どっしりとしたうまみがあり、寒ければ寒いほど燗がうまい!
日本酒が持つ、大きな楽しみが「燗」である。そして、今回紹介する「喜正 純米酒」は、燗がたまらなくうまい酒だ。それも、寒ければ寒いほどうまくなる。
たとえば電車が遅れ、寒風が吹き付けるホームで散々待たされたあと。燗をつけてコレを飲(や)ると最高だ。
まず熱いうまみのカタマリが脳天を打ち、ほわほわとノドを下っていく間に、ふくよかな酸味が口中を漂う。うまい。ほうっとため息が出るような味だ。
コシの弱い酒だと、こうはいかない。どっしりしたうまみがあるからこそ、燗のうまさが際立つのだ。
東京2大巨頭「はせがわ」と「マチダヤ」が認めた味
そんな「喜正」のふるさとは、なんと東京。だが、ヒップホップ育ちではないし、悪そうなヤツが友達だったりもしない。
蔵元の所在地は、あきる野市の戸倉。都心とは遠く離れた秋川渓谷の入口に位置する。
秋川渓谷といえば、春はムラサキツツジや桜が咲き乱れ、初夏は新緑、秋には燃えるような紅葉が楽しめる、自然豊かな地。都民が憩うバーベキュー・キャンプのメッカとしても有名だ。
そんな風光明媚の地にあって、より恵まれた環境にあるのが「喜正」の蔵元、野﨑酒造だ。
特筆すべきは水の良さ。蔵の正面の戸倉城山から湧く伏流水はやや軟水で、酒の品質を劣化させる鉄分やマンガンが少なく、酒造りに最適なのだという。この水は、古くから戸倉の人々の生活用水として使われ、現在でも大切に維持管理されているそうだ。
そんな清らかな水を使い、都心より3~4℃は気温が低いという冷涼な気候のなか、少量生産で丁寧に醸したのが「喜正」なのだ。
その味のよさは折り紙つき。全国新酒鑑評会では平成23年から26年まで4年連続で金賞に輝き、東京地酒店の2大巨頭、「はせがわ酒店」と「味ノマチダヤ」が揃って取り扱うことからも、その実力の高さをうかがい知ることができる。
「東京の酒」といえば、水質の悪さを懸念する声もあろうが、そのイメージだけで敬遠してしまうのは、あまりにも惜しい。逆にいえば、この酒を知っているだけで、一目を置くに値するわけだ。
たとえば居酒屋で過ごすとき、背後で「喜正ちょうだい…」の声を聞いたなら、私は背中で「やるな」と思い、ひとつ杯をあおるだろう。「喜正」とは、そんな酒である。
【日本酒データ】
喜正 純米酒
アルコール度 15~16度
日本酒度 +2
酸度 1.6
原料米 美山錦
精米歩合 60%
小売価格 1800ml:2376円/720ml:1188円