デジタル
2019/9/27 18:30

【東京五輪後、生活はどう変わる?】5Gの3大ポイントで近未来の形が見える!

「5G(第五世代)」とひと言で括られている次世代移動通信システムですが、その全貌は非常に複雑です。ここでは、どのように私たちの生活が変わっていくのか、5Gを語るうえで欠かせない3つの特徴を踏まえたうえで、具体的な近未来の姿に迫りましょう。

 

私が解説します

 

モバイルライター

井上 晃さん

スマートフォンやスマートウオッチ、格安SIMなど、最新モバイル事情に精通するライター。国内外を取材し、雑誌やウェブメディアを中心に記事を執筆。5G時代は、VRやARの進化に期待しています。

 

【5Gの強み その1】大容量通信

5Gの最大伝送速度は10Gbpsレベル(理論値)が予定されており、これは4Gの100倍の高速通信が行えることを表します。5G通信網が整えば、超高速な無線通信が可能になるのです。

 

8K映像の配信も可能でコンテンツの概念が変わる!

コレがミライ!

↑HMD(ヘッドマウントディスプレイ)で、遠隔地の鮮明なライブVR映像を視聴可能。スマホでは、映画やゲームを一瞬でダウンロードできます

 

「8K」の映像とは、フルハイビジョンの約16倍、4Kの約4倍という高画質なもの。NTTドコモなどがすでに8K3DVR映像を60fpsでライブ配信する実証実験を行っているように、5Gであれば8Kの膨大なデータもリアルタイムに配信できるようになると期待されます。

 

【こんなこともできる!】高精細な映像で細やかな部分を伝達できる

↑ワークショップや遠隔地の学校での授業など、映像配信をベースに行えるように。グローブなどを介して触感を伝達する技術が加われば、遠隔の陶芸体験なども可能になります

より細やかな映像を届けられれば、できることも変わります。例えば、救命現場での処置の映像を、遠隔地にいる専門医に届けてアドバイスをもらうといった活用も考えられています。

 

【ココが現在地】ラグビーW杯の映像を5G配信予定!

NTTドコモは「ラグビーワールドカップ 2019 日本大会」に合わせて、5Gプレサービスを実施。高画質映像を多視点や大画面で中継する予定です。KDDIは、6月開催の「KDDI 5G SUMMIT」で、ARを活用するスマートグラスを展示しました。

 

↑NTTドコモは5Gプレサービスとして、ラグビーの試合の様子をスタジアムにいながら多視点で楽しめる「マルチアングル視聴」を実施予定

 

↑同じくドコモの5Gプレサービスで、ラグビーの試合状況をライブビューイング会場に伝送。大画面に多視点映像を映し出すといいます

 

↑KDDI、nreal、メルカリらが実証実験を進める「Mercari Lens」。気になるモノや人を指すと、メルカリに出品中の類似商品が検索されます

 

【5Gの強み その2】低遅延

5Gでは、ネットワークの伝達を効率化したり、データ送受信時の待ち時間を短くしたりして、通信遅延を理論値1ミリ秒以下に抑えるといいます。これはLTEの10ミリ秒レベルと比べて10分の1以下。これにより、機械のリモート制御などがしやすくなります。

 

通信ラグの大幅な低減で自動運転や遠隔制御が現実に

コレがミライ!

↑自動運転時や遠隔地からの代理運転時も、急ブレーキが必要なことはあります。通信遅延が小さいほど、即座に対処できます

時速60kmで走行するクルマは1秒間に約16.7m移動します。自動運転制御において10ミリ秒の通信遅延があると、遠隔地から制御しても現実のクルマがその指令通りに動くまでに約15㎝の誤差が生じます。しかし、通信遅延が1ミリ秒なら誤差は数cmに収まり、より安全に制御できます。

 

【こんなこともできる!】 遠隔地にいるメンバーと中継しながらセッション

遅延が少ないと、遠くのバンドメンバーとオンラインで練習したり、ライブセッションを行ったりできます。すでにNTTドコモとヤマハはこうした技術「NETDUETTO」を開発中です。

 

【ココが現在地】ソフトバンクは実証実験でトラックの車間距離を自動制御

ソフトバンクは6月に公道でトラックの車間距離を自動制御する実証実験に成功しています。4.5GHz帯を用いた伝送遅延1ミリ秒以下の無線通信で、先頭車両との距離を自動調整しました。

 

↑車両は3台。先頭は有人運転で、後ろの2台は無線通信により位置情報や速度情報などを共有し、車間距離を調整

 

↑自動運転は地域のバスなどから導入される可能性も高い。写真はSBドライブが沖縄での実証実験に用いたバスです

 

【5Gの強み その3】同時多接続

5Gにおける1km2あたりの接続可能機器数は約100万台。これはLTEの約100倍の値です。いままで設置できる数が限られていたセンサーデバイスなどを大量に設置でき、いわゆる「IoT」の商用利用が拡大していきます。

 

なんにでもセンサーを搭載した高度スマート社会が実現!

