毎回共通のテーマを持った「〇〇芸人」たちが登場する人気バラエティ番組「アメトーーク!」(テレビ朝日系、木曜23:15~放送)。『家電芸人』や『運動神経悪い芸人』などの数々の神回を生んできた「アメトーーク!」が、バラエティ番組では珍しい公式ファンクラブ『アメトーークCLUB』をリリースした。そこでは、地上波では絶対に放送できないオリジナル企画や過去の名作が配信されている。なぜファンクラブを立ち上げることになったのか……。今回は、「アメトーーク!」の総合演出を担い、加地Pとしてお馴染みの加地倫三氏に話を伺った。
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:Kitsune)
類を見ないバラエティ番組のファンクラブ「全部、手探り状態でやっています」
――今年6月から『アメトーークCLUB』がスタートして、クラブの中では、過去の名作やオリジナルコンテンツが配信されていますよね。そもそも地上波のバラエティ番組でファンクラブってかなり珍しいと思いますが、立ち上げのきっかけは何だったのでしょうか?
加地 まず、『アメトーーク!』が元々DVDの制作を重視してきたっていうのが背景にあるんです。実は全部で45巻ほど出ているのですが、最近はDVD自体の市場が小さくなってきているので、ちょうど新しい方向性を模索していたところでした。
――それは動画配信サイトやサブスク形式のサイトが増えてきたことも関係していますか?
加地 いや、ネットに進出したい!とか、そういう気持ちは全然なくて(笑)。むしろ、番組のファンの方に向けたコンテンツを作ろう、という考えが大きかったですね。そもそも地上波のテレビが、ここ十数年、マス向けの広い層に刺さる番組作りを特に意識してきていたんですよ。数字が取れる広く浅い情報番組が中心。僕はどっちかというと逆の発想でして……狭いところに刺さる番組を作っていかないと、テレビは生き残れないと常々思っていたんです。視聴率が低くても実は‶熱狂的なファン〟がいるという番組が残っていくんじゃないかなって。
――『アメトーーク!』には番組のファンの方がしっかりいるように感じます。
加地 そうかもしれないです。録画視聴率はバラエティ番組で1番高いですし、もちろんDVDも売れていたので。今後テレビは、番組を支えてくれる熱いファンをもっと大切にしていかないといけないなぁ、と思っていたんですよね。それとDVDの件がガチッと一致したっていうタイミングでした。
――ではある程度、勝機があると踏んでスタートした感じだったんでしょうか?
加地 いや、実はそこは全然で……! 正直、今は手探り状態のチャレンジ期間って感じなんです。僕は基本的に、視聴率を取るというテレビの価値観に固執しない方がいいと思っていて、それとは別の視点を模索していく中で、トライアル感覚で挑戦してみようかと。なので、本当になんの勝算もなくやっています……(笑)
――なるほど……それは意外でした。試行錯誤をしている期間なんですね! ちなみにスタートする時は、蛍原 徹さんとは何かお話しされましたか?
加地 はい。説明したら、とても喜んでいましたね。今までできなかった企画も可能になるので。といっても、蛍原さんがやりたいのは、競馬とゴルフの話ですが(笑)。その念願の「競馬トーーク」も配信中です。まあ。蛍原さんがノーギャラだったら、いくらでも僕と2人で毎週競馬予想をやるんですけどねえ(笑)。
「AVサミット」「地上波で話せない座談会」ここだけで見られるギリギリトークの全貌
――『アメトーークCLUB』にはスペシャル企画として、クラブだけのオリジナル番組が配信されているんですよね。「競馬トーーク」もそうですが、やはりここでは地上波でできない企画を配信していく予定でしょうか?
加地 そうですね。そうじゃないと意味がないと思っています。普段はテレビでタダで配っているものなので、それと同じような企画で、急にお金取るってなったら、誰もが、あぁッ!? って怒るに決まってますから。
――そういった意味では初回配信の「AVサミット」の企画は、Abema TVで放送して人気だったこともあり、ファンの方も待望だったんじゃないでしょうか?
