日本全国には3000種以上のレトルトカレーがあるといわれますが、その頂点に君臨するのがハウス食品の「咖喱屋カレー」。2002年から19年連続で売り上げ1位の一大ブランドですが、実は今年大きく進化したことをご存知でしょうか。また、同社は開発面もチャレンジングで、「おえかきカレーペン」という画期的な新商品が発売されました。
これはフードライターとして見逃せない!ということで、新旧2つの商品を中心に家カレーの最前線をレポートします。
ククレカレーより7年もパウチ化が遅れたワケ
「咖喱屋カレー」の進化はズバリ、レンジ調理に対応したパウチへのリニューアルです。ハウス食品のレトルトにはすでにレンジ調理できるタイプがありましたが、「咖喱屋カレー」は非対応でした。「売り上げ日本一なのに?」と意外に思われるかもしれませんが、そこにはナンバーワンならではの苦悩があったのです。同社の企画担当者や開発責任者が舞台裏を教えてくれました。
「当社で湯せんパウチから最初にレンジ対応パウチに変更したブランドは、2015年の『ククレカレー』です。当時から咖喱屋のレンジ対応も視野に入れていたのですが、咖喱屋はトップブランドとして安定して大量に生産できる仕様にすること、生産設備を整えるところまでが必須要件でした。そのため、他のブランドよりも時間がかかったのです」(岩﨑さん)
実は同じ商品でも、パウチが変わると調理後の味は同じにはならないとか。そのため、レンジ対応パウチでは具材の処理やカレーソースの配合を変える必要があったといいます。
「咖喱屋シリーズは味の種類も多いですからね。11品同時にリニューアルしましたが、これ自体が初めてでした。味づくりも開発研究所の総勢11人でやり遂げましたが、1つのブランドでこれだけの大人数が担当するのは異例のことです」(岩﨑さん)
レンジ対応ならではの味づくりは、スパイスの香りがポイント。というのも、レンジ調理時に蒸気口が開くことで、香りが飛びやすくなるからです。そこで、クミンなど香り系のスパイスを増やすなどして微調整を行ったといいます。
「最初に取り掛かったのはメインの『中辛』で、2年かかりましたね。大変でしたがここで味の骨格ができ上がったので、それをもとに他の10品の味づくりに取り掛かりました。実は11品のなかでも『大辛』は唐辛子やブラックペッパーといった“辛さ”が特徴なので比較
的スムーズに味づくりができたのですが、『辛口』は“香り”が特徴ですので、『中辛』に次いでかなり苦労しました」(仲田さん)
パウチの開発も難航をきわめたとか。これは、レンジ加熱に適した新素材の採用で解決したそうです。
「レンジでの調理中は、局所的に100℃以上になることがあります。耐熱性が不十分だと、一部の電子レンジと特定の中身では、まれに調理時にパウチを痛めてしまうことがありました。この解決が一番難しく、包材メーカーの協力を得て耐熱性を担保できる新素材を見出だしたことが突破口となりました。さらに今回のパウチは、開け口が平行に切れるよう工夫しているので、気持ちいいぐらい真っすぐ、より小さい力で開けられるようになりました」(門田さん)
レトルトカレーを湯せんからレンジ加熱に変えることで、調理時間が短縮されるだけでなく、調理時にコンロを使わないのでCO2排出量の削減にも寄与。同社の算出によると、約80%もCO2を削減できるのだとか。社会全体でSDGsが推奨されるなか、ハウス食品も着実な企業努力を行っていることがわかりました。