西暦1110年5月5日、イングランドで観察された皆既月食は、月の姿が完全に見えなくなるもので「暗黒の月食」として記録に残っています。それから910年の時を経て、その原因が日本の浅間山の噴火が関係しているとする最新の研究論文が発表されました。
赤黒く見えるはずの皆既月食が真っ暗に
地球から月が見えるのは、太陽の光を受けて反射するから。しかし太陽と地球と月が一直線上に並んだときは、月は地球の影に隠れて太陽の光を受けることができなくなります。
そして月が欠けていくように見え、やがて月全体が地球の影に隠れて見えなくなるのが「皆既月食」です。ただ皆既月食でも月は真っ黒になるのではなく、ほのかに赤黒い色で見えます。これは太陽光のうち、波長の長い赤い光が地球の大気を通過することで屈折するためなのですが、1110年5月5日にイングランドで見られた皆既月食では真っ暗となり、月の姿も見えなくなりました。
この原因が何だったか突き止めるため、スイスのジュネーブ大学の研究チームはグリーンランドと南極の氷河から氷床コアを取り出し、さらに北米やヨーロッパ、アジアの年輪についても分析しました。氷床コアは古代の気候や環境を調べるためによく使われる手法です。この調査の結果、南極の氷床コアからは1109年に、グリーンランドの氷床コアからは1108年から1113年の間に複数回の火山の噴火が起きていたことが判明。また1109年の北半球では従来より1度気温が低かったこともわかりました。研究チームではこれらに加え、1100年~1120年の間に起きた月食の調査を分析したところ、1108年に起きた噴火が「暗黒の月食」に関連すると結論づけたのです。
1108年の浅間山の噴火が関係
この1108年に起きた噴火というのが、長野県と群馬県の堺にある標高2568メートルの浅間山。浅間山の1108年の噴火は、過去に起きた浅間山の噴火のなかでも大規模であったと記録されており、火砕流が周辺の街まで流れたと言い伝えられています。この噴火によりイオウを含むエアロゾルが噴出されましたが、皆既月食で月が真っ暗に見えた原因はそれではないか。また、その影響で1109年に気温が1度下がることになったのではないか、と同研究チームは発表したのです。
どこかの国で噴火が起きれば、地球全体にまで影響を及ぼすことがわかっていますが、イングランドで観察された暗黒の皆既月食が日本の浅間山の噴火が関連していた可能性があったとは、驚く方もいるかもしれません。この研究チームは、まだ特定には至らなかったものの、浅間山の噴火と同時期に別の噴火も世界で起きていたはずだと推測しています。