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2022/2/23 6:30

勝地涼「稽古中は光石研さんが地元の方言が書かれたTシャツを、僕はザ・ドリフターズのTシャツばかりを着ていました」

現在放送中のドラマでも存在感を見せている勝地涼さんの最新舞台『いのち知らず』が早くもCSで放送。劇作家・岩松了に自ら直談判して公演につなげていった本作には、盟友・仲野太賀やベテラン光石研など、実力派キャストが顔を揃えている。千秋楽から約2カ月が経ったいま、改めて公演を振り返ってもらった。

 

勝地涼●かつじ・りょう…1986年8月20日、東京都出身。2000年にドラマ『千晶、もう一度笑って』で俳優デビュー。2005年に映画『亡国のイージス』で日本アカデミー賞新人賞を受賞。現在、ドラマ『ドクターホワイト』、『となりのチカラ』に出演中。最近の話題作にドラマ『志村けんとドリフの大爆笑物語』、『ネメシス』など。Instagram

 

登場するだけで劇場の空気が変わる共演者との舞台はとても刺激的でした

 

──この『いのち知らず』は、勝地さんから岩松さんに企画を持ちかけたところからスタートした舞台でした。まずはその経緯から教えていただけますか。

 

勝地 僕の舞台デビュー作が2004年の『シブヤから遠く離れて』で、岩松さんの戯曲を蜷川幸雄さんが演出したものでした。その後、『空ばかり見ていた』(2019年)で初めて岩松さんから直接、演出を受けたのですが、それが僕の中で蜷川さんの時と同じくらい衝撃的だったんです。いつかまたご一緒したいと思いましたし、それ以上に“またいつかやりましょう”という形で終わってしまうのがいやで。それなら思い切ってこちらから提案してみようと思い、生意気かもしれませんが、勇気を出して「僕と(仲野)太賀にホンを書いてくれませんか?」とお願いしたのが始まりでした。

 

──今作の台本が完成する前にインタビューをした際、「岩松さんのホンは最後の最後までどんな展開をみせるか分からない」とお話しされていたのが印象的でした。実際に読まれた感想はいかがでしたか?

 

勝地 やはり難しい部分がたくさんありました。岩松さんは稽古中でも明確な答えを言ってくださらないので、正直、自分たちの解釈が合っていたのかもいまだに分からないのですが(笑)、ただ、まさしく“いま”を描いている作品だなと思いました。いろんな物事が錯綜するこの時代の中で、何を信じるべきなのかといった思いも詰め込まれているように感じて。例えば、どれだけ仲のいい親友同士でも、よく知らない第三者の変な情報を耳にしただけで、その言葉に惑わされ、友情にヒビが入ってしまうことがある。そうした得体のしれない怖さもある作品だなと思いました。

撮影/宮川舞子

──仲野太賀さん演じるシドとのセリフの掛け合いは緊迫感がありました。後半の2人でやり合うシーンでは自然と涙も流されていましたね。

 

勝地 太賀は本当に素晴らしい役者で、一緒に芝居をしてみたいとずっと思っていたんです。今回僕が演じたロクとシドは同じ夢を持った親友の役で、その2人がどんどんとすれ違っていくという展開でしたが、掛け合いをしていくなかで、ときどきシドに対して役を超えた見え方がする瞬間があったんです。シドに嫉妬するシーンでは、僕が太賀に抱いている“役者として負けたくない”といった感情が滲み出たり、そうかと思えば、いつも僕を助けてくれている太賀への感謝の気持ちもあったり。演じながらこうした感情が表れることがいいことなのか、悪いことなのかは分かりませんが、とにかくいろんな思いと役の部分が重なって、それがロクの涙としてふと流れ出たんだと思います。

 

──また、光石研さんとは映像作品で共演経験があったものの、舞台では初でした。

 

勝地 光石さんには終始、圧倒されっぱなしでした。稽古から本番にかけて太賀と話すことといえば、ほとんどが「光石研には勝てん」「光石研、恐るべし!」っていう内容でしたから(笑)。光石さんはいつも僕らのセリフ覚えの早さを褒めてくださっていたんです。でも僕らからすると、そんなのは全然大したことではなくて。本当にすごいのは光石さんのお芝居で、どこをどう切り取ってもモオリという役にしか見えなかったんですよね。僕も、本番中はロクに成り切って集中を切らすようなことはなかったと思うのですが、どうしても光石さんのようには舞台に立てていなくて。公演が終わって一番最初に考えたのは、どうすれば光石さんのようになれるのかということでした。今回、こうして僕らの舞台が衛星劇場で放送されるので、映像を見て、改めて光石研という役者のすごさを隈なくチェックしたいなと思っています。本当は自分が出ている舞台映像って恥ずかしくてあまり見たくないのですが、勉強のためと思って頑張ります(笑)。