加地 そうですね。初回なので非常に置きに行った感はありました(笑)。ただ一方で、心配だったのが、みなさん月額料金を支払って見て下さっている中で、そこにAVって題材があったら嫌悪感を抱く方も少なからずいるかもなと。Abemaだったら、無料ですし見ない選択もできますが、「クラブ」だと‶自分のもの〟という意識が強いと思うんです。だから、不安もありましたね。
――難しい部分もあるんですね……。他にも「地上波で話せない座談会」はクラブならではの企画になりますよね。こちらもギリギリを攻めていて面白かったですが……。
加地 実は、あれでもけっこうカットしたんですよ! 正直、現場ではネットでもアウトだろ! って話がけっこうあって……。コバ(ケンドーコバヤシ)が最後に「これ2回目ないんちゃいます?」って発言していましたが、そういうことなんです(笑)
――お笑い好きな人でもアウトな感じですか?
加地 あれはアウトでしたね~。お笑いというか下(シモ)のエグい話ばっかりするんですよ。久保田かずのぶ(とろサーモン)なんか、う〇こを食べたい男優の話をずーっとしてて…! やっぱりお金をいただいているお客様に対して、う〇こを食べる話は流石に……。
――(笑)!
加地 テレビのお客様って、視聴者の方とスポンサーじゃないですか。でもクラブに関していうと、直接お金を払って頂いているお客様なので、感覚的にいうとスナックの常連さんみたいな感じなんですよね。なので、常連さんは大事にしなきゃと思っています。
持ち込み企画は減った?「世代が若返って僕に直接話せないんです(笑)」
――今後オリジナル番組でやりたいテーマや方向性は決まっていますか?
加地 正直、本当に手探り状態で、何が求められているのか、僕らがまだ分かっていなくてね。「AVサミット」などのハメをはずした企画、「オリックス芸人」のようなコアなファンがいる企画、ノリは同じだけどココだけのお得感がある「地上波で話せない~」など、カテゴライズしている最中で。今度、風俗バイト芸人をやるんですが、そんなのばっかりでいいのか!という気も(笑)。トライ&エラーでいろいろ試していきたいとは思っています。
――縛りが緩くなって、芸人さんからの持ち込み企画も増えそうです。
加地 最近は、昔よりもだいぶ減りましたからねえ。世代も若返って、僕に「〇〇芸人やりたいです」って直接言いづらいのがあるかもしれません。年齢差が開いてきちゃっているので。
――なるほど。でも、最近ではクラブにある『スリートーーク』で話していた、霜降り明星・せいやさんの『よしもと漫才劇場芸人』が実現しましたよね。
加地 そうなんです。やっぱり自由に話してもらってるときにアイディアが生まれたりしますよね。最近は、コロナで飲みにいけないので、何気ない雑談をする機会が減ってしまったのが、ちょっと痛手です。キャスティングも、他の人から、誰々がいいんじゃない? ってオススメされて新しい子を知ることが多いので。
――新人さんの発掘もしているんですか?
加地 そんなに積極的にではないですが、番組の出演者は戦力で選手なので、やっぱり選手層は厚いほうがいいですからね。どんどん新しい人を入れたいとは思っています。最近だと、太田プロに「幸せのトナリ」っていう若手がいて、ネタ番組でちょっと変わった子だなぁと思って、有吉弘行にあの子どう?って聞いたんです。そしたら、裏での面白い話を聞いたんで……近々出演してもらいますよ。
――おお、それは注目ですね。楽しみです。
千鳥やジュニアをゲストに、加地P自らラジオでトーク「毎回反省してます……」
――スペシャル企画で、加地さんが出演している『Pラジオ』もファンの方にはうれしいコンテンツかと思います。自ら出演しようと思った理由はありますか?
加地 出た方がいいって言われたんです……。顔出すのは嫌だって言って、声だけだったらいいかなと。どういう風に番組を作っているか聞かれることも多いので、ゲストと一緒に番組作りについて話しています。ただ、あんまり制作サイドの話が透けて見えてもよくないので、そこは気を付けつつ。
――裏側の話が聞けるのは、ファンにとってはうれしいことだと思います。また、ゲストもベテラン勢が多くて聞き応えがありますよね。
加地 僕はしゃべりに関して素人なので、話しやすくて緊張しない人にお願いしています。最初に千鳥で、麒麟・川島 明、華大(博多華丸大吉)、 (千原)ジュニア、かまいたちなど。これからは、宮下草薙の草薙航基とかやってみたいと思うんですけど、多分あいつ僕としゃべりたくないと思うから……(笑)。
――やっぱり豪華なメンバーですね。加地さんのラジオだからこそ、出演してくださっている方々ですね。
加地 いや~来てもらっても毎回反省ですよ……。上島さん(ダチョウ倶楽部)がいつも帰る時に「俺、大丈夫でした?」とか気にしながら帰って行く気持ちがよくわかる……。1回目の千鳥のあとなんか、ノブと大悟に「へこむわ〜」ってLINEして、ダメだった部分を全部話していたら「あまりにも加地さんが失敗失敗いうから、俺らも悪かったみたいな感じじゃないですか!」って……!
