2020年のステイホームから家飲み需要が高まり、その流れは2021年も続きました。2022年を迎え、家飲みシーンにはいっそうの充実感が求められるようになると予想します。
その点で注目すべきお酒が、菊水酒造の生原酒「ふなぐち菊水一番しぼり」。抜群のうまさと入手のしやすさから“コンビニ最強酒”の異名をもつ銘酒ですが、2022年は発売50周年ということで、注目度はより高まるでしょう。
そこで本稿では、菊水酒造や「ふなぐち」の歴史などを解説。また、味の特徴やロングセラーの理由を、身近なおつまみとの相性にも触れながら紹介します。
菊水酒造
ふなぐち菊水一番しぼり(生原酒)
1972年に誕生した日本初の缶入り生原酒で、累計出荷数は3億本以上。2022年には誕生から50周年を迎えます。新潟県産米を100%使用した精米歩合70%の本醸造で、濃醇旨口のフルーティかつフレッシュな味わいが特徴です。
50周年を迎える庶民の味方「ふなぐち」
菊水酒造は1881(明治14)年に新潟県新発田市で創業。当初から、従来の方法を踏襲しつつ先端技術を導入するなど、新しいことを積極的に取り入れる社風でした。
革新性は脈々と受け継がれ、1969(昭和44)年には業界の伝統的な制度である杜氏制を廃止。これは、それから数十年後に業界のトレンドといわれるようになった「蔵元杜氏」と同義です。このように、フロンティアスピリッツと鋭い先見性をもった蔵元が菊水酒造なのです。
常識にとらわれない哲学のもと、1972(昭和47)年に誕生したのが生原酒 「ふなぐち菊水一番しぼり」。酒槽(ふね。発酵を終えたもろみを、清酒と酒粕に分離するところ)の口から流れ出る搾りたての生原酒を同蔵では「ふなぐち」と呼んでおり、それが商品名の由来です。
火入れをしていないフレッシュな生原酒は品質管理が難しいため、もともとは酒蔵に来た人だけにふるまう幻の酒でしたが、“門外不出のこの味を全国に届けたい”という想いから商品化がスタート。しかし、非加熱酒のため常温流通が難しく、開発には3年もの歳月がかかったとか。
決め手となったのは、醸造法の見直しや、パッケージの素材に紫外線を遮るアルミ缶を採用したこと。酸化を抑えるため、180ml規格の缶に200mlなみなみと詰められている点も特徴です。そうして1972年に全国流通が実現。日本初の缶入り生原酒としてデビューし、新しい日本酒カテゴリーを確立したのです。
このプレミアムな味わいが、身近な店で買えることから“コンビニ最強酒”と呼ばれるポジションを築いたわけですが、コンビニやスーパーで気軽に買えるセンベロ的なおつまみと組み合わせたときの“価格以上の贅沢感”も魅力です。
では、どんなおつまみとの組み合わせがオススメなのか。実際のフードペアリング例とともに紹介していきます。
なお、以下で紹介する組み合わせは特定のブランドやPB商品のものもありますが、特におすすめのものをピックアップしています。幅広く手に入るペアリングなので、近所にあるスーパーやコンビニで類似の商品を選んでもOK。また違った「ふなぐち」体験が満喫できるので、奥が深いお酒です。
「ふなぐち」にベストマッチの身近なおつまみ8品はこれだ!
筆者がセレクトしたのは10種のおつまみ。身近なコンビニやスーパーで実際に売っている商品から選びました。それぞれのメニューを解説するとともに、ふなぐちと合う理由もお伝えしましょう。
1.ローソン 「炭火焼鳥 ももタレ」×ふなぐち(常温)
「ふなぐち」と合う味付けは甘じょっぱいタイプ。焼鳥や焼肉でいえば、塩よりもタレですね。基本的にコンビニには焼鳥が売られているので、迷ったらタレ味の焼鳥を選べば間違いありません。
レンジやオーブンで少し温め、「ふなぐち」は常温で合わせてください。お互いがもつ甘やかなうまみが、口のなかでひとつになって至福を感じられるはずです。
2.ローソン「牛すじ煮込み」×ふなぐち(冷酒)
センベロといえば大衆酒場。大衆酒場といえば煮込みということでセレクトしました。豚のもつ煮込みや、大阪「どて焼き」、名古屋「どて煮」のように味噌味の煮込みでもOK。これらも甘じょっぱい味付けが、甘やかな「ふなぐち」と好相性です。
冬場に合わせるなら「ふなぐち」は常温がオススメ。夏場なら、熱めにチンした煮込みと冷酒の「ふなぐち」でキリッと合わせるのもいいと思います。
3.中村屋「濃厚ビーフシチュー 厚切り牛肉のこだわり仕込み」×ふなぐち(常温)
