名前というものは、何かしら由来があることが多い。自分の名前だって、お父さんお母さんに尋ねたら「お花のようにきれいになってほしい」とか「たくましく育ってほしい」みたいな、両親の願いが由来となっていることだろう。それは地名にも同じことが言える。そして、地名は意外と物騒な由来が多い。
■“こち亀”の舞台「亀有」は「亀無」だった
9月17日に40年の歴史に幕を下ろす人気マンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。その舞台となっているのは、東京都葛飾区亀有。僕は、東京都葛飾区生まれなので、亀有はよく知っている。
亀有という地名から、亀がたくさんいるようなイメージがあるかもしれないが、昔、駅前にあった公園に大きな亀のすべり台があったことくらいしか覚えていない。そう、亀なんていないのだ。あ、亀の形をしたおせんべいはありました。
亀がいないのに亀有とはこれいかに。そう思い『本当は怖い日本の地名』(日本の地名研究会・著/イースト・プレス・刊)を読むと、亀有の由来が載っていた。それによると、室町時代には、なんと「亀無」と呼ばれていたようだ。
由来は地形から。昔は古利根川が流れ、この土地で古隅田川と葛西川に分かれていた。そのため土砂がたまりやすく、こんもりと土地が盛り上がり、それがカメの甲羅に似ているので亀の字が付けられたのだ。
(『本当は怖い日本の地名』より引用)
ちなみに「無」は「ない」という意味ではなく「成し」の意味ということ。江戸時代に地図作成の際に、縁起が悪いということで「亀有」に変更したということだ。
■馴染みある地名も実は怖い意味が?
本書をいろいろ読んでいると、普段目にする地名にもいろいろな由来があることがわかる。たとえば「両国橋」だ。1959年に隅田川に架けられたこの橋。一般的には西側の武蔵国、東側の下総国の2つの国に架けられたことから「両国」という名前になったと言われている。しかし、もうひとつの意味があるという。
江戸の大半を焼き尽くした明暦の大火。隅田川には小さな橋しかなく、多くの人が川の向こうに逃げられずに亡くなった。
(『本当は怖い日本の地名』より引用)
つまり、「あの世」と「この世」を分けた川が隅田川で、そこに架けられたから両国橋という名前になったという説があるのだ。
■一見、情緒のある名前も由来は……
鬼子母神や飛血山、首切峠といった、「首」「血」「鬼」などが入った地名は意外と多い。これらは、たいていは物騒な由来がある。ただし、そうではないものもちらほら。元の言葉が訛って変化し、そこに当てられた漢字がたまたま物騒だったというものもある。
逆に、一見穏やかな地名の裏に恐ろしい由来があることも。秋田県にある「面影橋」は、近くにあった処刑場で処刑される罪人が、橋のたもとにある茶屋で最後の食事をとる。処刑のために橋を渡る罪人が、川に映る自分の面影を見たことからこの名前になったということだ。ちなみに、東京にも同じ由来の面影橋は存在する。
■地名をたどると歴史がわかる
地名というのは、必ず何かしらの由来がある。その由来を知ることで、その土地の歴史も知ることができる。
まずは手始めに、自分が住んでいる場所の地名の由来を探ってみてはどうだろうか。現在の様子からは想像もできない歴史が、その場所にはあるかもしれない。図書館や市役所に行けば、昔のことが調べられるし、昔から住んでいるお年寄りに話を聞くのもいいだろう。
地名は単なる住所ではない。その名前になった理由が必ずある。つまり地名そのものが歴史なのだ。(文:三浦一紀)
【参考文献】
本当は怖い日本の地名
著者:日本の地名研究会
出版社:イースト・プレス
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