コレがミライ!

↑パーソナライズされた特注品を効率良く製造できるシステムが浸透。これは「マスカスタマイゼーション」とも呼ばれます

 

ドイツのプロジェクト名に由来する「インダストリー4.0」というコンセプトは、AIやIoTをフル活用した”工場の自動化”を目指すもの。あらゆる機器がネットワークに接続され、店舗で採寸したり、インターネットで注文したりした商品が、自動的に必要分生産される時代は近い。

 

【こんなこともできる!】IoTセンサーを活用して人の作業をラクにする

林業&漁業や、インフラの管理などに大量のセンサーを活用する試みも増えてきました。災害などの被害状況を一瞬で把握できるモニタリングシステムなども有益と考えられます。

 

【ココが現在地】労働者の体調や職場環境を管理するスマートオフィス

ソフトバンクとWireless City Planningは5月、東広島市役所にて、5Gを活用したスマートオフィス実現に向け、実証実験を行いました。多様なセンサーを用い、働く人の各種データを収集するものです。

 

↑実験したオフィス。5G以外もBluetoothや無線LANなどを用いて「5Gヘテロジニアスネットワーク」を構築しました

 

↑スマートオフィスの椅子には、心拍や脈拍などの体調情報を計測するセンサーを搭載。ストレスレベルも把握します

 

【識者の目線!】「モノがサービス化する」5G時代に儲かるのは誰!?

薄く広い“サービス”の領域が5Gによって拡大する

 

ジャーナリスト

西田宗千佳さん

モバイル機器、PC、家電、ゲームなどに精通。取材記事を雑誌や新聞に寄稿するほか、テレビ番組の監修も手掛けます。

 

手元にハードウエアがなくても問題ない時代に!?

いきなりですが、ぶっちゃけると5Gが定着して儲かるのは誰でしょう? ポイントは「世の中がさらにサービス化する」ことにあります。

 

クルマが自動運転になるとすれば、クルマは「持ち物」からサービスに近くなっていきます。自動運転によって、必要なときに借りたり、必要とする人に貸したりするための基盤が整うことになるからです。

 

ゲームも同様です。これまでは手元に高性能なハードウエアがあることを前提としていましたが、こうした常識が変わります。5Gで手元からサーバーへとアクセスする時間が短くなると、グラフィックなどの処理をサーバー側で行い、映像や音だけを手元に送る、というやり方が実用的になります。こうした手法は「クラウドゲーミング」と呼ばれていますが、Googleもソニーもマイクロソフトも、このスタイルを次世代のゲーミングプラットフォームと考え、期待を寄せています。

 

クルマを買わず、ゲーム機を買わず、必要なときだけ「借りる」形態になるとは、「モノを売る」のではなく「サービスになる」ということ。すでに音楽や映像は、月額料金制で使い放題の「サブスクリプションサービス」が主流になりつつあります。5G時代になることで、これまでは「手元にハードウエアがないとできなかった」ようなことの一部まで、ネットワークの向こうにあっても大丈夫になります。その結果、「よりサービス化が進む」というわけです。

 

もちろん、5Gになったらいきなりクルマやゲーム機が売れなくなるとまでは言いません。ハードの価値がすぐになくなるほど素速い処理ができるわけでもないし、通信コストの問題もあります。ですが、5Gが普及してインフラの完成度が上がるほど、「クルマやゲームにそこまでこだわりがない人」向けにサービス化したビジネスが普及するという可能性は高い。2025年以降、5Gが普及しきった時代には、「薄く広いサービスの世界」は、大きな収益源になり得ます。

 

だからこそ、トヨタはクルマをサービス化するプラットフォームである「MONET Technologies」という会社を作るし、Googleはクラウドゲーミングに「Stadia」というサービスで参入するし、ライバルであるはずのソニーとマイクロソフトは、クラウドゲーミングの分野で提携するのです。

 

5GにおけるVR・ARは4Gにおけるスマホと同様

また、VRやARのような技術は、サービス化を促す5Gの恩恵を大きく受けるジャンルです。自分の目の前に見える風景に「情報を追加する」のがこれらの技術の本質なのですが、そのためには遅延が小さく高速なネットワーク技術と、世界中に広がるセンサーネットワークの連携が重要になります。スマホが4Gで花開いたデバイスだとすれば、VR・ARは5Gでブレイクする技術ということになります。

 

それらの変化を見据えたうえでも、なお圧倒的に儲かるのが「ネット上の〝場所〟を確保した企業群」です。

 