 

──(笑)。モオリは言動に矛盾しているところが多いのに、それでもすべての言葉に説得力がありました。

 

勝地 ホント、そうなんです! マイナス思考なのに、ズケズケと他人が嫌がることを言ってくるし、とにかくイヤなやつで(苦笑)。しかもそれを光石さんが演じるから、余計に心に刺さってくる。光石さんの「俺、おかしくなっちゃったのかなぁ」っていうセリフも、こちらの胸がキュッと締め付けられるほどリアルで。そうした、生きたお芝居をしてくださるので掛け合いのシーンはとてもやりやすかったです。なにもかもがすごいので、ちょっと悔しいところもあるんですが(笑)、共演できて本当に幸せでしたし、ご本人は「もう、舞台はやりたくない」と言ってましたけど、絶対にまたご一緒したいですね。

撮影/宮川舞子

──トンビ役の新名基浩さんとは『空ばかり見ていた』以来になりますね。

 

勝地 僕よりも年上の方なので、こういう言い方をすると失礼にあたるかもしれませんが、新名さんってトンビ同様、すごく気になる存在なんです(笑)。稽古場では席が近かったこともあって、ずっとしゃべっていた記憶があります。舞台上では、いい意味で常に異質ですし、出てくるだけで劇場の空気が変わる。今回の共演者はみんなそういう人たちばかりでしたので、本当にやっていて楽しかったです。新名さんとも、もっともっとガッツリ共演したいなと思いました。

 

──そして、岩松さんとも同じステージに立つのは初めてでした。

 

勝地 これまでは役者としての岩松さんを客席から拝見していただけだったので、ようやく共演できてうれしかったです。岩松さんもすごくズルい人ですね(笑)。普通のセリフしかしゃべっていないのに面白いんですから(笑)。僕はこの舞台で第2場以降、ほとんど出ずっぱりなんですが、岩松さんがちょっと登場しただけで、お客さんの意識がそっちに向くのが分かるんです。それに、ご本人は演出もされているので、自分のシーンはほとんど稽古できていないはずなのに、本番までにしっかりと仕上げてこられて。すごいなと思う半面、怖さはないのかなと、その意味でも尊敬します。

撮影/宮川舞子

出演に関係なく、時間が許す限り、岩松の稽古を見学に行きたいです

 

──岩松さんの演出の魅力についてもお聞きしたいのですが、勝地さんと仲野さんは以前、「岩松さんの稽古はお金を払ってでも受けたい」とお話しされていました。

 

勝地 確かに言ってました。今回も夢のような時間を過ごさせていただきました。自分が演出を受けている時は目の前のことに必死なので気づかないことも多いのですが、共演者の皆さんの稽古を見ていると、岩松さんの言葉はどれも理にかなっていて、頷くことばかりなんです。また、今回よく言われたのは、「本心をあまり出しすぎないように」ということでした。人の心の内側には何かしら隠れているものがあり、それを全部お芝居で表現するのではなく、本当は隠そうとしているのについ出てしまう……そうした微妙なバランスを大事にしたいと。「“僕はいま、こういう感情です”というのがすべてお客さんに分かってしまうのは、もったいない」ともおっしゃっていて、なるほどなぁと思いましたね。

 

──でも、それを表現するのは大変そうですね。

 

勝地 そうなんです。役者って、“これ、お客さんにちゃんと伝わっているかな……?”って不安に感じると、分かりやすい表現をしてしまいがちですし、それに何度も稽古や本番を重ねていると、無意識のうちに動きが大きくなってしまいますから。でも、そのたびに岩松さんはすぐ注意をしてくださり、不安を取り除いてくれるので、それが自信にもつながっていって。こうした経験も含めて、改めてこの舞台ができてよかったなと思いました。これからは作品に出演するしないに関係なく、時間がある時は岩松さんの稽古場に行って、ずっと見学していたいぐらいです。「勝地、お前じゃまだなぁ〜」って言われるかもしれませんけど(笑)。

 

──そういえば、岩松さんの稽古場は役者が質問しづらい緊張感に包まれているという話を伺ったことがあるのですが、今回はいかがでしたか?

