家電とオカルト。それぞれのフィールドのトップランナーふたりが顔を合わせる謎対談が実現した。
主役のひとりは、2002年に『TVチャンピオン』のスーパー家電通選手権で優勝し、実践的な方法でさまざまな家電を紹介し、最新情報を発信し続けている中村剛さん。14万人以上のフォロワーを誇る「くらしのラボ」の監修を務めながら、YouTubeチャンネルにも200本以上の動画をアップしている。GetNavi webにも数回にわたってコラボ記事という形で協力していただいた。まさに“家電王”というニックネームがふさわしい人物だ。
対談のお相手は、1979年創刊の月刊誌『ムー』の5代目編集長を務める“オカルト王”三上丈晴さん。最近はテレビやYouTubeをはじめ、さまざまな媒体での活躍が目立っている。書籍はもちろんアパレル、ファッション小物まで関連グッズを幅広く展開する『ムー』は、現代日本のサブカルチャーにおけるアイコン的存在と呼ぶにふさわしいだろう。
家電とオカルト、それぞれのジャンルで“王”と形容される中村剛氏と三上丈晴氏。お二人による対談。今回は【VR】をテーマに話を進めていただいた。
【過去の記事も「ムー」ワールド全開です!】
オカルトと家電はつながっていた!?『月刊ムー』編集長と家電王の異色対談がトンデモなかった!
2032年に人類滅亡!? とんでもない予言まで飛び出した家電王×オカルト王対談
過去は変わる? 時間は同時に存在している?
——映画『マトリックス:レザレクションズ』で描かれているような世界こそがリアリティである、という声があります。テクノロジーはリアリティを創出できるほど性能が上がったのでしょうか?
オカルト王 リアリティはテクノロジーの概念を超えるのかもしれません。量子コンピューター(※1)などは特にそうでしょう。「掃除機はこういう形をしていなければならない」という絶対的な概念すらもなくなりつつあると思います。
家電王 量子コンピューターに関しては、量子もつれ(※2)の2つの粒子間書き換えの実験なども行われていますね。
オカルト王 二重スリット実験(※3)などを考えると、過去さえ変わってしまうことになります。過去は変わらないというのが、因果関係の前提のはずです。
(※1)量子コンピューター:量子力学の現象を用いて、従来のものとは比較にならないほど膨大な計算ができるコンピューター
(※2)量子もつれ:量子多体系において現れる、古典確率では説明できない相関やそれに関わる現象
(※3)二重スリット実験:粒子と波動の二重性を典型的に示す実験
家電王 時間は「起承転結」という並びではなくて、同時に存在しているのです。
——階層状になっているということですか?
オカルト王 多世界解釈ではそうですね。もう、人間には理解できないところまでいっています。
家電王 何が起きているのかわからないのです。アインシュタインの相対性理論では、光の速度を超えるものは存在しないことになっています。量子もつれのようなものは、一度もつれたらどんなに離れても一方の性質がもう一方に反映されることはありません。光速を超えたところで起きる現象が何なのか、まだよくわからないのです。
オカルト王 量子もつれは、どんな実験を通してでも正しい現象であることが確認されています。だから、事実として過去が変わってしまうのです。
人間の意識はコピーできる!?
——VRの世界について聞かせてください。現在はゲームを中心としたエンターテイメントが主軸となっていますが、今後どのような分野に広がっていくでしょうか?
