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2021/11/23 11:00

「街灯」で人の動きを操る――パナソニックが仕掛ける「アフォーダンス ライティング」って何だ??

「アフォーダンス ライティング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。聞いたことないですよね。実は、筆者も初めて聞きました。街灯や公共施設などの照明設備を手掛けるパナソニック・エレクトリックワークスがこの11月から新たに始めた事業なのですが、これにより今後の町づくりに変化が起こるかもしれません。新技術の街灯による未来の町づくりを、ちょっとだけ覗いてみましょう。

 

アフォーダンスとは認知心理学における概念で、物体の形や色そのものが、その物体の使い方を説明しているというもの。例としてよく引き合いに出されるのがドアノブで、輪っかのドアノブは手前に引くもの、平らなプレートは押すもの。言葉で説明しなくても形だけで使い方が分かる、ということです。この概念を街灯に導入しようという試みが「アフォーダンス ライティング」です。まだ、何を言っているか分かりませんね。

 

具体的に仕組みを説明する前に、その導入背景を説明しましょう。ライティングを町づくりや町興こしに利用する事例は以前から多く存在します。よく見るのは歴史的建造物やランドマーク的建造物のライトアップ。多くの自治体がお城やタワー、レンガ倉庫などをライトアップして観光客を呼び込んできました。

 

そしてここ10年くらいで増えたのがプロジェクションマッピング。巨大建造物に次々に立体的な映像が映し出される迫力は、観る者を魅了して止みません。しかしプロジェクションマッピングは短期的なイベントであり、恒常的に人を呼べる仕掛けではありません。一方、ライトアップは「映える」建造物が存在することが前提であり、「映え」スポットを持たない自治体はどうすることもできません。

 

こうした一時的なイベントや知名度の高いランドマークの威光に頼ることなく、夜間人口を恒常的に増やして経済を活性化する「ナイトタイムエコノミー」が近年注目されており、官民一体となった取り組みが徐々に始まっています。

 

↑夜間人口を増やして経済を活性化しようとする「ナイトタイムエコノミー」の創出は政府、自治体ともに本腰を入れ始めています

 

自然に歩きたくなるあかりで施設内を回遊させる

そこでパナソニックは、プロジェクションマッピングのような特別な装置や設備ではなく、夜の町に絶対必要なインフラである街灯でナイトタイムエコノミーを盛り上げることができないかと考え、開発したのがアフォーダンス ライティングです。

 

動画を見てもらうのが最もわかりやすいので、まずはこちらをご覧ください。30秒の動画なので再生するのが手間という人もぜひ閲覧を。

 

動画を見てもらうとわかるのですが、光の強弱や点灯箇所をコントロールすることで、人を誘導できるというものです。上のデモ映像は「回遊」のあかりで、4つのLEDが手前から進行方向に順に道を照らし、人を歩く気持ちにさせます。

 

実際に体験してみると、あかりの動きに沿って歩きたくなるから不思議。それがあたかも当然のように、自然と歩き出す感覚。試しに、あかりの動きとは逆方向に進もうとすると、何とも言えない気持ちの悪さを感じ、歩行速度は鈍り、Uターンしてあかりと同じ方向に歩きたくなります。あかりが切り替わる速度は変更できますが、パナソニックは人が心地よく歩けるパターンを分析、設定しています。

「回遊」のあかりは、例えば広い公園を歩かせて、園内に配置した飲食店やショップを余すことなく巡らせてみたり、ライブや花火などの大規模イベント終了後に会場から駅までを淀みなく誘導したりと、意図的に人の流れを作り出すことが可能となります。

 

今回は「回遊」のほかに、「滞留」の照明演出を開発。「滞留」のあかりは、街灯が明るくなったり暗くなったり、ゆっくりと明滅する仕組みです。焚き火やろうそくの炎をいつまでも見ていられるように、心地よい光のゆらぎでリラックスでき、ずっとそこにいたくなる感覚になります。

「滞留」によって人が集まれば、そこには何らかの経済活動が生じる可能性があります。安易に考えるとやはり飲食ですが、「回遊」のあかりと組み合わせることで、公園内や港などの公共施設を広い範囲でプロデュースできるようになるでしょう。

 

↑今回は回遊と滞留の2つのアフォーダンス ライティングのお披露目でしたが、回遊は誘導にも応用できます

 

普段は街灯、週末はアフォーダンス ライティング

このように、人の心理や高度に働きかけられる照明演出が「アフォーダンス ライティング」なのです。「回遊」と「滞留」はどちらも同じ街灯を使っており、プログラミングによってさまざまな演出ができるのがメリット。道路や公園に設置されている屋外盤にコントローラーを組み込めば、時間帯や季節、曜日などで異なる照明演出スケジュールを作ることも可能です。

 

今後は、光源を増やすことで明るさやあかりが照らす範囲、色温度、色も自在にコントロールできるようになります。目的やシチュエーションによってあかりをコントロールできるようになるのです。

 

↑「回遊」「滞留」ともに、体験した人はあかりの有用性を実感しています

 

もちろん。あかりだけでは人を呼べません。自治体や都市開発デベロッパー、周辺商店街と共同し、町づくりの一貫としてあかりの設計が必要となるでしょう。例えば、つい先日あった月蝕において、商店街の街灯を滞留のあかりにして、「わが商店街では街灯の光量を落としたやさしいあかりで月蝕が見やすくなります。暖かいお茶と美味しいお茶菓子を片手に天体ショーを安全に楽しみませんか」、といった提案もできるかもしれません。街灯によって夜が楽しくなるなんて、ワクワクしますね。