とかく「汚い場所」と思われがちなトイレだが、人間にとって欠かすことのできない存在で、唯一、人が完全に一人になれる空間だ。店舗などでは「トイレが清潔=きちんとした店である」といった印象を与える一方、密室という特殊な状況もあってか、トイレにはその店の主張や取り組みなどが反映されることがある。
そういった日本の個性的なトイレばかりを紹介した本が「ニッポンのトイレほか」(アスペクト刊)だ。水槽のなかにあるトイレ、スキーのジャンプ台を模したトイレなど、同書で紹介しているトイレは見ているだけで面白い。どうしてこのようなトイレができたのか? そして、著者はなぜトイレの取材を思い立ったのか? この本の著者であり、「トイレハンター」として10年以上活動しているマリトモさんに、素晴しきトイレの世界をガイドしてもらおう!
【ガイドしてくれるのはこの人!】
マリトモさん
大阪生まれのフリーランスライター。映像製作プロダクションのアシスタントディレクターとして従事した後、Webサイトの企画・ディレクションやマーケティング、デザイン業務のほか、ライター、カメラマンとしても活動すること15年。そのかたわら、トイレ空間に興味を抱き続け、10年以上の歳月をかけて全国各地に点在する300カ所以上のトイレを独自取材。現在は“トイレハンター” や“トイレ評論家” として各メディアにて活躍中。著書に「ニッポンのトイレほか」がある。
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「大」をした企業からなぜか内定が……
ーーまずは、マリトモさんがトイレにハマったきっかけを教えてください。
マリトモ 子どもの頃からトイレの夢を頻繁に見ることが多く、「何故なんだろう?と」不思議に感じていました。大人になってから、転職をする度に面接の前に緊張してなのか、訪れた会社のトイレで無意識に大の方をするようになりまして(笑)。結果的に大をした企業からは内定をいただけたので、「もしかしたらトイレで運がつくのかもしれない!」と次第に思うようになり、トイレ空間への関心がどんどん高まっていきました。
ーーとはいえ、ここまでトイレにこだわるというのは、よほどの思いがないとできそうにないのですが……。
マリトモ トイレという場所は、老若男女の誰もが一日に何度も利用する場所。せわしないこの世の中で、唯一ひとりきりになれる空間でありながら、排泄という本能を満たすことができる、いわば「究極のプライベート空間」です。ときには、お店のトイレだとメッセージ性が込められていたり、地域によって特色があったり、施設やお店の取り組みがあったり。経済状況なども明確に反映されているので、様々なトイレを取材していると常に新しい発見があって非常に面白いです。
「一歩前へ」の貼り紙を女子は知らない
ーー男性用、女性用の違いに関してはいかがでしょうか。
マリトモ 女子トイレが広くて豪華な作りに対して、男子トイレは狭く個室トイレの数が圧倒的に少ないのが現状です。互いのトイレについて、当たり前のようにあるものを知らないという点も面白い。例えば、男子トイレにしかない「一歩前へ」という張り紙の存在を女子は知らないし、女子トイレにはナプキンや油取り紙、ハンドクリームなど、色々なアイテムが置いてあるのを男子は知らないんです。また、化粧直しをするのは女子だけだと思う人もいるかもしれませんが、意外に身だしなみのチェックに時間をかける男性もいる。過去の取材では、トイレが空くのを待つために15分ほど外で待ったこともありました。
松や竹が植えられた庭園トイレもある
ーーでは、マリトモさんが厳選した個性的なトイレをいくつかご紹介ください。
マリトモ まずはじめに、「これは豪華だ!」と感じたトイレを。福井県・越前市にある「レスト有情」というレストランのトイレです。7つあるトイレがすべて異なる作りの庭園仕様になっていて、それぞれのコンセプトで「竹軒(ちくけん)」「緑陰(りょくいん)」といった名前がつけられています。松や竹が植えられ、灯籠が置かれていて風情があるので、利用者がついつい長居しすぎるらしいですよ。
「目黒雅叙園」旧館にある80年以上前の花嫁トイレ
ーー続いてこちらは、何やら変わった構図のトイレですね。
マリトモ 東京にある「目黒雅叙園」は、トイレの中に川が流れていて、橋を渡った先にトイレがあります。 橋も壁も扉も全て朱塗りで螺鈿細工の模様が施され、天井には金箔を施された画が描かれている。「昭和の竜宮城」と言われるのも納得の豪華ぶりです。また、一般公開されていない旧館にある80年以上も前に作られたトイレは、4畳半もある和式便所。目黒雅叙園の方いわく、花嫁がその衣装を持ち上げてくれるお付きの人と一緒に利用していたのではないかとのことです。
トイレでスキージャンプ選手の気分になれる?
ーー奥ゆかしいトイレが続きましたが、「これは斬新!」と思ったものはありますか?
マリトモ アイデアに富んでいると思ったトイレは、長野県の「斑尾高原スキー場」にある男性用と女性用のそれぞれ一室にあるトイレです。長野五輪のスキージャンプ台からの風景を捉えた写真を四方八方に貼り、 さらに足下にはスキー板の写真まで貼っていて、標高差136mの最大斜度37.5度をリアルに再現。現実のものではないとはいえ、高所恐怖症の方は怖いかもしれません。
個性的なトイレはまだまだ沢山あります。次回も引き続き、マリトモさんに斬新かつ奥深いトイレの世界をご案内してもらいましょう。お楽しみに!
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アスペクト/1000円(税抜)