家電王 パンデミックによって非接触社会のようなものが強要されました。ただ、テレワークやオンライン会議でストレスがたまることも事実です。作業効率も考えなければなりません。そこでVR技術が発展して、例えばホログラムによって実際に会っているのと変わらないような状況が創出できるところまでいけば、リアルかテレワークかは関係なくなります。まだまだ先は長いでしょうが、そういう方向を目指す動きはあると思います。
VRの良さを感じている人たちはたくさんいます。本を読むのも、スマホや電子書籍端末だと実体験としてはちょっと面倒くさかったり違和感があったりするのですが、VR上であたかも手でページをめくる感覚が得られるのなら、まあいいかという気持ちになるでしょう。
オカルト王 確かにスマホや電子書籍端末だと、時間が経つとめくる動作を面倒くさく感じてしまいます(笑)。
家電王 『スタートレック』など、過去のSF作品ではこうしたことがリアルに描かれていますね。現在すでにあるものでいえば、実際に触れてはいないのに触感があるディスプレイなどです。指に空気を当てて、触感を創出するタイプですね。指に空気を当てるのか、それとも脳に働きかけて誤解させるのか。どちらかの方向にいくのではないでしょうか。
——内閣府が発表したムーンショット目標(※4)に「人が身体・脳・空間・時間の制約から解放された社会の実現」という項目があります。これをムー的視点から裏読みしてください。
(※4)ムーンショット目標:「人々の幸福(Human Well-being)」の実現を目指し、掲げられた。将来の社会課題を解決するために、人々の幸福で豊かな暮らしの基盤となる「社会」・「環境」・「経済」の領域から、具体的な9つの目標を決定。
オカルト王 今の技術が目指しているレベルがあって、その延長線上にある「先」がすで見えているのです。先が見えていて、どうやってもその方向に進むのであれば、目標にしてしまおうということでしょう。逆説的な発想だと思いますね。
文章は軽くてSFチックだけれども、これは倫理的というより哲学的な意味合いで、大きな問題だと思います。あえて言いますが、たとえば脳死は人の死なのかという根本的な問題があります。身体が生きていて脳が死んでいる状態は人の死なのか。それと全く同じ種類の問題に直面するのではないでしょうか。ムーンショット目標では“身体から解放される”と書かれていますよね。記憶が50テラバイトあればいいとか、100テラバイトあれば人生のすべての体験が記録できるとか……。そういう意味合いが読み取れます。
家電王 それが可能なら、人工知能も意識を持つということになりますね。
オカルト王 だとすれば、コピーが可能であるということです。まったく同じ性質のものが2つできるのです。それに、改ざんもできます。人の記憶を改ざんしたら、大変なことになると思います。人間とは何かという問題にもつながっていくでしょう。すでに、刑務所などでも実際に死刑に処するのではなく、死ぬことを体験させればいいのではないかという話が出ています。
自分という存在であると思っている自我と身体は違うので、自殺は殺人行為になると思います。幽体離脱した時はどちらが本当の自分なのか(笑)。こういう哲学的命題をきちんと整理していかなければなりません。オカルトとか言っている場合ではないのです。
家電王 確かにオカルトではないですね。オカルトの範疇を突き詰めていくとテクノロジーにつながると思います。
オカルト王 何らかのモデリングが可能になった、ある種良い時代が来たということなのでしょう。10年、20年前はちょっと難しかったのですが、現在は違います。「人の生まれ変わり」を例に出すと、データを取り出してそれを赤ん坊の脳に植え付ければ、その子の前世はこの人だったと思うといったことも想起できます。このようなモデルは誰でも簡単にイメージできるでしょう。
VRテクノロジーが進化すると家から出なくなる?
——家電をテーマにしたVRテクノロジーの関わり合いと変遷についてお話しいただけますか?
家電王 いわゆる家事家電のような、制御する性質の装置にVRは向かないと思います。やる理由もあまりないでしょう。家の掃除うんぬんといったことはロボットに任せていく方向にです。ですので、VRと親和性が高いのはやはりエンターテイメントなのかなと思います。
エンタメ系とか体感系アクティビティは、外でやるのと同じことを家でもできる方向性で、VRテクノロジーが進むかもしれません。それに、ミーティングなど人と会うことがよりリアリティに近づくのであれば、そちらの方向性も考えらえれるかもしれません。
——イーロン・マスク氏が展開するニューラリンク社は、脳を直接的な形で包み込むような装置を開発しているようですが、こうした装置が与えるかもしれない影響についてお話しください。
オカルト王 仕組みがわからないですね。剣山みたいなものをブスっと脳に直接電極を刺すのか。そうした仕組みであれば、例えば視力を獲得することは可能ですね。となると、何か別の機器とつなげることができるようになるので、Wi-Fiとの接続も可能になるでしょう。
家電王 もしかしたら、いずれはそうなるかもしれません。
オカルト王 写真を見せながら脳波を測定してパターン認識させていって、何を見たかということを脳波だけでモニタリングすることもできますね。例えば、象の写真を認識させるというものです。ということは、寝ている人の脳波を測定すれば、どんな夢を見ているのかもわかるようになります。さらには相手が考えていることもわかってしまいます。
家電王 ある意味、テレパシーのようなものですね。
——ウェアラブル装置という視点から考えて、ゴーグルのさらなる改良に対する個人的なご期待・ご希望についてお聞かせください。
家電王 どうしても、まだ大きいですよね。ただ、少し前に新型のメガネ型実機も発表されましたし、今後はメガネ型になっていくでしょう。
オカルト王 スイミングに使うゴーグルくらいのサイズ感ですかね。
家電王 いずれはコンタクトレンズのようになるかもしれません。
オカルト王 目をつぶるだけでよくなりますね。VRテクノロジーが進化すると、家から出なくなるでしょう。自分の部屋からも出ないかもしれない(笑)。
家電王 コンテンツも大量にありますからね。
——VRテクノロジーの延長線上にあるものとしてトランスヒューマニズム(※5)を思い浮かべてしまうのですが、そのあたりはいかがでしょうか?
