脇役(バイプレイヤー)として、長年日本の映画やドラマを支えてきた俳優が、本人役として出演することで話題を集めたテレビ東京系ドラマ『バイプレイヤーズ』。そんな斬新すぎるシリーズが、今度は映画館へと舞台を移して映画『バイプレイヤーズ〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』として4月9日に劇場公開。
ドラマの第3シーズン『バイプレイヤーズ〜名脇役の森の100日間〜』に引き続き、架空の撮影所“バイプレウッド”にスポットを当て、元祖バイプレイヤーズ(田口トモロヲ、松重 豊、光石 研、遠藤憲一)を中心に展開されるドタバタ劇に、観客は笑いと感動を覚えること必至。そして錚々たる100人の役者が本人役で出演するとあって、実に“お祭り感”の強い作品にもなっている。
今回は、バイプレウッド内で自主制作映画を作る監督役として出演する濱田 岳さんに、作品に込めた思いや撮影の裏話について話を伺った。
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:武松佑季)
「現場はまるで同窓会。僕もこんな素敵なおじさまたちになりたい」
――本人役で映画に出演した感想をお聞かせください。
濱田 周囲から自分がこういう風に思われてるんだな、と客観的に知れたのはいい機会でした。ただ、僕は作中かなり熱い監督として描かれていますが、実際はそんなに熱くない。だから熱い男のフリをするのが大変でした(笑)。
――「普段の自分はこんなこと言わないのにな」みたいなことも?
濱田 そのあたりは松居(大悟)監督がフレキシブルに対応してくださったので問題ありませんでした。例えば、(柄本)時生のセリフで僕のことを“お前”と呼ぶ場面があったんですが、「いや、これは言ったことないですよ」と監督に伝えたら、「それなら普段通りで大丈夫です」と言ってもらえたので、そういう意味では素に近い関係性が出てると思います。
――反対に、初対面の俳優さんたちと本人役で共演することもあったと思います。
濱田 初めてお会いする方とは「なんてお呼びしたらいいですか?」という距離感から始まるのが普通だけど、今回は役名が実際の名前なので、否が応でも本名で呼び合うことになる。だから初対面の共演者の方々とは、距離が詰まるスピードが早かったと感じます。特に、大御所の皆さんからは、他の現場でお会いしても、映画のまま「岳」と呼んでくださったのはうれしかったですね。
――本作では映画監督役。濱田さんは将来ご自身で監督をやってみたいという願望はありますか?
濱田 若い俳優仲間と作中で映画作りをやっているときは、まるで青春ごっこをしている感覚というか、なんだか『スタンド・バイ・ミー』を撮っている気分で楽しかったです。ただ、僕自身は監督をやりたい願望はまったくありませんよ。台本を読んでも僕は「このシーンはツーショットにして、ここはカットバックにして……」なんて絵が浮かびませんもん。監督はやっぱり特殊技能、才能だと思っているので、もうお任せするしかないです。
――もし仮に撮ることになったら、撮ってみたい題材はありますか?
濱田 今回これだけたくさんの大御所の方々に出演してもらってるので、もうこの時点でお腹いっぱい。僕には作中で作ったもの以上のものは撮れないでしょうし、いつか持つかもしれない映画監督の夢を先に叶えてもらっちゃった感覚ですね。
――監督役として撮影時にモノへどんなこだわりがありましたか?
濱田 映画の岳くんは、「監督」と呼ばれないと返事をしないような形から入るキャラでした。だからカメラが回ってないときも黄色いメガホンは常に大事に持ってました。それと読み込んだ雰囲気を出すために、台本をくたびれさせたりもしましたね。
――本作の舞台は「バイプレウッド」という撮影所。濱田さんにとって思い出深い撮影所はありますか?
濱田 デビュー作のドラマ(『ひとりぼっちの君に』に10歳で出演)を撮った緑山スタジオは、今も行くたびに当時のことを思い出させてくれますね。2本目に出演したウルトラマンの映画(『ウルトラマンティガ・ウルトラマンダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』)で円谷プロに行ったことも、ウルトラマン少年だった僕には思い出深いです。「そんなに好きなら特撮を見においでよ」と日活スタジオ(撮影所)に行かせてもらえたのも子どもながらにうれしかったんですが、中に入ってるスーツアクターの人が律儀な方で、わざわざウルトラマンのスーツを脱いで握手してくれたんです。僕はウルトラマンと握手したかったのに、ビチョビチョのおじさんとすることになった……なんてほろ苦い思い出もあります(笑)。
――バイプレウッドのような撮影所があったらどうですか?
