Vol.101-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「世界的な半導体不足」。ソニーがPS5をすぐに大幅増産できない、その背景にある“原因”はいったい何なのか?
世界的な半導体不足。そのなかで、生産ラインの増強もすぐにはできない。
このことは、世界的なリスクになっている。それは、単に特定の製品、例えばPlayStation 5の在庫が足りなくて買えない……ということだけに止まらない。世界的な経済・安全保障上のリスクと見られるようになっている。
半導体やディスプレイパネルの製造は、その8割以上は中国・台湾・韓国に集中している。そして、そこに部材や製造機器を提供しているのは日本、という構図だ。日本から供給する半導体製造に必須の素材も潤沢な状況ではなく、それもまた半導体製造のスピードに影響している。
20年前、半導体は「開発したメーカーが生産する」スタイルだった。そのころと違い、今は開発メーカーと生産メーカーが分かれている。生産する企業は東アジアに集中しているため、ここでの需給が世界的な状況を左右しているのだ。つまり、昔と違って成長リスクは分散されたが、その代わりに今回のような「地域的リスク」が生まれたわけである。
そのため、アメリカは政府を通じて直接、TSMC(台湾新竹市新竹サイエンスパークに本拠を置く半導体製造ファウンドリ)に対して増産を要求しているし、今後はリスクヘッジのために、アメリカやヨーロッパにも先進半導体を中心とした製造ラインを作ろう……という話が出ている。元はといえばアメリカが中国との対抗上の理由で始めた政策によるリスク上昇なのだが、それはそれとして、だ。
かといって、そうした施策が有効に働き始めるには、まだ数年が必要だろう。現在目の前にある半導体不足の解消は難しい。ソニーが「PS5をすぐに大幅増産することができない」というのはそのためだ。
一方、そうした話があまり聞こえてこない企業もある。アップルだ。iPhoneやMacBook Airなどでは、TSMCの最新半導体プロセスを使ったアップルオリジナル設計のプロセッサーを多用している。だが、部品不足の話はそこまで聞こえてこない。
理由はシンプル。アップルが一定期間の大量調達を最初から持ちかけ、他社より早く、優先的に生産ラインを押さえているからだ。TSMCとしても、アップルは長年のお得意様であり、数量・金額的に非常に大きな存在である。
これは、企業戦略としては力技ではあるがストレートなやり方と言える。パーツが欲しいなら、製造ラインをカネの力で押さえてしまうのが一番だ。ゲーム機は大きな需要だが、数量ではアップルの需要に敵わない。自動車用半導体も、スマホなどとの競争になればいまは厳しい。
今後、短期的には、いかにTSMCのキャパを増やし、各企業が「自分向けの数量を確保させるか」というパワーゲームが続く。その間に、TSMC以外でも生産できる半導体は、早急に生産企業を増やしてカバーしていくことになるだろう。
メーカーと国家、両方のパワーゲームのなかで、半導体は文字どおり戦略物資として扱われることになるのだ。
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