日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、ブラジルで進む環境に優しいエアコン普及のための取り組みについて取り上げます。
2020年7月、ブラジルで空調機向けの省エネ基準が改正されました。これは、ブラジルで日本のエアコンメーカー・ダイキン工業が、JICAの民間連携事業「中小企業・SDGsビジネス支援事業」を活用して現地の大学などと連携し、時代に対応できていなかった規制制度の改定をブラジル政府に働きかけてきた結果です。民間企業の取り組みによって国の規制改定に至ったのはブラジルでは初めてでした。これに伴い、今後、ブラジルのエアコン市場は、環境に優しい空調機が普及しやすくなり、エネルギーや環境保全の課題に貢献することが見込まれています。
空調機の性能評価の基準が改正された
ダイキン工業は、JICAの民間連携事業として「ブラジルでの環境配慮型省エネエアコンの普及促進事業」を2018年から実施しています。このブロジェクトが始まった頃のことを、当時の担当者だったJICA民間連携事業部の関智子職員は次のように振り返ります。
「ダイキン工業は、現地に法人と工場を持ち、すでにブラジル市場に参入していましたが、ブラジルの空調機の性能評価の基準が時代に適合していなかったため、同社製のエアコンの性能がどれほど高くとも、ブラジルの市場では評価されませんでした。しかし、単独の民間企業が国の評価制度や基準改正に向けて取り組むには限界があります。ダイキン工業によるJICA民間連携事業は、ブラジルのエネルギー課題への対応と日本企業の技術活用、その両方に貢献できる事業としてスタートしました」
ダイキンブラジルの三木知嗣社長は、「ブラジル政府も、エネルギー問題をどうしていくかということについて危機感を持っていました。そのタイミングで、JICAと連携することで『日本が国として動く』という姿勢をみせられたことは大きな力になりました」と語ります。
今回の改正では、空調機の性能評価方法について、国際的に広く用いられる評価基準のISO16358が適用されます。この改正基準は2020年7月に公布後、2023年と2026年には、段階的に時代に合わせた基準値の義務化が予定されています。
時代遅れであったブラジルの省エネラベリング制度
ブラジルでは、エアコンの省エネ性能を表示するラベリング制度も機器の性能を適切に反映できるものに改善されます。この省エネラベリング制度については、省エネ性能に優れ世界の主流になっているインバーター機が正しく評価されておらず、問題が山積していました。
これまでは非インバーター機を対象とした基準になっており、約10年間も省エネ基準の見直しが行われていませんでした。そのため、インバーター機が非インバーター機に比べて最大で6割も消費電力が低いにもかかわらず同一カテゴリーに分類されており、省エネ品質表示としては実質的に機能していないものだったのです。
「ブラジルで売られているエアコンの多くが、省エネ性能に劣り、他国ではもはや売れなくなったような旧型製品です。しかし、従来のラベリング制度では市場に流通するこれらの製品の9割以上が最高グレードのAランクに分類されるため、ユーザーにとっては非常に分かりにくい制度になっていました」と、三木社長はブラジルの状況を振り返ります。
旧制度のままでは、インバーター機が正当に評価されず、その普及が遅れることは、ブラジルのエネルギー・環境問題にとって大きな課題でした。こうして、ダイキン工業とJICAは、これらの課題を解消するために、多くの施策に取り組んだのです。
新しい基準設定のため産官学連携で働きかけ
消費者に省エネ意識が定着しておらず、国の省エネ政策もまだまだ弱いブラジルで、基準や制度の改定に向けた働きかけは簡単なものではありませんでした。ダイキン工業はJICAの支援を得て、現地の大学やNGO、国際機関などと連携し、共同実証試験の実施など、課題と対策について繰り返し話し合いの場を持ちました。
さらに、ブラジル政府関係者の日本への招聘、日・ブラジル政府次官級会合、ブラジル空調懇話会などを実施。ダイキン工業の工場見学など現場への訪問やWEB会議を重ね、理解を深めるための的確で正しい情報の提供と、改正案を整えるための懸命な働きかけを重ねることで、改正は進んでいったのです。
JICA民間連携事業部の担当者である山口・ダニエル・亮職員は「取り組みに対する、ダイキン工業の皆さんの熱量が高かった。それがブラジルの関係者に伝わったのだと感じます。さらに、ダイキン工業の高い技術力に裏付けされた実績と信頼、複数の専門分野の関係者を巻き込んだチーム運営、官民連携による対話の機会構築が今回の成果に繋がったのだと思います」と語ります。
また、ダイキン工業CSR・地球環境センター課長の小山師真さんは「日本にブラジルの関係者を招聘した際にも、先方の『なんとかしなきゃならない』『この機会を活かすんだ』という熱意を感じました。制度や規制を変えるのに必要なのは、日本とブラジル双方の熱意であると思います」と述べました。
ダイキン工業は今後、アフリカや中東でも環境に優しい製品を展開していく予定です。JICAは、長年築き上げてきた途上国との信頼関係や幅広いネットワークを活かし、日本の民間企業や研究機関が持つ新技術やノウハウを、途上国の課題解決につなげていきます。
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