PCパーツの入れ替えや変更により長く使えたり、大人のプラモデル感覚で楽しめたりと、魅力の多い自作PC。これを始めるうえで、いま旬のPCパーツにはどんな製品があるのでしょうか。秋葉原の中央通り沿いで存在感を発揮するPCパーツショップ・TSUKUMO eX.の紅谷さんに、店内を案内してもらいながら、売れ筋のPCパーツやおすすめの構成について聞いてみました。
なお本企画は、既製品にはない自作PCならではの魅力、いまのトレンドやパーツの選び方、PCを初めて自作する人が注意すべきポイントなど解説する、3本立ての記事で構成されており、本記事は3本目にあたります。
これまでの記事をまだお読みでない人は、ぜひそちらもご覧ください。
関連記事:あえてPCを自作する理由。”大人のプラモデル”としての自作PCの魅力に迫る
関連記事:実はいまメモリーが爆安!? 自作PCのパーツの選び方をプロに聞いてきた
眩い光を放ちながらズラリと並ぶケースに心惹かれる
紅谷さんがまず案内してくれたのが6階のケース売り場です。PCの外装を決めるケースはシンプルなものはもちろん、スケルトンでケース内部の様子が見えるもの、メカニックな装飾が施されたものなど、多種多様なものがズラリと並んでいます。これを自室に置いたら映えるだろうなあ、などと考えていたら物欲が刺激されてたまりません。
「これが出てから、ほかをおすすめできなくなった」怪物コスパCPU
次に案内してもらったのが、CPUとマザーボードを販売する4階フロア。スタッフの紅谷さんが「これが出てから、ほかのCPUをおすすめできなくなった」と語るほど、高いコスパを誇るモデルを紹介してくれました。
それは2022年1月に登場した「インテル Core i5-12400F プロセッサー」。本品は、2万4800円(税込、2月8日取材時点)という価格設定ながら、ライバルメーカー・AMDの3万円台の製品に引けを取らない能力を秘めています。
「ほとんどのゲームは、インテル Core i5-12400F プロセッサーでストレスなく遊べます。いま、若いお客様のなかに10万円台でゲーミングPCを作りたいというニーズが増えていて、そういう方に向けておすすめしているのがこのCPUです。ただし、動画編集をされる場合はさらに高いCPU性能が要求されるので、より高性能な『インテル Core i5-12600KF プロセッサー』などをおすすめしています」(紅谷さん)
CPUなどのPCパーツは、日々新しい製品が世に出ています。なので、インテル Core i5-12400F プロセッサーがコスパの頂点に立っている時期はいつまで続くかわかりません。新しい製品が世に出るたびにコスパの優劣が変動するため、PCを自作しようと決めたらまずは店頭に足を運んで、その時々のトレンドをチェックするのがおすすめです。
マザーボードにも、プロおすすめの鉄板モデルが
CPUの隣で販売されていたのがマザーボード。小さなCPUとは異なり、デザインにこだわって選ぶことも多いマザーボードは、現物がディスプレイされています。
そのなかでも、紅谷さんが「特別なこだわりがない限り、これを選んでおけば困らない」と語るのがASUSの「PRIME B660-PLUS D4」。HDMI、DisplayPortなどの映像出力端子のほか、USB Type-Cを含む数多くのUSB端子、最大128GB搭載に対応したメモリースロット、SSDの高速読み書きが可能なM.2ソケットを3つ備えるなど、万能さが光るマザーボードです。
「PRIME B660-PLUS D4は、LED内蔵パーツの光り方をカスタマイズできる機能も備えていて、PCを光らせたい人のニーズにも応えてくれます。Thunderboltなど、本品が搭載していない特定の規格の端子がどうしても必要というわけでなければ、これを採用して困るパターンはほとんどないと思います。まさに”無難”といえる構成になっているので、自作初心者の方には特におすすめです」(紅谷さん)
メモリーやSSDの売り場の”PCパーツショップ名物”とは?
