単なるディスクレビューじゃなくて、アルバムを聴いて、曲とセッションしたような、身体の奥底までをさらけ出す【レビューコラム】を、人生早めの紆余曲折を七転び八起きしているアラサー女子・藤田華子さんがお届けします。第1回目は、ファンクサウンドを日本の歴史に絡めて描くレキシのニューアルバム「Vキシ」をレビュー。
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「落語とは人間の業の肯定である」
これは故・立川談志師匠のお言葉。
落語には往々にして、怠け者や盗人など“ダメ~な人間”が登場する。そして彼らが気丈な奥さんにたしなめられたり、夢をきっかけに一念発起したりして、笑い、時にほろりと涙する大団円に落とし込まれるのが定石だ。
25で結婚し、26で離婚した私。
身も心もボロボロだったその年の年末に、生前の談志師匠が得意とした「芝浜」という古典落語を聞いた。夫婦の愛情をあたたかく描いた、屈指の人情噺だ。いつの時代でも、酸いも甘いもぜんぶひっくるめて人間。離婚について思い詰めていた自分を肯定されたような気がして、人目もはばからず大号泣してしまった。「業を肯定する」ということはつまり「人間を肯定する」ことだ。人は尊い。
やや前置きが長くなったけど、レキシは、落語的だと思う。時代を超え普遍的なヒューマニティーを、最高にロマンチック、かつユーモアを交え歌っているから。6月に発売されたニューアルバム「Vキシ」(読み方はヴイキシ、5枚目なので「V」)には、平成の失恋ソングと見せかけた、鎌倉時代が舞台の曲が入っている。
《元さやもう戻れないの? 今もあきらめきれないよ》――「刀狩りは突然に」より
レキシの首謀者・池田貴史談。
「たとえば“刀狩りは突然に”という曲は、刀狩りについて書こうとぼんやり考え始めて、ふと、当時の人たちは大事にしていたものを奪われた……そうだ、彼女を奪われたのと同じようなもんだな! みたいな発想で曲になっていったんですよ」(『SWITCH7月号』より)
昨年の武道館公演、最後に歌われた”キラキラ武士”の前に池ちゃんはこんなMCをした。
「『すごい悩んでてもレキシを聴くとどうでもよくなった』ってよく言われるんですけど、それは本当にうれしくて。でも一番レキシに助けられたのは、俺だったなって」
救済というと大袈裟に聞こえるかもしれないが、人類にとって歴史は救済になりうる。そしてファンにとって、レキシも救いになりうる。そういう存在なのだ。私もこの平成、都会でサヴァイブするアラサーらしく悩みは尽きない。でもレキシを聴いていると思うのだ。平安や江戸を生きる女性と女子会をしたとしても、シャンパン片手に恋愛に仕事に生き方に、なんだかお互い共感する部分もあり、盛り上がる夜になるだろうなと。ちょうど「芝浜」で旦那を支えた女性に、結婚とはなんぞやを教えられたように。
そんなことを考えながら、レキシをBGMに表参道の街をヒールで歩く。
六本木通りに差し掛かった時、《乗りたい あのこの乗った牛車》という歌詞が軽快なメロディとともに流れてきて、思わず笑った。
【製品情報】
「Vキシ」
●CD+DVD+手書きジャケット:完全生産限定盤 VIZL-996 3800円(+税)
●CD+DVD VIZL-997 3800円(+税)
[CD]VICL-64586 3000円(+税)
*収録曲:全10曲収録予定
DVD収録映像
一、バラエティー番組風ドキュメンタリー
〈レキシ池ちゃんと元気出せ!遣唐使、百休と行く
「いい旅レキシ気分〜一休さんを巡る度〜」〉
二、レコーディング・ドキュメンタリー