 

勝地 「台本のこのセリフはどういう意味ですか?」といった質問をすることはなかったです。というよりも、覚えるセリフの量が膨大すぎて、質問する余裕がなかったです(苦笑)。ただ、稽古初日に台本の読み合わせがあり、まだ途中までしか出来ていなかったこともあって、読み合わせ後に岩松さんから、「この先、どうなるか知りたい?」と聞かれたことがあったんですね。その時、共演者全員が思わず無言で目を合わせて、なんとな〜く空気的に「……いえ、だ、大丈夫です」と答えたら、「そうだよね。まぁだいたい分かるよね」って言われて。次の瞬間、全員が「いや、全っ然分かんないです!」って顔をしてましたね(笑)。結局、台本が完成しても分からないところが多かったので、ときどき太賀と2人で稽古場に残って、「ここは多分、こういうことだよね」って物語を読み解いてました。

撮影/宮川舞子

思い出の詰まったコクーンにいたからこそ、勇気を出せた気がします

 

──では、今作のタイトルにかけて、勝地さんが最近、“いのち知らずだったなぁ”という行動を取ってしまったことはありますか?

 

勝地 なにかあったかなぁ……。最近ではありませんが、やはり今回、自分から岩松さんに企画を持ちかけたのはいのち知らずなことだったかもしれないです。僕にとってはすごく勇気のいる行動でしたし、昔、岩松さんがとても厳しい方だったという話を聞くと、特にそう思いますね(笑)。

 

──でも、なぜ今回はそうした勇気を出せたのでしょう?

 

勝地 先ほど『空ばかり見ていた』の公演がきっかけだったという話をしましたが、あの作品は劇場がシアターコクーンで、僕の中でコクーンは蜷川さんとの思い出がたくさん詰まった場所なんです。ですから、楽屋にいると、“もう、蜷川さんはいないんだなぁ”という気持ちになってしまって。最後に会話を交わしたのもコクーンでしたし、その時、「僕はまだ、蜷川さんの演出でシェイクスピア作品に出ていないんです」「いつか絶対に出たいです」とお伝えしたら、「うん、いつかやろうな」って握手をしてくれたんですよね。でも、それが叶わなかったこともあり、だからこそ『空ばかり見ていた』でコクーンにいた時に、“やりたいと思ったことは自分から動かないとダメだ!”と、思い切った行動が取れたんだと思います。

 

──最後に、このGet Navi webがモノマガジンのサイトということで、勝地さんの稽古場での必需品を教えていただけますか?

 

勝地 必需品とは少し違いますが、『いのち知らず』の稽古場ではTシャツにこだわっていました。というのも、共演者の皆さんがこぞって個性あふれるかわいいTシャツを着ていて。光石さんも地元の方言が書かれたものをよく着ていたので、僕もザ・ドリフターズのTシャツばかりを着ていましたね(笑)。稽古の直前に、ドラマ『志村けんとドリフの大爆笑物語』の撮影があり、そこで番組のTシャツを大量にいただいたんです。最初は偶然稽古場に着ていっただけだったんですが、いつの間にか験担ぎみたいなっていて、最後まで貫き通しました(笑)。

 

撮影/渡部孝弘

舞台 M&Oplaysプロデュース「いのち知らず」
CS衛星劇場 2022年2月27日(日)後 2・00よりテレビ初放送!

【舞台 M&Oplaysプロデュース「いのち知らず」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
作・演出:岩松 了
出演:勝地 涼、仲野太賀、新名基浩、岩松 了、光石 研

(STORY)
親友同士のロク(勝地涼)とシド(仲野太賀)は、いつか2人でガソリンスタンドを経営するという夢を叶えるため、山奥にある施設で門番の仕事をしていた。ところが、先輩であるモオリ(光石研)に「ここでは死んだ人間を生き返らせる研究をしている」と聞かされたことから、2人の心の中に言いようのない不穏な空気が流れ始めていく。さらにはトンビ(新名基弘)という男の出現や、施設長の部下・安西(岩松了)の存在が、彼らの友情に少しずつ亀裂をもたらしていくのだった……。

 

●取材・文/倉田モトキ