本・書籍
2020/12/31 6:30

「大会」を失った高校演劇で起きた、様々な青春のカタチ−−『舞台上の青春 高校演劇の世界』

今年は新型コロナウイルスの影響で、オリンピックはもちろん様々な経済活動が低迷し、さらには中高大学生の運動部や文化部が目標にして汗を流してきた「大会」までもが消えてしまった1年でした。

 

大人たちの言う「しょうがない」の一言に、やり場のない思いを抱えていた学生も多かったのではないでしょうか? 俯瞰的にこの状況を捉えたら「しょうがない」とつい口に出てしまいますが、ひとりひとりの気持ちに寄り添ってみるとそんな言葉では片付けられない、整理ができないような思いを抱えていたはずです。

 

そんな中でもなんとか前を向いて青春をぶつけていたのが、『舞台上の青春 高校演劇の世界』(相田冬二・著/辰巳出版・刊)に登場する全国の演劇部員たちとその顧問の先生たち。ページをめくるたびに、いろんな思いに胸を掴まれてしまう一冊です。今回はそんな、みんなの胸の中にある「あの夏」を思い出しながら、高校演劇についてご紹介したいと思います。

 

 

演劇部の3年生は、最後の大会の全国大会には出られない?

私の高校には演劇部がなく、学生時代「演劇」に触れる機会はほとんどありませんでした。「クセの強い子たちが、青春しているんじゃないの?」という偏見をめちゃくちゃ持っていたのですが、今回『舞台上の青春 高校演劇の世界』を読んで、そしてYouTubeにアップされている高校演劇をいくつか見て、高校演劇が原作で今年公開された映画『アルプススタンドのはしの方』まで見て、すっかり高校演劇のトリコになってしまいました。

 

高校演劇の面白いところは、脚本や舞台美術を自分たちの手で作り上げているところや、動画で見ているだけでも涙が出てきてしまうくらい心揺さぶられる演技はもちろん、高校野球などと違い、秋に地区大会が行われ、冬に都道府県大会とブロック大会、翌年の夏に全国大会が行われる点です。

 

9月から10月にかけて各都道府県の地区大会が行われ、10月から12月にかけて各都道府県大会が開催。勝ち抜いた学校が、11月から翌年1月にかけて開かれる各ブロック大会に出場する。北海道、東北、北関東、南関東、中部日本、近畿、中国、四国、九州。9つに分けたブロックから各1校、最多加盟校数を擁するブロックからさらに1校、計10校が選ばれ、そこに全国大会開催県から1校、そして持ち回り枠(9ブロックのうち1ブロックが毎年持ち回りとなり、そのブロックは1校追加となる)1校がプラスされる。狭き門を突破したこの12校が、翌年度の7月下旬から8月上旬にかけておこなわれる全国大会に出場するのだ。

(『舞台上の青春 高校演劇の世界』より引用)

 

つまり、高校3年生の秋に高校最後の地区大会に出場して全国大会まで進めたとしても、その時は卒業してしまっているので参加したくても参加ができないということ。全国には約2000校の演劇部があるので、12校というのはかなり狭き門ではありますが、甲子園のように新学年になってから地区予選が行われ、夏に高校3年間の思いをぶつける大会とは違い、後輩へ「送りバント」するような形で翌年度に大会が行われるのはとても興味深いですよね。

 

様々な思いが交錯した、配信による全国大会

そんな狭き門の全国大会。2020年は「WEB SOUBUN」として7月31日から10月31日までウェブ配信で開催されました。本来であれば、審査があり、最優秀賞が決められますが、今回は自分たちが撮影した映像をサイト上で公開する形での大会のため審査もなし。コロナなんて感じることもなかった2019年11月〜2020年1月のブロック大会を勝ち抜いた12校が、全国大会という舞台上で競い合うことはできなかったのです。

 

東北の強豪校である青森県の青森中央高校演劇部は、全国大会に出場できたにもかかわらず、動画での公演を披露することが叶わなかった高校でした。

 