濱田 広くて、いろんな人とも会えて、素直にいいスタジオだから本当にあったらいいのにねってみんな言ってました。でも、食堂に行ったらずっと誰かに挨拶してなくちゃいけないし、うっかり誰かの固定席に座ってひんしゅくを買う怖さもあるから、食堂じゃご飯を食べられなそう(笑)。
――本作はドラマ第3シーズンに続き、総勢100名の俳優さんが登場します。
濱田 「え、この人も出るの!?」という驚きと楽しみが毎日ありました。今日はあの方、明日はあの方、といろんな先輩に会えるので、僕らもいい意味で慣れることはなく、ずっと新鮮な緊張感を保ってできました。
――大御所の方々との共演で刺激を受けたことは?
濱田 あれだけの数のおじさんたちが集まると、現場でずっとしゃべってて本当にうるさいんですよ(笑)。「ヨーイ、ハイ」の直前までしゃべってる。なんなら自分たちの声で合図が聞こえなくて、「え、もう始まってたの?」なんてこともしばしば。
――現場の楽しそうな雰囲気が想像できます。
濱田 同窓会の気分なんでしょうね(笑)。友達には見えないけど戦友感があって、若かりしころに切磋琢磨して、それぞれのお人柄、生き様ゆえにバイプレイヤーズと呼ばれるまでになった。そして、この現場に再集合したみたいな。そんな楽しそうな光景を傍から見ているとこちらも温かい気持ちになりますし、僕もこういう素敵なおじさまたちになりたいと素直に思いました。
もちろん、それだけじゃなくて言わずもがな、どの先輩もすごく技術のある方々なので、与えられた一行を読むとみんながシュッと締まる。セリフの重みを一瞬で出せる切り換えの早さがあるから、これだけ長く続けられるんだろうな、と感じました。
――脇役、バイプレイヤーとは作品にどういう影響を与えるポジションだと思いますか?
濱田 主演の方々を支えるという重要な役割だと思います。ただ、支えるといってもいろんな意味があって、実力のある主演の方をサポートすることもあれば、デビューしたての主演の方の経験不足を補うこともある。いずれにしても我々みたいな脇役が手を抜いた仕事をすればその作品はダメになってしまうので、そこにやりがいと難しさがあると思ってます。
――なぜ『バイプレイヤーズ』は人気シリーズになったと思いますか?
濱田 “バイプレイヤー”という言葉は元からありましたが、大杉(漣)さん始め、主演の方々がこの言葉を浸透させたと言っても過言ではないと思っていて、僕のような脇役にも夢を与える企画です。そして、主役と脇役の垣根を取っ払った斬新な作品でもあります。だから一般の方にも受け入れられたし、業界の人にも注目されたんだと思います。
――それでは最後に、改めて映画『バイプレイヤーズ〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』の見どころをお願いします。
濱田 もちろん平和な世の中で見てもらいたかったですけど、このご時世で見るからこそ、このお祭り感が贅沢に感じてもらえるのではないでしょうか。ストーリーもとても夢があふれる内容ですし、単純にこれだけの先輩方が一気に集結すれば面白いに決まってます。いろんな俳優さんたちを一挙に見られる動物園に行くような感覚で、ぜひ劇場に足を運んでほしいですね。
映画『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』
4月9日(金)全国公開
【出演】 田口トモロヲ、松重 豊 、光石 研 、遠藤憲一、濱田 岳、柄本時生 、菜々緒、高杉真宙、芳根京子、有村架純、天海祐希、役所広司
【監督】 松居大悟
【主題歌】Creepy Nuts「Who am I」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
【脚本】 ふじきみつ彦 宮本武史
【製作】 「映画 バイプレイヤーズ」製作委員会
【配給】東宝映像事業部
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