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2021/8/10 18:30

日本酒が輝く未来を強く願う。フレンチの巨匠と山梨の蔵元がコラボしたスパークリングを飲んで

フランス料理にうとい筆者でも、名前だけは知っているのがアラン・デュカス氏です。33歳でミシュランガイドの三ツ星を獲得し、史上最年少(当時)の三ツ星シェフという栄冠に輝く。その後は世界に活躍の場を広げ、パリ、モナコ、ロンドンと異なる3つの都市でミシュランの三ツ星を獲得した史上初の人物になった――とか。

 

日本酒の発展を応援する企業が、山梨の蔵とフレンチの巨匠をつないだ

そんなとんでもない経歴の持ち主が、山梨県の日本酒ブランド「七賢」(しちけん)とコラボして、スパークリング日本酒を発売したとのこと。今回、試飲の機会を得ることができたので、その味わいをレポートしていきます。……それにしてもなぜ、山梨の七賢が? もしかして、ダイナースクラブが関わっているのかな? と思っていたら、やっぱりそうでした。

↑「七賢」とコラボしたお酒を手にするフレンチの巨匠 アラン・デュカス氏

 

クレジットカード会社のダイナースクラブは、当サイトで何度も紹介した世界一の日本酒を決めるコンペ「SAKE COMPETITION」(サケコンペティション)をバックアップしている企業。同コンペでは次世代の造り手を応援するために「ダイナースクラブ若手奨励賞」を創設し、日本酒の発展に貢献しています。今回のコラボは、そのダイナースクラブが「七賢」とデュカス氏のお店「デュカス・パリ」をつないで実現したそう。確か、ちょっと前(2017年)の受賞者が「七賢」だったはず。そうか、その関係がまだ続いていたのか……。

 

瓶内二次発酵や樽貯蔵など手間をかけた造りに期待が高まる

コラボ製品の正式名称は、「Alain Ducasse Sparkling Sake」(アラン・デュカス スパークリング サケ/税込5500円)。今回、試飲した製品のラベルはダイナースクラブのオリジナルだそうで、淡いピンク地に魚のウロコを思わせるシルバーの紋様が入っています。いい意味で日本酒らしくなく、軽やかで華やかなイメージ。これは食卓に置いたときに映えますね。

↑「Alain Ducasse Sparkling Sake」の容量は720ml、アルコール分は12度。写真はダイナースクラブのオリジナルラベルで、ダイナースクラブのサイト「ごぼうび予約」経由で購入できるそう

 

では、飲む前にネットにあった本品の説明文を読んで気持ちを高めていきましょう。

 

「アラン・デュカス氏の心のテロワール・地中海からインスピレーションを得て、デュカス・パリのシェフソムリエ、ジェラール・マルジョン氏から味のディレクションを受け、山梨銘醸の酒を酒で醸す伝統技術と桜樽での貯蔵、磨き上げた瓶内二次発酵技術のもと造られた米由来の発泡酒です。舌を刺激するりんごやマスカットのような果実の味わいが泡とともに口の中で一気に弾け、樽由来の甘味と苦味がゆっくりと奥底から押し寄せ、穏やかな余韻が心地よく過ぎ去ります」

 

……えっ、「心のテロワール(※)」って何? 「心のふるさと」のようなイメージでしょうか? フランスらしいエスプリが効いた言い回しですね。お酒の味づくりに関しては、デュカス氏がイメージを伝え、彼のお店のシェフソムリエが具体化した、といったところでしょうか。ちなみに、「瓶内二次発酵」とは、シャンパンの産地・シャンパーニュ地方でも使われる伝統的な製法。瓶の中にお酒と酵母、糖を入れて二次的な発酵をさせて炭酸ガスを発生させ、お酒に溶け込ませるというもの。炭酸ガスを注入するのに比べて格段に手間がかかりますが、そのぶん泡に持続性があり、きめ細かく繊細な泡になるとのことです。しかも、桜の樽で貯蔵しているとは……樽の香りもつけているわけですね。

※「テロワール」とはフランスにおけるワインの概念で、気候、水、土などの様々な栽培条件によって、ぶどうに現れる個性のこと

 

さらに、説明文には書いていませんが、水の代わりに日本酒を使って贅沢に醸す「貴醸酒」(きじょうしゅ)の製法も使っているそう。ちなみに、「七賢」は2014年から瓶内二次発酵のスパークリングの開発に着手しており、今回で9銘柄目。すでに2万7500円の高級スパークリングを発売するなど、ノウハウの蓄積も問題なさそう。では、期待が高まったところで、いただきます!

 

繊細さと日本酒らしい香味が同居する

さすがは瓶内二次発酵だけあって、泡立ちはとても細かいですね。さわさわと口内を刺激する感覚が幻想的で、まるで雲を口に含んだかのよう。優しい甘さで柔らかい酸味が感じられ、雑味はなく、なんの引っ掛かりもありません。それでいて、日本酒らしい心が浮き立つような香味が感じられて、パンチ力もあります。ノドへのモタつきもないし、うん、これはいい酒だ。味わいが繊細なので、オードブルとともに食前酒として飲むのがいいですね。乾杯で心地よく酔えて、これからの楽しい時間が想像できる、そんなお酒でした。720mlで5500円という価格は自分で飲むならかなり高いですが、ギフトとしては手ごろな値付けではないでしょうか。特に、アラン・デュカス氏のレストランに通うような、ちょっとハイクラスな方に喜ばれそうですね。

 

コラボ商品は「七賢」の努力が実を結んだ結果

それにしても、さすがは「七賢」。やり手だなぁと感じます。地酒としての評価を高めつつも、近年は販路拡大の努力もしているのか、都内のリカーショップなど多くの売り場で見かけるようになりました。今回のコラボ商品を出したことで、さらに国内と世界の方々に「七賢」の名を知ってもらう機会が増えることでしょう。

↑山梨銘醸の専務取締役で、醸造責任者の北原亮庫さん。「我々は国内で最もバリエーション豊かに瓶内二次発酵スパークリング日本酒を揃える酒蔵であり、今回の商品は今までの集大成となった」と語っています

 

そして、これは想像の話なのですが、今回のコラボ製品が生まれたのはただの棚ぼたではなかったはず。以前の記事でも触れた通り、国内の酒蔵の多くが利益率の低さに苦しみ、1か月に3社が廃業する時代です。日本酒を造れば売れる時代は終わりました。そんななか、「七賢」は醸造技術を磨きつつも、自分の頭で考えて、既存の業界の弱点を埋める‟高価格帯のスパークリング日本酒”を準備していた。ダイナースクラブをはじめ、積極的に外部とコミュニケーションを取って、売り込んだ……そういったあらゆる努力を怠らず続けた結果が、今回のコラボにつながったのだと想像します。

 

そして、日本酒は間違いなく、世界に誇るマスターピース(傑作)であり、失ってはいけない日本人の心のふるさとです。限られたマーケットを奪い合い、個性ある蔵が消えていくのはあまりにも惜しい……。ぜひとも「七賢」を良いヒントとし、その火を絶やすことなく、多くの蔵元がより魅力的に輝きますように。