昭和の飲食店ではよく見かけた食品サンプル。本物の料理以上においしそうに見えるそれは、日本特有の技術と文化によって支えられてきたが、個人経営の飲食店の減少にともなって、衰退の一途をたどっている……と思いきや! 海外からの高い評価と、アート、アクセサリー界からの熱い視線によって、再びその熱が再燃しているという。初の食品サンプルビジュアルブック「食品サンプル百貨店」の著者のひとり、タイムマシンラボの小西七重さんに、食品サンプルの魅力と現状について聞いてみた!
【ガイドしてくれるのはこの人!】
小西七重さん
2002年、竹村真奈によって設立された書籍や雑誌の編集・執筆・企画・プロデュースを中心に活動する編集プロダクション「タイムマシンラボ」に所属。タイムマシンラボの近著「食品サンプル百貨店」(ギャンビット)のほか、様々な書籍を手がける。
――まず、タイムマシンラボさんが食品サンプルに興味を持つようになったきっかけを教えてください。
小西 もともと、どこかファンシーなものにちょっと惹かれる性質があって。たまたま浅草のかっぱ橋に行ったときとかに、クリームソーダの食品サンプルのキーホルダーとか、そういった物をちょこちょこ買っていたんです。あるとき竹村とふたりで「やっぱり食品サンプルかわいいよね」とすごく盛り上がって。クリームソーダやプリンアラモードなど、食品サンプルには「おいしそう」とか「かわいい」と思う瞬間が閉じ込められているんですよね。本物の食べ物は、時間の経過とともに、かたちが崩れたり、劣化していくじゃないですか。食品サンプルは、その食べ物や飲み物の“最高の瞬間”がキープされた状態。その不思議な魅力にどんどんのめり込んでいきました。
――それまで食品サンプルの本ってなかったんでしょうか?
小西 メーカー向けの「食品サンプルの作り方」のような本はありましたけど、食品サンプルのかわいさとか、周辺情報を紹介する本はなかったんです。それで出版社の方にご相談したら、まさかの「いいよ」というお返事をいただき、そのまま出版させていただくことになりました。
――「食品サンプル百貨店」はかわいらしくポップな装丁ですけど、中身はかなり硬派な印象でした。
小西 食品サンプルのメーカーさん、職人さんに取材させていただいたら、新しい発見の連続で。食品サンプルのバリエーションとともに、各メーカーさんの仕上がりの違いを知っていくにつれ、どんどん入り込んでいった結果ですね。
「持ち上げ系」は写真メニューに対抗して考案された
――食品サンプルと聞いてパッと頭に思い浮かぶのは、やっぱり持ち上げ系ですよね。こちらはどうやって生まれたのでしょうか?
小西 そのあたりは、取材で「持ち上げ系の元祖」といわれる愛知県のメーカーさんに経緯をうかがいました。当初、食品サンプルというのは写真が高額だった時代、メニューの写真の代わりとして生まれたのだそうです。そのうちに、写真が主流になり始めるんですけど、そうなると食品サンプル業者さんは仕事が減ってきてしまう。そこで、写真との差別化を図るため、普通の料理を再現するだけでなく、「持ち上げる」要素を考案。後にこれが流行りはじめたそうです。
――寿司の食品サンプルはよく見かけますが、なかには持ち上げ系から派生したと思われる、醤油に付ける瞬間もありますね(笑)。
小西 「元祖食品サンプル屋」さんの「つまみ寿司」ですね。醤油皿に対して、寿司が逆立ちしているような(笑)。なんだかかわいらしいですよね。
ビールのCMにも使われる精巧なドリンク系
――食品サンプルの定番といえは、やっぱりドリンクですね。
小西 これはある食品サンプルのメーカーさんに聞いた話なのですが、ビールのCMでは、食品サンプルを使うことが多いそうです。キンキンに冷えた霜がついた状態のものは、撮影時の環境に左右されます。だから「泡が出る瞬間を撮りたい」といった条件があるときは、食品サンプルを使うことがあるそうです。確かに、冷蔵庫から出した瞬間に、ジョッキが曇っちゃったりしたら大変ですもんね。
――「食品サンプル百貨店」の表紙にもなったクリームソーダなども、食品サンプルのイメージが強いです。
小西 かわいいですよね。あと、昭和の時代を知ってる私たちの世代が、クリームソーダの食品サンプルを見て「かわいい」「懐かしい」と思うのは当然なんですけど、食品サンプルの全盛期を知らない今10代、20代の子でもノスタルジックな気持ちになるみたいです。なぜかはわかりませんが(笑)。
これも定番! スイーツ系
――あとは、スイーツ系も定番ですね。
小西 ショートケーキの食品サンプルは、いろいろなメーカーさんが作ってるんですけど、各メーカーによって、作り方の差が出やすいんです。例えば、デコレーションケーキにしても、クリームの絞り方ひとつ取っても、子どものころの誕生日なんかに親がドンッ! と買ってきてくれたケーキのような、レトロなイメージのメーカーもあれば、完全に今の時代のケーキを作るメーカーもあります。
個人的に、「食品サンプルのケーキ」のイメージに近かったのが、サトウサンプルさんというメーカーさんのものだったんですが、聞いてみたら、やっぱり昔ながらの食品サンプルのイメージに近づけることを、強く意識して作られているとおっしゃってました。
――ホットケーキも今のパンケーキじゃない感じですね。
小西 そうなんです。パンケーキじゃなくて、スタンダードなホットケーキのほうが食品サンプルとしては正しい気がしますよね(笑)。
食品サンプルに関する裏話はまだまだあります! 次回も、小西さんにより深いお話をうかがう予定。お楽しみに!
【より詳しい情報はこちらをチェック!】
食品サンプル百貨店
編著:竹村真奈、小西七重(タイムマシンラボ)
発行:ギャンビット
価格:1512円