わたしたちは『俺とマコトと終わらない昼休み』でWEB SOUBUNに参加させていただくために、練習と準備を重ねて参りました。舞台収録のため、7月下旬に青森市内のホールを予約し、機材も調達済みでした。

ところが、69日。

青森市内で開かれた青森県高文連理事会において事務局より「WEB SOUBUNに出品する演劇収録は許可できない」との判断が明かされました。これは527日に青森県危機対策本部から示されたガイドラインに従ったもので、「大声での発声」「近接した距離での会話」「歌唱」などが想定されるとき県主催のイベントは開催できないという判断です。

(『舞台上の青春 高校演劇の世界』より引用)

 

フェイスシールドを付けて収録するかも悩んだそうですが、舞台上で「コロナ」を感じさせてしまい物語の邪魔になってしまうと収録をしない結論に至ったとのこと。みんなの葛藤が伝わってくる……(涙)。

 

他にもこの全国大会には、「同好会」で予選を通過し全国大会まで勝ち上がってきた北海道の富良野高校、舞台収録ではなく映画化という形で挑んだ徳島県の徳島市立高等学校とそれぞれの高校が複雑な思いをたくさん抱えながら参加していたことを知りました。『舞台上の青春 高校演劇の世界』では、全国大会に出場する高校の地区大会から「WEB SOUBUN」までが取材されており、それぞれの想いや「今」がしっかりと残されているので、ぜひ多くの方に手にとって読んで頂けたらと思っています。う〜ん、「WEB SOUBUN」見たかったなぁー!

 

誰にでもある青春物語、映画『アルプススタンドのはしの方』

今年の夏に公開された映画『アルプススタンドのはしの方』をご存じでしょうか?

 

12月23日より先行でいくつかの映画配信サイトでレンタルできるようになっているので『舞台上の青春 高校演劇の世界』と合わせてぜひぜひご覧いただきたい映画でして……。

 

というのも、この映画、高校演劇の舞台戯曲が原作なんです!!! 『舞台上の青春 高校演劇の世界』には、原作者である元・兵庫県立東播磨高校の演劇部顧問、藪 博晶さんへインタビューした記事が掲載されています。私も配信でこの映画を見まして、最初は熱血先生にクスクス笑ったり、「わかるわぁ〜」なんて昔を懐かしく思い出したり、楽しんでいたのですが、中盤からずっと涙が止まらなくて……。泣きながら、心の中で「がんばれ!」と叫んでおりました。

 

いろんなことがあった2020年。全く触れる機会のなかった高校演劇と『舞台上の青春 高校演劇の世界』を通じて出会えたのは、私にとって財産になりました。世代が変わっても、いつの日か、彼らの舞台をなんの心配もなく見れる日まで、高校生たちの青春を応援していきたいと思いました。高校生のみんな、思い通りにいかないこともいっぱいあるかもしれないけれど、おばさんも頑張るからっ!! がんばるんだぞぉーーーー!

 

 

【書籍紹介】

舞台上の青春 高校演劇の世界

著者:相田冬二
発行:辰巳出版

高校演劇の大会と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。高校野球のような知名度はないものの、演劇部にも青春を賭けて戦う全国大会があります。毎年、大会に出場できるのは全国約2000校のうち、わずか12校だけ。その倍率は実に175倍。この甲子園以上の狭き門を突破しようと、全国の高校演劇部員は日々情熱を燃やし舞台を作っているのです。本書では、全国大会出場校5校と授業に「演劇」を取り入れ、教育に活かしている高校を取材しています。演劇に必死に向き合う高校生や指導する先生の想いをインタビューや密着取材、ブロック大会を通して紡いでいます。ストーリーの語り部は映画評論家の相田冬二。そして今夏、高校演劇からの映画化で話題になった『アルプススタンドのはしの方』原作者へのインタビューも収録。

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