今どき、「女性が家事をすべて担い、男性は外で稼いでくる」なんて考え方は古い。けれど、すべての家庭で「家事は平等に」という令和流・夫婦のあり方が実現できているわけではないのも事実。
「結局、家のことは主に女性がおこなっている」という家庭のほうが、まだまだ多いのではないだろうか。我が家もご多分に漏れず、であるが。
そのため、とりわけ出産後の小さな乳飲み子を家で世話する数年間においては、家事や育児に参加しない(する気がない)夫に、妻は殺意すら覚える(無論、男女逆のパターンも存在することは承知の上だが、今回は妻が家事や育児を負担しているケースで語ることをご理解いただきたい)。
どこかのタイミングで話し合い、お互いの考えを尊重することで関係が回復すれば良い。だが、徐々にこじらせてしまい、気づけば心がすっかり離れてしまうとことも珍しくない。我慢に我慢を重ね、イライラが募った結果、「子どもたちが成人したら離婚してやる!」と腹をくくっている女性陣も少なくないだろう。
これは、近年の熟年離婚数増加を見れば明らかだ。
夫サイドと妻サイド、どちらから見るかで問題は180度変わる
最近話題になっているエッセイ漫画がある。『妻が口をきいてくれません』(野原広子・著/集英社・刊)だ。夫・誠と妻・美咲、そして2人の子どもの4人家族で幸せに暮らしていたはずが、ある日を境に、妻が夫と口をきかなくなってしまう。何が原因か、自分の何が悪かったのかと焦り悩み苦しむ夫。「離婚よりも、生き地獄」という帯のキャッチフレーズがすべてを物語る。
第一章は、夫サイドのストーリー。口をきかなくなった妻に対し、会社の先輩に相談して花を買って帰ってみたり、久々にスキンシップを……と手を握ってみたり、あれやこれやと策を練って実行するも、すべて玉砕。
妻が口をきかないといっても、家庭内で会話がないわけではない。妻と子どもたち、夫と子どもたちは普通に話す。実家に帰ったときも、いたって普通に接する。ママ友たちの前でも同様だ。それが一転、第三者の目がなくなった瞬間、夫に対してだけ妻は口を閉ざす。貝のように。そして心も。
奥さん、ここまでしなくてもよくない? 理由くらい言いなよ。旦那さん可哀想だよ? などと旦那に肩入れする読者が多いであろう「夫 誠の章」。
しかし、次章の「妻 美咲の章」を読むと、それはもう、腸が煮えくり返るほど誠への憎しみが増幅するから、いとおかし。
たとえば、いつまで経っても物の在り処を覚えない。どうしても時間がなくレンチンの惣菜を並べたら「オレこういうのあんまり食べたことないや」とのたまう。たまっている洗濯物、汚れた場所を指摘して「一日家にいるんだからいろいろできるでしょ」と苦言。妻からの相談にも「静かにして これ観たい」とテレビ番組を優先。ああ、書き出しているだけでムカムカする。
仕事が忙しいのはわかる。家にいるときくらいは、好きなテレビ番組を見てゆっくりしたいのもわかる。常に家が綺麗であってほしいのもわかる。
だけど、一日子どもの面倒を見ていると、やりたくてもできないことが出てくるのだ。毎日掃除機をかけていても、あっという間に汚れるのだ。洗っても洗っても、家族が多いと洗濯物ってたまるんだ!! それを、目の前の状態だけ見て、怠けてるとか努力してないとか、判断しないでほしい! これが、世の女性たちの心の叫びではないだろうか。
「薄れはしても、忘れはしない」問題を、どう乗り越えるか。
誠に共感した後、美咲の気持ちに共感し、さて、残るは「夫婦の章」。夫、妻、それぞれの想いが交錯する。
『妻が口をきいてくれません』は、程度の差こそあれ、どこの家庭でも起こりうる問題を孕んだ作品であることは間違いないだろう。シンプルな絵柄ながらも登場人物の気持ちを汲み取れるから、ついつい感情移入して読み進めてしまうのも、本作品にハマる理由だ。
個人的には、夫婦が大きな揉め事なくやっていく秘訣は、相手の立場や気持ちを推し量る想像力と、些細なことにも「ありがとう」を伝える感謝の気持ちではないかと思っている。さて、誠と美咲の場合はどうか。冷え切った関係は修復するのか、それとも。
ぜひ、最後の最後の一コマまで、油断しないで読んでほしい。
【書籍紹介】
妻が口をきいてくれません
著者:野原広子
発行:集英社
妻はなんで怒っているのだろう……。妻、娘、息子の四人家族として、ごく平和に暮らしていると思っていた夫。しかし、ある時から妻との会話がなくなる。3日、2週間と時は過ぎ……。家事、育児は普通にこなしているし、大喧嘩した覚えもない。違うのは、必要最低限の言葉以外、妻から話しかけてこないことだけ……。Webサイト「よみタイ」で、累計3000万PVを超え大反響を呼んだ話題のコミック、描き下ろしを加えて待望の書籍化。
楽天koboで詳しく見る
楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る