Vol.104-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「home 5G」。NTTドコモ夏モデルのなかでもひときわ異彩を放つニューフェイスは、何がスゴいのか?
NTTドコモの「home 5G」は、月額4950円(税込)で使い放題、という価格がなによりも魅力だ。ただこの料金は、home 5Gという機器を購入したうえで契約した場合のものになる。スマホや手持ちのモバイルWi-Fiルーター、タブレットなどで使うことはできない。
また、home 5Gが使えるのは「契約者が登録した利用住所」のみであり、契約上、持ち歩いて使うことはできない。例えば出張のときなどに持ち出してホテルで使う…… という使い方はできないのである。
携帯電話回線を使って家庭に高速インターネットを提供する製品なので、いかにも「どこでも使える」印象を持つが、home 5Gは「特定の場所」で使えるものと定められている。
実は、同じ制約があるサービスはすでに存在している。ソフトバンクの「Softbank Air」だ。Softbank Airの場合には、届け出た場所から移動して利用すると通信が止まる仕組みが内蔵されている。
なぜそのようになっているのか? それは、携帯電話端末の「割引」と関係している。
2019年10月に施行された改正電気通信事業法と関連する総務省令とガイドラインでは、大手携帯電話事業者の携帯電話回線契約と、それに紐づく端末の販売について、「値引き(利益供与)は税別2万円まで」とするルールが定められている。スマホにしろモバイルルーターにしろ、基本的にはこのルールの対象だ。
だが、対象とならない機器・契約もある。それが「固定回線として使うもの」だ。
移動させないで使う場合には上記のガイドラインの例外となり、2万円以上の割引やキャッシュバックも可能になる。だから端末代金を大幅に割り引けるわけだ。実際、Softbank Airはいろいろな条件をつけることで、月額利用料を大幅に割り引いたり、数万円のキャッシュバックが適用されたりしている。
この記事を執筆している6月末の段階では、home 5Gの販売条件は明確になっていない。だが、わざわざ「固定回線として使う」という条件になっているのは、端末代金の大幅な値引きやキャッシュバック、回線利用料金の割引など、「現在の携帯電話回線ではできない大胆な価格施策」が想定されるから…… と考えていい。
なお、同じようにWi-Fiルーターを軸にビジネスをしているUQの「UQ WiMAX」は、場所を移動して使ってもいい「モバイルルーター」という扱いなので、上記の「2万円まで」という制約を受けている。結果として、Softbank Airのような割引攻勢をかけることができない。同社はこのことが「不公平である」として、モバイルWi-Fiルーター全体をスマホと同じルールからは除外するように求めている。
今後、そのあたりがどうなるのかは不透明だ。だが、ドコモがhome 5Gを販売し、本格的に固定回線網ビジネスを始めることになれば、UQも同様のものを作る可能性があるし、ケーブルテレビ事業者なども似たビジネスに参入する可能性はある。
すでに自宅に光回線がある人には不要なものだが、そうでない層、もしくは回線が遅い人は、少し状況をウオッチしておくことをオススメする。
では、実際にこうした「モバイル網を固定回線として使う」ことに課題はないのだろうか? 次回はそのあたりを解説する。
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