Vol.103-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「ミニLED」。新iPad Proの12.9インチモデルで採用されたことで注目を集める同技術を深掘りする。
ここまでの連載で述べてきたように、ミニLEDはディスプレイのコントラストを上げる技術の一つだ。iPad ProやPCなどにおいては、クリエイター向けとしても映像視聴向けとしても価値が高い。一方、映像視聴向けの本筋である「テレビ」では、ミニLEDはどう捉えられているのだろうか?
日本でメジャーなメーカーでの採用例は少ないが、テレビでもミニLEDはホットな領域と考えられている。この分野で特に熱心なのは中国メーカーだ。
もちろん、これにはちゃんと理由がある。ミニLEDを用いるのは液晶ディスプレイだ。液晶は有機ELに比べ、大きなサイズが作りやすい。中国メーカーは中国とアメリカで強く、これらの市場は特に大画面が好まれる。日本だと75インチを超える製品を買う世帯は少ないが、中国・アメリカ市場ならそうでもない。となると、サイズとコストのバランスを考えれば、液晶を使った製品が必要になる。そこで、新しいキーワードである「ミニLED」が大きな価値を持つ。薄型化にも有効とあってはなおさらだ。
日本でもLGエレクトロニクスが2021年の液晶最上位モデル「QNED99/90」でミニLEDを採用した。このモデルは65型からの大画面テレビであり、ミニLED+大型液晶という図式に当てはまる。
一方で、日本メーカーはミニLEDにあまり積極的ではない。理由は2つある。
一つ目は、中国やアメリカほど大画面モデルに人気がなく、ハイエンド製品は有機ELが中心になっていること。コントラスト向上なら有機ELの方が有利であり、その意味でもミニLEDの魅力は落ちる。
二つ目は、輝度を稼ぐには既存のLEDの方が有利であること。ミニLEDはLEDが「小さい」ので、どうしても1つあたりの輝度では劣る。だから数でカバーするのだが、輝度をコントロールする単位である「エリア分割数」は、LEDの数ほど多くなく、既存のLEDを使ったものと大差ない。だとすると、輝度やコストのバランスを考慮すれば、ミニLEDは必須とは言えない……と考えられているのだ。
ディスプレイ面積が大きい大画面テレビは、遠くから見ることが多く、輝度の高さがPCやタブレットよりも重要になる。今後、ミニLEDの輝度が上がっていくと、既存のLEDを使うよりミニLEDを採用した方が良いと判断するメーカーが増えていくかもしれないが、結局はそれも有機ELのコストや品質と比較したうえでのこと。話はそれほど単純ではない。
そう考えると、PCやタブレット向けとしてのミニLEDはちょうど良い立ち位置にある。これらのアイテムは、有機ELにとってコストや生産量的な「隙間」にあり、全体輝度もテレビほどの必要性はないため、差別化がしやすい。そう考えると、日本でミニLEDが注目される製品群は「PCやタブレット」ということになる。iPad Proは、そこに良いタイミングで出てきた製品であり、今後、ほかのPCやタブレットの「高輝度化・高コントラスト化」に影響を与える存在だといえる。アップル自身がiPad Pro以外のハイエンド製品、例えばMacBook ProやハイエンドiMacなどにミニLEDを採用しても、筆者は驚かない。
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