(※5)トランスヒューマニズム:新しい科学技術を用い、人間の身体と認知能力を進化させ、人間の状況を前例の無い形で向上させようという思想
オカルト王 イメージしたものは何でも実現してしまう世界になってきていると感じています。ただ、想像力にも限界はあります。
家電王 まだ想像できていない部分があるということなのでしょう。
テクノロジーの進化の先にあるもの
——ムーンショット目標やVRテクノロジーの進化。未来の人間はどんな姿になるのでしょうか?
オカルト王 身体が華奢になるとか、宇宙人っぽくなるとかさまざま言われていますね。最終的には個人の問題になると思います。記憶とかそういうものをシェアすると、個人という概念がなくなっていく気がしますね。意識の集合体みたいなものになるんじゃないでしょうか。
家電王 本当の意味で精神がつながっているわけではありませんが、今の情報の集合とか共有とかはそれに近いと思います。口コミなどを通して誰かほかの人の経験値を聞くこともできます。
オカルト王 たとえば、達人のスキルをダウンロードするとか。
家電王 誰でもハイスペックになることができます。eスポーツの世界はまさしくそうなっていいて、サッカーでも野球でも子どものころは神童と言われても、身長が足りないなど肉体的に恵まれなかった場合には諦めざるを得ない人がたくさんいます。ただ、反射神経が優れていたり、戦略についての知識が豊富だったりする人は、eスポーツの世界に行けばいきなり活躍できるでしょう。
——今後の家電の進化で、VR級のインパクトがあるものは現れるでしょうか?
家電王 VR級のインパクトを持つものは、すべての人が製品という形で欲しいものではないかもしれません。たとえばテレワークのようなインフラとして入ってくる部分で、行う場あるいは情報の保管方法といった方向性で生まれる家電はあるかもしれません。しかし、どんな家電によってどんなインパクトがもたらされるかとなると、正直言って具体的なイメージは思い浮かびません。
家事を楽にするとか仕事をやるとか、方法論は自動化という方向性で進んで行くと思います。職業でいえば弁護士など、判例をたくさん覚えて必要な時に引き出すといったことは機械のほうが得意です。データから見る役割はすべて任せたほうがいいかもしれません。
——将来は、漠然と怖いものですか?
オカルト王 将来については、ちょっと悲観的になっています。ディストピアにいくのかな…。この世のこだわりを失くしていくと、すべて満たされてしまうので、つまらなくなりますね。これ以上何を望もうというのか、ということになるでしょう。
家電王 楽に暮らすことがゴールでは決してなくて、刺激も欲しいし、同じことをしていても今日と明日の気分はおそらく違うし、昨日とも違うし、人間の気持ちというものは浮き沈みがあるし、達成感が欲しくなったりしますね。
オカルト王 辛いことをあえてやりたくなるんじゃないでしょうか?
テクノロジーの進歩と陰謀論は表裏一体なのか。それについて断言できるまでの材料は、まだ出揃っていないようだ。ただ、オカルトとテクノロジーのギャップは想像するほど大きくなく、時代が進むに従ってむしろ加速度的に狭まり、完全に重なる部分の面積が広くなっていくのかもしれない。今回の対談に同席した者として、そんな思いを抱いている。
(取材・執筆:宇佐和通/撮影:中田悟)