コク深く香りのフルーティな「ふなぐち」は、熱を加えたトマトのうまみや酸味ともよく合います。そこでオススメなのがビーフシチュー。特に中村屋のこちらは入手しやすいうえ、具が大きめでおつまみにも最適なのです。
合わせる「ふなぐち」は常温がおすすめ。ドロッとしたシチューのテクスチャーを、19%と強めのアルコールがサラッと切りつつ、口当たりはまろやかなので互いが調和する部分も。
4.トップバリュ「クリームチーズ」&徳山物産「おいしいタラのチャンジャ 鶴橋」×ふなぐち(冷酒)
チャンジャはいわゆる韓国風の塩辛で、辛味があるのも特徴。クリームチーズと合わせることで、まろやかさをもった濃厚ピリ辛珍味になるのですが、このハードパンチャーとも対等にわたりあえるお酒こそが「ふなぐち」です。
飲み方は、温度帯を合わせて冷酒で。クリームチーズチャンジャは少量でも口の中でダイナミックに広がりますが、そこに「ふなぐち」をキュッと合わせましょう。まろやかなうま辛さに米のフルーティな甘みが混じり、えもいわれぬおいしさです。
5.トップバリュ「三温糖使用 豚角煮」×ふなぐち(常温)
豚の角煮も甘じょっぱい肉料理の代表格であり、コンビニやスーパーで入手しやすい一品です。脂が多い料理でもありますが、だからこそ「ふなぐち」が大活躍。飲み方は常温がオススメです。
こってりした味を、「ふなぐち」のキレの強いアルコールと濃醇なうまみがリセットし、ラストは米の甘みが心地良い余韻をリフレイン。また次のひと口へといざないます。
6.ファミリーマート「ごろごろ具材の甘酸っぱい酢豚」×ふなぐち(ソーダ割り)
甘じょっぱさに、酸味も加わった酢豚には「ふなぐち」をソーダ割りで合わせてください。米のフルーティな甘みに炭酸の爽快感が加わり、甘酸っぱい酢豚とビッタビタにハマると思います。
ソーダ割りは、19%のアルコールが強いと感じる人にもオススメ。タッチがやさしくすっきりしているので、今回紹介したほかの料理にソーダ割りを合わせるのもいいと思います。
7.ローソン「ベーコンポテトサラダ」×ふなぐち(ロック)
「ふなぐち」にサラダを合わせるなら、ポテトサラダやコールスローサラダ、キャロットラペのように、葉野菜×ドレッシング系ではないタイプがオススメ。それはやはり、濃醇旨口な「ふなぐち」には濃縮感のある料理のほうが合うからです。
ポテトサラダの場合、ベーコンなど味にパンチのある具材が入っているほうがよりオススメ。そして、冷たいサラダに合わせたい飲み方はロックです。濃厚な味のサラダに、キリッと冷たい「ふなぐち」が絶妙にマッチ。冷たいことでシャープなニュアンスも醸し出し、サラッと調和するところもお見事です。
8.トップバリュ「サーモントラウトスモーク ノルウェー産生サーモントラウト使用」×ふなぐち(冷酒)
「ふなぐち」に合う魚は脂がのったタイプだと前述しましたが、燻ってワイルドに香り付けたスモーク系とも相性抜群。代表格といえばスモークサーモンであり、身近な店でも入手しやすい一品です。
飲み方のオススメは冷酒。サーモンの脂やスモークの香りを凝縮感のある「ふなぐち」が受け止め、フレッシュな吟醸香もおいしくマッチ。魚の余計な臭みも、フルーティかつ力強いうまみがカットしてくれます。なお、チャンジャのところで紹介したクリームチーズを、このサーモンに合わせるとまた違ったリッチさが楽しめますよ。
シメはご飯もの、乾きものはいか系と米菓がオススメ
今回の8品は前菜~メイン系のおつまみを中心に紹介しましたが、その他にも、魚料理も「ふなぐち」との相性は抜群。焼く場合は、西京焼きやみりん焼きなど甘じょっぱい調理法がオススメ。煮込みなら、大定番のさばの味噌煮はスーパーやコンビニでも入手しやすいので、ぜひ試してみてください。
シメや乾きもの系にも「ふなぐち」は幅広く合います。米のうまみが強いお酒なので、シメはご飯ものがオススメ。シンプルに、具が濃い味のおにぎりなどもいいと思います。
乾きもののオススメは、いか系全般(いかくん、さきいかなど)のほか、甘じょっぱい系や、ピリ辛味のせんべい全般。同じ新潟つながりで、亀田製菓のハッピーターン、ぽたぽた焼、柿の種などはベストマッチです。
8品すべてペアリングも試し、「ふなぐち」は晩酌に贅沢感をもたらしてくれるお酒だと改めて実感しました。年末年始はもちろん、これからの晩酌のお供にぜひ合わせてみてください。
文=中山秀明 写真/湯浅立志(Y2)