目にみていただけると嬉しいです。周囲に障がいのあるかたがいない人でも、普通に美味しい店ばかりですから、ぜひ買ってみて欲しいと思います。中には、当事者の方たちのコラムや、障がいについての情報など、ガイドだけではない情報をたくさん盛り込みました。飲食店のかたにはバリアフリーの視点をぜひ取り入れていただきたいとも思っています。知らないから、差別をしたり、バリアを作ってしまうこともあります。この本が多様性について考えるきっかけになると嬉しいです」
散歩の達人 首都圏バリアフリーなグルメガイド (旅の手帖MOOK)
1400円+税
発行:交通新聞社刊