――(笑)! でも毎回、がっつり1時間トークされていてすごいです。
加地 相手がいますからね。そう考えると、佐久間(宣行)くんとか、すげー!って思いますよ。時事ネタでオープニングの20分間一人でトークできるもんなあ。ラジオは難しいですね。
地上波とクラブの連携は?「商売感出しすぎると嫌われちゃうから……」
――オリジナル企画だけでなく、収録の反省をする『吐き出し部屋』のように、地上波と繋がりのあるコンテンツもありますよね。今後、クラブと連携したい企画はありますか?
加地 シリーズものの企画を放送するときは、クラブで過去作をアップするとわかりやすいし、楽しんでもらえますよね。でも、会員獲得の為にクラブに誘導していると見えるのはね……。商売感を出しすぎると嫌われちゃうと思うので、連動ばかりはやりたくないんです。ネガティブな発想ですが……。
――いやらしい感じにはしたくないと。
加地 はい。だから、プラスアルファのコンテンツならいいと思うんですよね。年末のアメトーーク大賞で、流行語を1位から15位までやって、16位以下はアメトークCLUBで配信しようと思ってるんです。それは、おまけなのでいやらしくないかな、と(笑)
――露骨な誘導ではなく、ちょっとした遊び心ですね。
加地 そういう意味では、『吐き出し部屋』は、遊び心が入ってるかな。コロナ前は、みんなで収録後に打ち上げに行って反省会をするっていうのが恒例だったので。その再現なんですよ。これからも、嫌われないよう常連さんファーストでいきたいです……!
名作、神回を生んだ『アメトーーク!』「バラエティ番組を‶作品〟として残したい」
――『アメトーークCLUB』のコンテンツで今後やりたいことは何かありますか?
加地 コロナがあったので実現していませんが、観覧にご招待したりとか、会員限定のイベントもやりたいですよね。長い会員様は、蛍原さんと一緒に写真が撮れる権利とか…!事務所に聞かないとダメですけどね。
また、直近だと「クラシック」(過去作品)はどんどん増やして、充実させたいと思っています。ただ、意外とお金がかかるんですよね(笑)。演者さんの二次使用とか音の再編集とか……。SNSで全部置いてくれよって声も聞くんですけど、すいません……とてもじゃないけど置けないんですよ。
――『アメトーーク!』には名作や神回が多いですから、過去作を見たい方が多いと思います。バラエティで名作があるのは、すごいことですよね。
加地 僕の子どものころや学生時代って、テレビの好きな回ってビデオに録って繰り返し何回も見たり、友達にすすめたりしてたと思うんです。そういう作品を作っていきたい気持ちはありますね。バラエティ番組ってなかなか‶作品〟って呼ばれない気がして。だからこそ、そう呼んでもらえる番組を残そうとは思っています。
――ファンの皆さんの記憶に残っているということは、作品なんだと思います。今までの作品を見て感じることはありますか?
加地 クラシックをこれを機に見返すと、昔ってこういうところが良かったなぁとか、最近こういうの抜けてるなぁと思って、反省したりしてます。スポーツ選手じゃないですけど、だんだんフォームが変わっていって、気づいたらあれ? みたいな感じ。気づきがけっこうあるので、いい機会になっていますよ。
――最後に、今後の展望を一言お願いします。
加地 今、『アメトーークCLUB』は本当に小さいチームで制作していて、作家や制作会社のディレクターも入れず、テレビ朝日局員のスタッフだけでこじんまりやってます。だから「アメトーククラブ支店」ですね。自力でアイディア出しから全部やっていて、レギュラー番組がひとつ増えたようなウェイトがあります(笑)。ただ、クラブの方にばっかり力を入れて、地上波がゆるくなると、おそらくクラブに入りたいって人も減るでしょうから、当面はその両立です。大きなチャレンジですが、頑張りたいですね。
――これからも楽しみにしています。ありがとうございました!