Netflixのオリジナルドラマ「ゲットダウン」は、70年代後半の荒廃したニューヨーク・サウスブロンクスを舞台に、底辺コミュニティーで暮らす青年たちがヒップホップと共に成長していくさまを描いた群像劇。現在進行形のストリートカルチャーのルーツがじっくり描かれていて、ラップに興味がなくてもとても面白く見られます。
優秀で詩の才能がある(ガールフレンドには「口がうまい」と一蹴されることも)高校生・エゼキエル(ジャスティス・スミス)と、ブルース・リーに心酔するグラフィティアーティストでDJのシャオリン・ファンタスティック(シャメイク・ムーア)、そのシャオに憧れるグラフィティアート小僧・ディジー(ジェイデン・スミス)、「スターウォーズ」信者のラーラ(スカイラン・ブルックス)ら5人は「ゲットダウン兄弟」として、ヒップホップチームを組むことに。そこに、エゼキエルが純粋な愛を捧げるものの、「ディスコミュージックのディーバになる」という野望を優先させるため恋人未満状態の同級生、牧師の娘・マイリーン(ヘリゼン・グアルディオラ)が絡んできて、ディスコvsヒップホップの図式を男女の関係性からも見せてくれるという巧みな演出もなされており、冒頭からグイグイ引き込まれます。
同じダンスミュージックでも、”マフィア経営のドレスコードがある店で、ドラッグを吸いながらお揃いの振りで踊るのが最高!”なディスコと、”普段着にスニーカーでどこででも、数枚のレコードがあればフロアを沸かせられる”ヒップホップとの対比がくっきり。この時期は「歌が入っているディスコミュージックはもうダサい」という認識だったんですね。
ヒップホップ界のパイオニアである3人のDJ、グランドマスター・フラッシュ、DJクール・ハーク、アフリカ・バンバータのほか、各回の冒頭の導入ナレーションのライムを書いているNasがラップ指導も担当、ダンスの振り付けを担当したのはマイケル・ジャクソンやマドンナの振付師として知られるリッチ&トーン兄弟と、「ヒップホップカルチャー総まとめ」的陣営になっているので、昨今のフリースタイルブームに乗り遅れた人は、このドラマで一気に取り戻すというテもありです!?
タイトルの「ゲットダウン」はスラングでは「ダンス」を意味するそう。DJプレイにおいては「踊れるノリノリのフレーズ」いわゆる「サビ」のこと。ここをどれだけクールかつエモーショナルに回せるかがDJの腕の見せ所でもあります。2話でヒップホップ黎明期のキングオブDJ、グランドマスター・フラッシュが劇中に登場し、シャオにスクラッチをレクチャーするあたりは、DJに興味がなくても”オーディエンスを乗せられる音楽を、既存のレコードを使用してどうやって再構成するか”と、初心者向け教科書のように解説されていて思わず「自分もDJになれるかも」と思ってしまいます。しかし、DJプレイには音楽の知識よりも、反射能力とグルーヴを感知するセンスが必要らしく……やっぱダメだ(笑)。
スプレーペイントだらけの地下鉄、(保険金目当ての大家が、ギャングを使って放火させるため)廃墟同然のビル、ゴミだらけの空き地のあちらこちらから立ち上る煙、1977年7月のニューヨーク大停電ではついに略奪騒動まで起こる始末! 当時の映像をガンガン挿入、ジーンズやスニーカーはメーカーの協力を得て当時のモデルを再現したそうで、とにかく再現性がすごいです。「ムーラン・ルージュ」(2001年)など、ゴージャスな作風を得意とするバズ・ラーマン監督はオーストラリア出身の中堅で、ストリートから遠い彼をなぜ? という声もあったようですが、この「こってり感」は大正解! タイトルの出方などこだわりまくった作りこみを見るだけでもかなり楽しいです。
両親とも銃で殺され、学力はあるのに貧しさのせいで進学も絶望的、くすんだプロンクスの空を飛ぶ鳩を見て「俺も飛びたいよ」とつぶやくジーク(エゼキエル)にシャオが言う「その頭で賢いことを読んだり書いたり考えたりすることは、空を飛ぶのと同じことだ」というセリフが沁みます。年内は6話までの配信で、残りは2017年になるそうですが、いまから続きが待ちきれません!