続いて、紅谷さんが「もはやPCパーツショップ名物ですよね」と語るのが、メモリーやSSDの売り場にある価格表です。細かい文字がひしめくそのさまは、初めてショップを訪れたユーザーを驚かせます。既製品のPCには何気なく積まれているメモリーやSSDにも、自作となれば多くの選択肢があります。
紅谷さんによれば、「いま、メモリーの価格は2年前の約半分ほどに落ちている」のだそう(2月8日取材時点)。製品にもよりますが、3万円未満で16GB×2枚のメモリーを買えるので、予算に余裕がある場合は優先して積み増したいPCパーツです。
メモリー以上に価格表の存在感が大きいのが、SSD・HDDの売り場です。基本的に、容量に比して価格が高くなっていきますが、日頃からデータの読み書きを多くするユーザーなら、容量以外にも耐久性をチェックしておいた方が良いそう。
耐久性は「最大〇〇TBW」という表記で表されており、「最大で〇〇TBの読み書きが可能」という意味になります。この数字が大きいほど、繰り返しの大容量読み書きに耐えられるというわけです。大容量の動画を日常的に撮影する人などは、耐久性の項目にも注目してSSDを選んでみましょう。
GPUよりもディスプレイの方が投資効率が良い!?
世界的な半導体不足のあおりで価格が高騰しているGPU。お金をかければかけるほど性能が高くなるのは事実ですが、紅谷さんは「高いGPUを買う前に、ディスプレイの性能をチェックしてください」と言います。
その理由は、10万円近くするGPUを買うよりも、2万円台のディスプレイを買うだけでPCのパフォーマンスを上げられる可能性があるから。GPUやディスプレイの性能を表す指標であるリフレッシュレートがその要因です。リフレッシュレートとは、1秒間に画面を切り替えられる回数を表しています。
現行のゲーミングディスプレイのリフレッシュレートは144Hzが一般的です。一方で、数年前のゲーミングディスプレイやゲーミング向けでないディスプレイには、144Hzに及ばないものも多くあります。
それを理解したうえで価格を見てみると、リフレッシュレートが144Hzに対応したディスプレイは2万円台でも十分手が届きますが、144Hzのリフレッシュレートで映像を表示できるグラフィック性能の高いGPUは10万円に迫る高価格。ディスプレイとGPUには大きな価格差があるので、GPUを高価なものにするのなら、その前にディスプレイを買うべきというわけです。
GPUがリフレッシュレート・144Hzのグラフィック描画に対応していても、ディスプレイがその映像を映し出せなければ、せっかくの投資が腐ってしまいます。GPUの価格が高騰している一方でディスプレイの価格はそれほど上がっていないので、バランスを考えた投資が吉です。
「ゲームを快適にプレイするだけなら、GPUが144Hzのリフレッシュレート出力にこだわらなくても問題ありません。GeForce RTX 3060 Tiより2万円ほど安い7万5680円(税込)のGeForce RTX 3060でも、144Hzに近いリフレッシュレート出力は実現できますし、これでストレスを感じるゲーマーは少ないと思います。
ちなみに、動画編集の場合はゲーミングほどGPUにこだわる必要はありませんが、Adobe Premiereなどの動画編集ソフトではGPUに負担がかかるので、使用している動画編集ソフト次第では上位ランクのGPUを採用する価値があります」(紅谷さん)
行くだけで物欲が刺激される魔境、初心者にとっては新たな世界が開ける
PCのヘビーユーザーなら、行くだけで楽しいのがPCパーツショップです。新しい相棒の構成を練ることは当然楽しいですし、いま使っているマシンの改造計画を考えるのも、実現するかはお財布と相談ながら妄想がはかどります。
最低限の知識こそ必要な自作PCの世界ですが、一度足を踏み入れてしまえば、いつも何気なく使っているPCが生活の相棒にグレードアップします。家で使用するPCの新調を考えている人は、ただ新品を買うのではなく、新しい世界へと足を踏み入れてはいかがでしょうか?
「興味を持ったら、まずは丸腰で構いませんから、ぜひショップを訪れてみてください。そして、“予算は○万円しかないけれど、〜ができるパソコンが欲しい!”などと、スタッフにワガママを言いましょう(笑)。もちろん限度はありますが、良いものができるように構成を考えます。予算を節約しながらでも、十分使えるマシンを作れることが多いですよ」(紅谷さん)
ちなみに、この取材を終えた筆者、現在使用しているPCの大幅改修をしたい衝動に駆られています。やはり、PCパーツショップは魔境です。
※価格のトレンドについては記事掲載時点のものです。今後の国際情勢などによって変動する場合があります
撮影/我妻 慶一、取材協力/TSUKUMO eX.