文房具
万年筆
2019/9/29 19:30

【菅未里の自腹買い文房具】万年筆ファン垂涎ブランド「ピナイダー」の高度な技をハニカム&スケルトンに見る

イベントやメディアへの出演、新作文房具のプロモーションなどに引っ張りだこの文具ソムリエール・菅未里さん。仕事柄、文房具を試す機会は多く、手元には山のような文房具が……。そんな菅さんが、自腹を切ってまで手に入れた、いま本当に気に入っている文房具とは何なのか?

いよいよ日本を飛び出し、世界に点在する文房具カルチャーの集積地を巡るなかで、イタリアで入手した文房具を披露していただきます。2度目のイタリアで再訪が叶った店とは?

「菅未里の自腹買い文房具」バックナンバー
https://getnavi.jp/author/misato-kan/

 

ナポレオンが愛したブランド、ピナイダー

今回のイタリア出張で行きたかった場所が、もうひとつだけあります。フィレンツェにある文具・革製品ブランド「Pineider(ピナイダー)」の本店です。

 

このピナイダーの本店を、私はかつて一度だけ訪れたことがありました。2年前のイタリア出張のときです。しかし、その訪問は商談が目的だったため、プライベートの買い物はできませんでした。以来、私はずっと再訪を願っていたのですが、ついにそのチャンスがやってきたということです。

 

ピナイダーの創業は1774年。紙の加工に定評があったようで、あのナポレオン・ボナパルトもピナイダーの商品を愛用したと言われています。

 

これほど長い歴史を誇るピナイダーですが、そのデザインは実に革新的です。奇抜なのに美しいという、とても難しいふたつの要素を両立させているのは、非凡としか言いようがありません。私は中でも、バネを使った吸入式万年筆である「ミステリーフィラー」に目をつけており、これを買うために本店を再訪したのでした。

↑フィレンツェにあるピナイダーの本店。店内には、万年筆やレターセットなどの文房具のほか、バッグやベルトなどの革製品が美しく並べられている
↑フィレンツェにあるピナイダーの本店。店内には、万年筆やレターセットなどの文房具のほか、バッグやベルトなどの革製品が美しく並べられている

 

メーカーの力の差が現れるスケルトン

ところがそこで、私はまったく見たことがないデザインの万年筆に出会います。透明なハチの巣というか、宇宙船というか、とにかく奇抜なデザインです。しかし美しい。それが「ラ・グランデ・ベレッツァ ハニカム」でした。

↑万年筆「ラ・グランデ・ベレッツァ ハニカム」
↑万年筆「ラ・グランデ・ベレッツァ ハニカム」

 

かなり太いのですが、透明なハニカム構造なのでまったく太く見えません。だから、私のように手が小さい人にも似合います。888本の限定生産なので、シリアルナンバーも記されていますね。

↑尻軸の端部にシリアルナンバーが入る。これは800本中「432」番のよう
↑尻軸の端部にシリアルナンバーが入る。これは888本中「432」番のようだ

 

この万年筆のすごいところは、「ハニカム」と「透明(スケルトン)」という難しいふたつの要素を両立させている点にあります。ハニカム構造が難しいことは言うまでもありませんが、実はスケルトンも簡単ではありません。美しい透明軸を作るには、濁りのない高品質のレジンを使用したり、接着剤を用いないなど、様々な工夫が必要です。

 

このハニカムはご覧の通り、見事に澄んでいます。これは簡単なことではありません。

 

風采が奇抜なだけではなく、実はとても困難な加工を施してある「ラ・グランデ・ベレッツァ ハニカム」。恐るべき万年筆です。

↑ペン先には、ブランドロゴと紋章が刻まれている
↑ペン先には、ブランドロゴと紋章が刻まれている