携帯電話ネットワークやそこにつながる大規模クラウドサービスは、駅に近い一等地のようなものです。どんなサービスも、ネットワークの「一等地」と無縁ではいられません。だからこそ、携帯電話事業者は大金をかけて5Gを整備します。楽天が携帯電話事業者になりたがるのも、彼らの仲間入りをしたいからです。また、AmazonやGoogle、マイクロソフトなどのクラウド大手の優位も続きます。彼らの価値が拡大していく流れは、4G時代でも5G時代でも変わらない構図になっているのです。

 

↑米国の5Gサービス開始直前に発表されたGoogleのゲーミングサービス「Stadia」。同時に登場した専用コントローラーは、これ自体がWi-Fiを搭載し、ハードを選ばず使えます

 

【5G時代のミライ予想図】日本で5Gはいつから始まる? 早わかりロードマップ!

↑韓国や米国に先を越されていますが、日本での5Gサービス開始は東京五輪前の春の予定。ラグビーW杯前に限定的なプレサービスを開始

 

5Gサービス開始当初は基地局側が4Gの基盤を生かして5Gに対応する予定で、5G本来の性能を発揮しきれません。完全に5Gに対応した超高速なインフラである5G NR(ニューレシオ)へと移行するのは、現在の予定では2022年以降となっています。

 

【ミライを感じるには、まず遊んでみるのが一番の近道】いますぐ5Gを体験できる「PLAY 5G」もオープン中!

PLAY 5G明日をあそべ

住所:東京都墨田区押上1-1-2 東京ソラマチ5F

5Gを理解するには、まずは体験してみるのがオススメ。NTTドコモは、遊びを通じて5Gが作り出す未来を体験できる展示を東京ソラマチに用意しています。今年7月にはスポーツをテーマにリニューアルされており、8月には夏休み向けのワークショップなども開催されました。

 

VRを使い元日本代表選手とフェンシングで対決!

フェンシング元日本代表の太田雄貴氏との対戦を選手目線で擬似体験できる「VRフェンシング」。高速・低遅延な通信による遠隔指導の可能性を実感できます。

 

乗馬しながらアバターを介したコミュニケーションが可能

「スペースファイター・乗馬」では、参加者が同一のVR空間にあるクロスカントリー場に集まります。会話をしながら、一緒に障害物乗馬レースを楽しめます。

 

都内の観光地を模したコースで車椅子にのって競走できる

8月下旬からVRを活用した車椅子レースを体験できる「Cyber Wheel 2」を展示。CGのコースは浅草や渋谷などの観光地や東京マラソンの走路を混合。

 

【5Gの対抗馬?それとも最高の相棒?】2019下半期は「Wi-Fi 6」にも注目!

Wi-Fiと5Gの連携は今後も変わらず必須!

2020年には、Wi-Fi規格の最新バージョン「Wi-Fi 6」(IEEE802.11ax)も正式に策定予定。最大通信速度が理論値で9.6Gbpsになり、「Wi-Fi 5」に相当するIEEE802.11acの約1.4倍に。すでにハイエンド機を中心に、ドラフト版に基づいた製品が登場しつつあり、今後さらに広がるでしょう。

名称Wi-Fi 6Wi-Fi 5Wi-Fi 4
基盤テクノロジーIEEE802.11axIEEE802.11acIEEE802.11n
最大通信速度(理論値)9.6Gbps6.93Gbps600Mbps
使用電波帯2.4/5GHz帯5GHz帯2.4/5GHz帯
ストリーム数841
チャネル幅20/40/80/80+80/160MHz20/40/80/80+80/160MHz20/40MHz
正式策定年2020年(予定)2014年2009年

 

Wi-Fi6対応機器はすでに登場済み!

ルーター

ネットギア

Nighthawk AX4

実売価格3万1860円

3万円台前半のエントリークラスのWi-Fi 6対応ルーター。MIMOは4ストリームで、5GHz帯接続時に最大2.4Gbps、2.4GHz接続時に最大600Mbpsの通信が可能。最大16台まで同時転送も行えます。

 

ノートPC

レノボ

ThinkPad P1(Gen 2)

23万9382円〜

15.6型の4Kディスプレイを備え、プロセッサーにはCore i7もしくはCore i9を選択できる高性能ノートPC。無線LANにはWi-Fi 6を選択でき、その場合、最大2.4Gbpsでの通信が可能になります。

 

スマホ

サムスン

Galaxy S10

実売価格7万7980円

5月に発売されたGalaxy S10シリーズもハード的にはWi-Fi 6をサポートしています。ただし、日本で販売されている端末に関しては、現時点では未対応。今後のソフトウェアアップデートでの提供になります。

 

文/森 有史(本誌) 文/井上 晃 イラスト/田川秀樹